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episode7 邪霊との遭遇


「よし!倒した!」



 その日は、初めて星蘭とラパンの二人だけで任務に挑んだ日だった。

 星蘭が初任務に出た日から3ヶ月が経とうとしていた。あれから怪我人が出ることはあったけれど、死者が出ることはなく、順調に任務をこなす日々を続けていた。



 経験の浅い星蘭達にあてがわれた任務なだけあって、今日戦った魔物は弱かった。



「はぁ、死ぬかと思った。

ステラー!シャトーのカフェに季節限定の栗のパンケーキ食べに行こう!」



 季節はすっかり秋になっていた。紅や黄に染まった葉が冷たい風に舞う。



「そうだね。ラパン、ずっと楽しみにしてたもんね。」



 そう言ってラパンの方に歩み出そうとした時、星蘭は後ろから強く腕を引っ張られた。



 何が起きたのか分からなかった。

 地面が遠い。エーラを使っていないはずなのに身体が宙に浮いている。

 そして誰かが星蘭の両腕を掴んでいる。


 暑くもないのに汗が出てくるのを感じながら、星蘭は首を上げて自分を捕らえている者を見た。

 星蘭より少し年上の青年の姿。そして、これまで倒してきた魔物とは比べ物にならないほど禍々しく強力な魔力。星蘭の顔からさぁっと血の気が引いた。

――邪霊だ。



「まぁまぁそんなに暴れないでよ。君だね?ローベルと契約した魔法少女は。」



 赤い短髪、赤みが強い茶色の瞳。必死でもがく星蘭にその邪霊は軽い口調で話しかけてくる。

 

 星蘭には、邪霊に会ったら聞いてみたいことがあった。すぐに襲いかかってくる様子もないので星蘭は会話に応じることにした。



「確かに私の聖霊はローベルだけど。

……いつか邪霊に会ったら聞こうと思っていたんだけど、貴方達の目的は何なの?」



邪霊(・・)ね…まぁいいや。

オレ達の目的なら、人間の政府から聞いてるだろ?」



「人の魂を集めることって聞いてる。だけど邪霊に直接確認したかった。そんなことして何になるの?」



 邪霊はあからさまに肩をすくめる。



「別にそんなこと、知らなくてもいいだろ?君たちは人間を守りたいからオレ達を倒す。オレ達は魂が欲しいから人間を殺す。それで十分でしょ。」



「わかった。それなら質問を変える。

和解の余地はないの?

かつて魔法少女に倒された邪霊もいたって聞いた。貴方達だって地球に侵略することで多少の犠牲は出てるはず。」



 星蘭が言い終わる前にその邪霊は笑い出した。



「砂糖菓子みたいに甘い発想だけど、面白い子だね。オレにそんなこと聞いてきた魔法少女は君が初めてだよ。」



 邪霊はしばらく愉快そうに笑っていた。それから星蘭に尋ねてきた。



「君、名前は?」



「ステラ。」



「そう。オレはディルガ。

実は君のこと始末して来いって言われててさ。この前は魔物を強化してみたけど倒しちゃうし。」



「…!貴方があの魔物を!」



「あれ、空気が変わったね。そういえば誰か死んだんだっけ?」



 星蘭は怒りを抑えるため、必死で呼吸を整える。この邪霊は先輩達を殺したことすら覚えていない。彼女達の命を奪っておいて、そのことを覚えてすらいないのだ。



「誰かじゃない!ミコトさんとクレアさんだ!」



 星蘭は攻撃したい衝動を抑え、叫んだ。ディルガは表情を変えない。



「ふーん。悪いけどあのくらいで死ぬような魔法少女に興味はないよ。」



 星蘭は理解した。邪霊と和解するなど毛頭無理な話なのだ。邪霊と人間では考え方が違いすぎる。そして和解できないなら星蘭がすることは一つしかない。


 星蘭は剣を出現させ、右手で握ると、ディルガ目掛けて振り抜いた。しかし既にディルガの姿はなく、空を切っただけだった。



「今日は君を殺しに来たんだけどさ、気が変わった。ステラちゃん、ローベルとの契約、解除してよ。」



「…え?」



 星蘭の攻撃を躱したディルガは、星蘭から少し離れたところに浮いていた。エーラを出現させ、剣を構えたまま、星蘭はディルガの次の言葉を待った。



「だからさ、ステラちゃんが契約を解除すればローベルと契約した魔法少女はいなくなって、オレの仕事は終わるでしょ?戦いをやめるっていうのはそういうことだよ。

この世界はトレードオフで成り立ってるんだ。何かを選ぶことは何かを捨てること。

オレがステラちゃんの戦いをやめたいってお願いを聞く代わりに、ステラちゃんはオレの願いを聞く。それが嫌なら君は戦うしかないね。」



 確かに正論だ。邪霊も犠牲を払うことを覚悟で、地球に侵略してきているのだ。そして、魔法少女は人々を守りたい。



「そうだね。私が甘かった。

魔法少女として、貴方を倒す。」



「ふふっ、そう来なくちゃ。」



 星蘭は翼を閉じて降下し、ラパンの元へ向かった、ラパンと一緒でないと、この邪霊とは戦えない。

 理屈は分からないが肌で感じるのだ。気を抜けば一瞬で殺される。



「ステラ、無事?酷いことされてない?」



 星蘭がラパンの側に着地すると、ラパンが涙目で尋ねてきた。心から星蘭のことを心配してくれていたのだろう。



「大丈夫!何にもされてないよ!

