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episode4 初めての任務

 一か月後。星蘭は自分の部屋で任務の知らせを待っていた。手の汗が止まらず、心臓の鼓動はいつもより速い。

 魔法少女の任務はシフト制だ。そして今日が星蘭にとって、初めての当番日だった。

 魔物の出現があれば、ローベルを通して政府からの指示が入り、交戦する。



「星蘭、魔物の出現報告が来た。すぐに出向し、魔法少女のクレア、ミコト、ラパンと共に敵を倒せ、だって。」



「いよいよだね。」



 星蘭は首にかけたフルール・ビジューを握りしめて、深く息を吐いた。


 星蘭の身体が白い光に包まれ、魔法少女ステラへと変身する。


 腰まで伸びた銀色の髪に青い瞳。白と青のワンピース。ワンピースの青いスカートの部分は、金色の星の飾りが散りばめられた透明な布で覆われている。さらに両手に白いレースの手袋を、頭に羽を摸した髪飾りを身につけている。

 それが魔法少女としての星蘭の姿だった。



「よし、行くよ!」



 星蘭は自分を焚き付けるように言った。



✴︎✴︎✴︎



 ローベルに魔法で連れられた先は知らない町の商店街だった。辺りの気配を探ると、魔物のものと思われる禍々しい気配と、2人の魔法少女の気配が感じ取れた。星蘭はすぐに気配がする方へと向かった。


 足に力を込めて跳び上がれば、低い建物なら簡単に飛び越えられる。数軒の建物を跳び越えると、大きな熊のような魔物が紫色の光の球の中で暴れているのが見えた。球の周りに紫色の鎖があり、球の中央に大きな錠前がかけられていた。


 どうやら球体の近くにいる薄紫色の髪の魔法少女が、魔法で魔物を閉じこめているようだ。その魔法少女は、桃色のリスの姿をした聖霊を連れていた。


 もう一人、緑色の短い髪の魔法少女が星蘭のそばにやってきて、声をかけてきた。白い虎の聖霊を連れたその魔法少女は、大きな槍を片手で担いで、中華ドレスのような服を着ていた。



「うっわ、本物のローベルじゃん!ちょっと感動しちゃった!

ローベルを連れてるってことはあんたがステラだね。アタシはミコト。んで、あっちの紫色の髪の子がクレア。よろしくね。」



「よろしくお願いします!」



 二人は魔法少女を始めてから二年になるそうだ。一年目で7割が死亡する魔法少女の中では長生きな方だろう。


 初任務では必ず経験豊富な魔法少女と組んで任務にあたることになっている。

 一時は初任務の前に新人の魔法少女を集めて合同訓練をしていた頃もあったそうだが、魔法少女の不足により中止になった。初心者でも魔法少女である以上、戦いの場に出てもらわなければ困る、というのが魔法少女管理省の言い分だった。


 不意にうわぁぁん、と、この場に似つかわしくない泣き声が聞こえてきた。



「やっぱり辞めとけばよかった!魔物すんごい大きいし凶暴じゃん!なんで魔法少女なんかになっちゃったんだろーーーー!」



 星蘭が驚いて声が聞こえた方を振り返ると、一人の魔法少女と聖霊がいた。うさぎの耳がついたモコモコのフードを被り、白いケープと薄ピンク色のワンピースを身につけた可愛らしい魔法少女だった。クリーム色の毛をしたうさぎの姿の聖霊が、困ったように少女の周りをうろうろしている。



