1-美月 1日目の朝
ここから7日間同棲の話が始まると思ってください。
「ちゃんと撮れてるかな…」
機械音痴ではないけれど、ビデオカメラなんていじったことのない私は少し不安だった。
今の時刻は朝の5:40。8月真っ只中とはいえ、まだ日が昇りきっていないこの時間は涼しく感じる。
バス停のある駅に向かいながら、これから先のことを考えて、頭が一杯だった。
「―一応オシャレだよね……?」もう家を出たというのに、今更自分の服装を確認する。
好きでもない人とは言え、男の人との、いわゆるデートのようなものに近いのだから、ちょっとお洒落にしてきたつもりだ。
わざわざクローゼットの奥から引っ張り出してきた、白いワンピースは、今になってちょっと恥ずかしい。
でもこれは私がほんの少しの努力をした証なのだと、自分に言い聞かせる。別に可愛いと思われたくて、着こなしてきたわけじゃないし。正直、優斗君にどう思われても構わない。
そんなことよりも、これから7日間、一体どうなっていくのだろうかという不安の方が大きかった。
そんな事を考えているうちに、気がつけば駅に着いていた。
「たしかバス停は、3番……?」
この朝早い時間帯。6時のバスを待つ人はそう多くなかった。バス停にいるのは、ベンチに座って杖を持つ年配のおじさんと、洒落た清潔感のある高身長の男性の2人。
どう考えても、優斗君はどちらの人間なのか見て分かるだろう。でもそこにいる彼は、私が知っている根暗陰キャのイメージからはかけ離れた男性がいた。
視覚ではそうと判断できていても、ここにいる優斗君と学校での優斗君とでは、まるで別人に見えて、脳内で同一人物と認識できていない。
だから、優斗君はまだバス停に来てはいないのだろうと思った。
今にでも、なんかのファッション雑誌の表紙を飾れそうなこの画を見て、私は心の中で思わずこうつぶやく。
(モデルさん……?)