3-美月 独り考え事
「これより、高速バスは高速道へ乗ります。今一度、シートベルトのご確認をしてくださいますよう、お願いします。」
運転手の声がけで、乗客はシートベルトをし始めた。
私たちは隣同士に座った。優斗君は何度か高速バスを利用したことがあるようで、
「席が空いていたら、別々に離れて座った方が狭くないよね。」
と言って、最初は通路を挟んで離れて座っていた。
彼が私のことを嫌っているからとかじゃなく、多分、彼なりに私を気遣ってくれたのだろう。
大きい荷物となるアタッシュケースは、運転手さんに頼んでバスの下の荷物のトランクに積んでもらったが、リュックには財布やら、化粧ポーチやら、貴重品が入っているのでそのまま背負ってきた。
優斗君が隣の席を開けてくれたおかげで、そのリュックを座席に置く事ができた。
しかし、今は8月。
これからお盆に入るということもあってか、停留所に留まる度、次第に乗客が増えてきた。
そもそも予約制のバスなので、席は決まっているし、当然今から変更はできない。
そのうち、優斗君の座っている席を予約していた方が現れて、結局隣の席に戻ってきた。
私はリュックを抱えて持つことにした。ちなみに、上の荷物棚にはリュックが大きすげて入らなかった。
7日間分の荷物があるのだから、正直言って狭さは感じる。
でも私は、今日の彼なら隣でいいと思っていた。学校での彼が嫌いな訳じゃ無い。ただ、前髪とメガネが外された彼は、今までより、話しかけやすい雰囲気になっていた。
もしかしたら、顔で判断してると思われるだろか。
そうだとしたら。いいや、自分でもそういう気持ちが少しあるような気がする事を否めない自分が、我ながら最低だと思った。
でも、「離れて座るね。」と彼が言ったとき、ちょっと残念だなー。なんて・・・・・
前言撤回‼︎‼︎
なんか隣だとすっごいドキドキするんですけど?なんで?
肩が触れ合う距離にいるから?
なんかいい匂いするんですけど‼︎⁉︎
わー。何緊張しているんだろう‼︎私‼︎
あ、そういえば優斗君、上のシャツ脱いで半袖になったんだ。
‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎⁉︎⁇⁇⁇‼︎‼︎‼︎⁇
腕‼︎血管浮き出てる‼︎
ていうか、結構筋肉あるんだね…
なんか陰キャの、勝手なイメージと違う…!!
思ったより逞しい気が…⁉︎
つーか変に意識しちゃうの何これ⁉︎この血管出てる感じ、なんかえっちくない⁉︎ これ⁉︎ 分かる人いないかなー?
・・・・・やばい。相当キモい事考えてるな私。
ハッと我に返った私は、自分で自分が恥ずかしくなり、視線をスマホに映して意識を逸らす。
彼氏いない=年齢の私にとって、これはちょっと刺激が強かった。
そもそも、男子と話すことが苦手ではないけど少ない私にとって、こんな密着することなんて無いし。(←言うほど密着してない。)
なんでこんなに鼓動が高まるのだろうか。もしかして、普段の学校の優斗君とのギャップにやられたのかな?
って‼︎ 何やられちゃった前提で考えているの‼︎私‼︎
違う。違う。自分がウブなのは自分が一番分かっている。
この高鳴りは、多分、恋のドキドキじゃなくて、緊張しているだけなんだ。そうそう。そう言うことにしておこう。
あー。。変な思考が独り歩きしたせいで、身体がアツい。
ん。⁉︎
あっ!そう言えば、今撮影してるんだった!
座席の後ろに付いている、飲み物とかを置く小さい机の上にビデオを置いているのを完全に忘れていた。
うーわ。顔真っ赤だったらどうしよう。。。
撮られていると思うと、なおさら恥ずかしい。
とにかく、この変にうるさいドキドキを落ち着かせなければ‼︎
スマホにイヤホンを繋いで、今ハマっているバンドの曲のプレイリストを開き聴き始める。
ノリのいい曲なのに、自然と落ち着いてきた。やっぱりいつも通りの事をするのは良い。
カタカタと小さく心地よく、眠りを誘う揺れるバス。そして、4時起きで朝早かったからなのか、いつのまにか眠りについてしまった。
男性に免疫のない彼女の顔は、距離と匂いと二の腕だけで、真っ赤っかです。