第5話 お兄さんと過去
第六話を投稿したのですが、誤って消してしまいました。そしてそのまま完結となってしまい…
なので、こちらの話に盛り込もうと思います。
ご了承ください。
――あの日。
お兄さんと出会った日。私は道路に寝っ転がってた。
ううん、寝っ転がってたっていうのは、ちょっとというか、なんというか、違う。倒れてたんだ。
あの日は、ちょっと「躾」が多かったんだ。
――ん? 「躾」って何か、だって?
うるさいからって、殴ったり、蹴ったり、刃物持ち出したり………
そういうのだよ。
“あの日”は特に、酷かった。
私が生まれた頃に出て行ってしまったらしいお母さんと再婚できそうだったのに、私を理由に断られたからだと思う。
私に「躾」をしている最中に言っていた言葉を繋ぎ合わせると、そうなるからね。
自業自得じゃん。
だって、私が死んでるってお母さんにお父さんが言ったんだから。
それを理由に断られてもしょうがないと思う。
でも、お父さんは普段通りじゃなかったから。
普段だったら、お父さんも冷静な判断ができていただろうに。
……とにかく、やられにやられまくった。
その結果、服で隠せない部分まで傷ができてて、あ、もうこれ病院行かないと死ぬな、って思った。
だから、家から抜け出して、病院に行こうと思ってたんだけど……
途中で力尽きて、運悪く……というか、傷があまり人に見られないように人通りが少ない場所を選んで歩いていたから、人が全く通らない場所に倒れた。
運良く、お兄さんが通ってくれなかったら、死んでただろう。
まぁ、帽子を目深に被って、全身真っ黒の服だったから、格好だけは完全に不審者だったけど。
怪我の手当をしてくれているお兄さんを見て、あ、同類かも、って思った。
対処が適切かつ素早かったから。
私はもう、お兄さんの暖かさを知って、抜け出せなかった。
あそこに、あんなお父さんのところに、帰りたくなかった。
だから、ああ言った。
「……これから、よろしくおねがいします。
………“誘拐犯”さん。」
お兄さんに、ああ言ったんだ。
優しいお兄さんに、わざと罪悪感を抱かせるために。
ああ、私ってダメな子だなぁ。
ごめんなさい。ごめんなさい、お兄さん。
本当に、ごめんなさいーー
✕✕✕
「お兄さん、提案があります!」
あの、部屋から出ようとして発作のような症状がでてしまった日から数日。
私はおにいさんといっしょなら部屋の外に出られるようになりました。
「…提案?」
画面越し……ではなく、ちゃんと面と向かって話せるようになりました。
というか、お願いにお願いしまくって、半ば無理やり現実であえるようにしました。
お兄さんは、いわゆる「コミュ障」というやつらしく、返答がいつも遅いですが、きっちり返してくれるので、大好きです。
「……提案って?」
っと、そうそう、提案の話でしたっけ。
「ちょっと暇つぶしにゲームをしようと思いまして。」
そう、これはただの暇つぶし。
「………嫌な予感しかしないけど……どんなゲーム?」
「…私を、お父さんや、警察から守ってください、お兄さん。
私とお兄さんの、この幸せを、壊させないでください。」
そう、これはただの暇つぶし。だけど、お兄さんのそばから離れたくないと、そう思う私の願望から作った、ゲームだ。
「……幸せを、か。」
思わず、というふうにお兄さんがつぶやきます。
そう、もう、あんなところが、幸せだとは思わない。私の幸せは、お兄さんのそばにある。
「……もし。花梨がお父さんに捕まったら?」
「それは、もう死ぬしかありませんね。」
「……っ!」
淡々と、そう告げる。
お父さんのところに戻るくらいなら、おにいさんのそばから離れないといけなるくらいなら、死んだほうがマシだ。
というか、お父さんのところに戻っちゃったら、発作を起こして、うるさいと殴られて、発作が激しくなって、放置されて、やがて呼吸困難で死んでしまうだろう。
そのことをお兄さんに告げる。
「…ずるいなぁ、そんなことを言われたら、断れねぇじゃん。」
お兄さんが、苦笑する。
「…せいぜい守ってみせますよ。」
その言葉に、私は事件後教えてもらった名前を口にする。
「よろしくおねがいしますね? 桜牙さん。」
「……おふぇ、名前をいきなり呼ぶな…」
「あはは。」
ーーこれは、暇つぶしとしてしりとりをすることを提案した少女と、少女を誘拐した誘拐犯の物語である。