「ラパンが決めたんでしょ?魔法少女になって戦うって。」



「サティナ〜。決めたけど、やっぱりいざ本番ってなると怖いじゃん!今日これから死ぬかもしれないんだよ!」



 ラパンと呼ばれた魔法少女は、涙目で聖霊に訴えている。星蘭はこの魔法少女の名前を聞いて、ローベルと契約した時にあの場にいた魔法少女だと気がついた。



「えっと、取り込み中のところ悪いけど、あんたも魔法少女だよね?」



 ミコトが困惑した様子でラパンに声をかけた。



「…はい。一応。でもわたしなんか役に立たないと思います。……というか、今日で多分死にます。」



「うわぁ、暗いね。そんなにびびんなくても、アタシもクレアもいるし、大丈夫だよ。」



「はい……」



 ラパンは気のない返事をするばかりで、ミコトの言葉はあまり届いていないようだった。



 魔物を閉じ込めているクレアが、ミコト、と呼びかけた。



「そろそろ解錠したいんだけど大丈夫?住民を避難させる時間は稼いだし、コアの位置の特定も終わったし。」



「オッケー。今日のメンバーは全員揃ったし、いっちょやりますか。

ステラ、ラパン、準備はいい?」



 星蘭のはい!という声とラパンの無理です!という声が重なった。

 首を千切れんばかりに振るラパンに苦笑いしながら、ミコトが言った。



「多分アンタのこと待ってたらクレアの魔力が先に尽きちゃうから、始めるね。

クレア、解錠していいよ!」



「了解。」



 光の球が消え、拘束から解かれた魔物は星蘭達目掛けて突進してきた。星蘭、ミコト、ラパンはそれぞれその場を飛び退いた。


 星蘭はゴクリと唾を飲んだ。魔物の姿に、あの日の記憶が嫌でも蘇る。



「そんなに緊張しなくても大丈夫!コアが3個。そんなに魔力も強くないし、大したことない奴だよ!」



「胸のところにコアがあるのがわかる?あなたはそっちを攻撃して。」



 クレアが指差している方向。たしかに強い魔力を感じる箇所があった。



「はい!」



 この一ヶ月、星蘭はひたすら試し続けた。ローベルにありったけの一般武器を出してもらった。


 魔法少女が使う武器には一般武器と固有武器がある。一般武器は剣、弓、槍などの種類があり、どの魔法少女でも共通して持つことができる。一方、固有武器はどの聖霊と契約するかによって種類が違い、魔法少女一人につき一つだけだ。星蘭はまだ固有武器をうまく使いこなせていないため、今日は固有武器と一般武器を併用して任務に挑むことにしていた。



「エーラ!」



 星蘭が叫ぶと星蘭の背中に真っ白な翼が現れた。これがローベルの固有武器、エーラだ。


 単純に飛べるだけでもメリットは大きいが、この固有武器は使いこなせば攻撃にも使える。しかし、魔力の消費が大きく、まだ攻撃の精度も低いので、今のところ空を飛ぶ手段にすることしかできていない。


 心の中で念じれば、ローベルが一般武器を出現させてくれる。星蘭は弓を取り出して弦を引き絞った。


 一般武器の中でどの武器を使うかはローベルと話し合って決めた。魔物を前にして自分がどんな精神状態になるのかわからない今の時点では、遠距離攻撃から始めるのがいいだろう、というのがローベルの意見で、星蘭はその意見に従うことにした。

 特に星蘭は目の前で魔物に両親を殺されている。魔物を前にすれば恐怖や憎しみで冷静な判断ができない可能性があった。投げ武器や鞭など他の選択肢もあったが、実際に使ってみて一番うまく使いこなせた弓を今回の任務では使うことにした。


 星蘭は魔物の胸のところに狙いを定めて矢を放つ。しかし、魔物が体勢を低くしたことでその矢は躱された。


 その隙をついてクレアが鎖を魔物の後ろ足に巻きつけた。魔物の身体がバランスを崩す。



「ミコト!今!」



「はいよ!」



 ミコトは魔物の背中を蹴って飛び上がると、魔物の後ろ足に槍を突き刺した。パリィンとコアが割れた音がした。



「まず一つっと。」



 ミコトが槍を引き抜いて、その場を離れようした瞬間、魔物は地面を転がり、クレアの鎖を引き千切った。 

 そして、ミコトに向かって飛びかかった。



「ラパン!ミコトを!」



 クレアが鋭い声で言った。



「ひぇ!」



 ラパンは悲鳴に近い声を上げた後、両手を突き出して、叫んだ。



「ら、ラピア・アミュレット!」



 ラパンの手の中で水晶体が光を放つ。それと同時に魔物とミコトの間に盾が現れた。まるでピンク色の宝石でできたような盾だった。その盾は魔物とぶつかった衝撃でひび割れ、再び魔物が突進してくると、その勢いで砕け散った。


 その間に星蘭はミコトの手を引いて飛び上がった。



「サンキュー、ステラ。助かったよ!ラパンもありがとね!」



 ラパンはどうやら盾の魔法少女のようだ。ラパンは何も答えず、暗い顔で深いため息をついた。



「ステラ、魔物の前で下ろしてくれる?」



「大丈夫なんですか?」



 ミコトはもちろん、と頷く。



「さっきはちょっと油断しちゃだけどもう大丈夫!次は前足のとこにあるコアを狙おうと思ってね。クレア、援護よろしく!」



 星蘭は頷くと、魔物の正面まで飛んで、それからミコトの手を離した。


 ミコトの姿を捉えた魔物は、鋭い爪の生えた前足で襲いかかった。ミコトはまるで舞でも踊るかのような動きで魔物の攻撃をいなしながら、魔物との距離を詰めていく。

 さらにミコトの後ろから、クレアが鎖を伸ばして、魔物の攻撃を弾く。

 徐々に魔物が後退を始め、ミコトの槍が、魔物の前脚を掠める回数が増えていく。やがて、ミコトの槍が魔物のコアを刺し貫いた。



「すごい…!」



 星蘭は思わず呟いた。ミコトとクレア。数々の死線をくぐり抜けてきた二人だからこそ、これだけ息の合った動きができるのだろう。



「コアはあと一個ね。」

 


 クレアの言葉に星蘭がほっと息を吐いたのも束の間。魔物の足元からどす黒い魔力が湧き上がるのを感じた。


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