ありがとう。ラパン。」



「ねぇ、あいつ何者なの?今まで戦ってきた魔物と魔力が桁違いなんだけど…」



 ディルガは高度を下げ、星蘭の頭より少し上のところに浮いている。



「ああ、もう一人いたんだね。初めまして。」



 ディルガはひらひらと手を振りながらラパンに話しかけている。

 ラパンの顔がますます青ざめていく。



「うわぁん、あいつ喋ってるよ。

知性があるよー!絶対邪霊じゃん!

ステラ、無理だよ!今日がわたし達の命日なんだよ!」



 ラパンが縁起でもないことを言っているが、確かに星蘭達2人ではどうしようもない。

 魔法少女管理省が増援を出してくれるまで生き延びなければならない。


 恐らくディルガは星蘭を誘き寄せるために、今日の任務の討伐対象の魔物を作ったのだろう。

 魔物を殺すことはトカゲの尻尾を切るような行為に過ぎない。結局、邪霊を殺さなければ魔物はまた創られる。

 何よりこの邪霊はミコトさんとクレアさんを殺した元凶だ。絶対に許せない。



「ラパン、私達だけじゃあの邪霊は倒せない。管理省が増援を出してくれるはずだからとにかくそれまで生き延びよう!」



「う、うん…わかった。」



 ラパンは頷いたが、声も足も震えていた。



「それじゃあ和解の道も立たれたことだしさっさと殺させてもらうね。」



 足元から魔力の流れを感じる。

 危険を感じて、星蘭はその場を飛び退いた。先程まで星蘭が立っていた場所の地面が鋭利な棘の形になっている。

 恐らく地を司る魔力。とっさに飛び退いていなければ串刺しにされていただろう。


 息つく暇もない攻撃。次々に地面から棘が生えてくる。星蘭はエーラを使って避ける。エーラを利用しての高速移動も少しずつ板についてきた。



「この短期間でよく鍛えてるね。悪くない。」



 ディルガは相変わらず宙に浮いたまま、余裕の表情を浮かべている。



「それじゃ、これはどうかな?」



 星蘭の目の前に岩壁が現れて行手を阻んだ。エーラを使えば砕けるかもしれないがそんなことをしている間に地面から生える棘に刺されて殺されてしまう。



「ラパン!」



 こちらの意図を察したラパンが星蘭の足元に盾を張ってくれた。



「ふえぇ!攻撃が重いよー!」



 ラパンの盾は地面からの棘攻撃を防いでくれた。



「エーラ・ラファル!」



 その間に星蘭は翼を叩きつけて目の前の岩を砕き、岩壁から抜け出す。



「なるほど。あっちの子は盾が張れるんだね。」



 ディルガは考える素振りを見せたが、すぐに決心したように頷いた。



「盾が鬱陶しいね。

先にあっちの子から倒そうか。ステラちゃんはコイツらと遊んでて。」



 地面に複雑な文字が円状に描かれていく。そこから石で出来た人形のような魔物が現れる。



「ラパン!」



 ラパンの危険を察して近づこうとするが、石人形の魔物に阻まれた。



「ひゃあ!無理無理無理無理!」



 星蘭が見ると、ラパンの周りに岩の壁が聳え立ち、壁の中にいるラパンを押し潰そうとしていた。

 ラパンは攻撃はできない。何度も盾を張って持ち堪えてはいるがいつまで耐えられるか。



「意外としぶといね。いつまで持つかな?

君、聖霊は大したことないけど、魔力量が高いんだね。」



「いや!魔力量なんて全然ないんで!ほんと弱いんで!」



 早くラパンを助けに行きたいが魔物が邪魔で近づけない。図体がでかいくせに意外と素早い。確実に今日倒した魔物よりも強い。



「いいねぇ!長く遊べる子は嫌いじゃないよ。」


 

 魔物のコアを砕こうとしても確実に防いでくる。身を焼くような焦りを感じながら、星蘭は考える。

 コアを砕く時間がない。このままでは星蘭が魔物を倒すよりも先にラパンが殺されてしまう。



「邪魔!」



 星蘭は翼を振って、石人形をディルガ目掛けて叩き飛ばした。



「うっわ!びっくりした!

えっ?えっ?投げたの?」


 

 ディルガは驚いた様子を見せながらも、星蘭が飛ばした魔物をひらりと躱す。

 その隙に星蘭はラパンの元へ行き、岩壁を砕いた。



「面白いなぁ。ステラちゃん。結構気に入ったかも。

……でも油断したね。上がガラ空きだよ。」



 急にあたりが暗くなった。星蘭が慌てて上を見ると、頭上に巨大な岩があって、今にも星蘭とラパンを押し潰そうとしている。



「……!ラパン!」



 星蘭は反射的にラパンを突き飛ばした。すぐに自分も逃げようとするが、巨石は目前に迫っていて、とても間に合わない。

 星蘭が岩に押し潰されることを覚悟したその時、星蘭の頭上から爆発音がした。岩の欠片が星蘭の周りに落ちたのを見て、岩が砕かれたのだと理解する。恐らく岩の破片が星蘭に当たらないように計算して岩を砕いたのだろう。


 星蘭が魔力の元を辿ると、そこには青い光を放つ本を持った魔法少女がいた。

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