第1話 誘拐犯さん→お兄さん
「誘拐犯さん〜暇です〜。」
私、桜華 花梨は誘拐されています。
手足も自由ですし、頼めば色々貰えます。しかも、結構綺麗な部屋の中ですし、ベッドとか生活に必要なものは置いてあるみたいです。
犯人さんとは机の上のタブレットの電話で会話しています。
誘拐されて三日が経ったのですが、限界がきました。
暇です。
むちゃくちゃ暇です。
なんにもすることないですし、犯人さんはいつも話せるわけではないですし。
なので、素直に暇だと言ってみました。
『………………僕はどうすればいいの?』
犯人さん―――若い男の人の声がします。
「んー、そうですねぇ。
…………………あ、しりとりしましょう!!」
『はい? はぁ……………君って本当に……』
犯人さんがため息をついています。
「なんですか?」
『いや、なんでもないんだけどね…………
ちょっと突飛すぎて驚いたとかそんな感じだから。』
??
まあいいです。
とりあえず、この退屈をしのげればいいので!
「じゃ、私から。
りんご!」
『………ごま。』
「鞠!」
『…………渋いとこ行くな………
…………りす。』
「雀!」
『…メダカ。』
「カラス!」
『……鱸。』
「……………なんですか、それ?」
『……魚だよ、普通の。』
「じゃあ、鱚! これも魚ですよね〜。」
『……うん、まぁ、そうだね。…酢飯。』
「シラス!」
『…また魚………加工食品だけど……
それに、す? ネタ切れしてきたなぁ……
……んー、鈴?』
「じゃあ、ズッキーニで!」
――
―――
『………………もうやめない?』
誘拐犯さんの……こう言うとなんか少しかわいそう、というか、こんなに遊びに付き合ってくれた人に失礼ですよね。……じゃあ、お兄さん、とでも呼びましょうか。
「…………いやですよー、お兄さん。」
『…………え? …………なんか誘拐犯さんからお兄さんにランクアップしてる?』
「だって、こんなに遊びに付き合ってくれたんですよ? 失礼かなー、と。」
えへん! と、胸を張る。
『………まぁ呼び方はどうでもいいけど。』
むー。お礼になるかと思ったんですが、どうでもいいことだったようです。
…………
もういいですかね……
わたしはこの三日間、我慢しました。でも、もう我慢の限界です!
――ガチャッ
意を決して、扉を開けます。
お兄さんからダメとは言われておりませんし、私が出たくなかったから出なかっただけですし。
というか、誘拐というより保護? ですからね。
私の希望で警察とかに連絡してないだけで。
私の体は、包帯だらけです。
切り傷、刺し傷、打撲でできた腫れ、などなど。さまざまな傷が体のいたるところにあります。お兄さんは、こんな私を、助けてくれたんです。
保護してくれた日を思い返し、私は笑った。