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復讐の破壊者 ~ダンジョンの奥底で仲間に裏切られたが、死の間際に手に入れたエクストラユニークスキルで復讐に向かおうと思う~  作者: 夕影草 一葉


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23話

「これは?」


 手渡されたのは、手紙と小さな革袋だった。

 なんの変哲もないただの手紙と、中には砂の様な物が入った革袋。

 これがあの依頼の見返りかと思わず吐き捨てそうになるが、それを飲み下す。

 そして問いかける代わりに、受付の向こう側にいる受付嬢の顔を見返す。

 

「その手紙に記された場所へ向かってください。きっとアクトさんの役に立つこと間違いなしです」


「まあ、それはいいんだが。なぜこんな回りくどい事を?」


 目の前にいるのだから、場所など口頭で伝えればいいのではないか。

 そう考えるも、受付嬢は小さく首を横に振った。


「それも向こうに着けばすぐに分かりますよ。それと、この事に関しては他言無用でお願いします。情報の漏洩が確認された場合には、冒険者ギルドは責任を負いません」


「つまりこの指定された場所の事は、死ぬまで黙ってろってことか」


 非常に分かりやすい。

 見返りの情報が中々外に出てこないのも、ギルドの圧力によるものなのだろう。

 了承の意味もかねて頷くと、受付嬢も納得した様子で首を縦に振った。

 

「分かっていただけで幸いです。そしてその場所に向かうことができるのは、ギルドから指名されたアクトさんだけになります」


「ファルズはどうなる?」


「元々パーティメンバーとして活動していたならばまだしも、即席のメンバーを伴って向かう事は許されていません。ですので、この場所で待機していただくことになります」


 そう言う受付嬢の視線は、俺の後方に控えていたファルズの方へと向けられる。

 昨夜に病院へと連れていった甲斐もあり、顔の傷は殆ど消えていた。腫れも引いている。

 ただ、足を引きずって歩いている所を見ると、まだ本調子ではなさそうだった。


 指定された場所へついてこれないというのは残念だが、今の彼女に無理はさせられない。

 とは言え今から依頼を受けるわけでもなく、ただ指定された場所へ向かうだけだ。

 俺一人でも何とでもなるだろう。

 話を聞いていたであろうファルズは、小さく肩をすくめて見せた。 


「ということさ。ここから僕にできる事は少ないんだ。だけど最後に助言することができる」


「俺はどうすればいい。どうすれば裏切者共の居場所を突き止めることができる」


「僕達が追っているのは、特定の個人だ。そしてその相手を正確に探し出すには、神々が与えた能力を使うほかない」


「スキルか」


 個人を限定して捜索するスキル。

 それがファルズの言っていた、裏切者共を探し出す方法か。

 だが問題としては、そのスキルを持っている人物を探し出す方法がないということだ。

 しかしファルズは俺の考えを見越した様に、言葉を続けた。


「そうさ。そしてヴィオラという名前を覚えていてほしい。きっと君の役に立つはずだよ」


「ヴィオラか、わかった。覚えておこう」


 これから向かう場所に何があるのか。

 俺にはわからないが、ファルズが言うのだ。

 信用しよう。

 そしてファルズは、視線をそらしながらつぶやいた。


「戻ってきたら、話を聞かせてほしい。それで僕達の関係は解消だ」


 あくまで俺達は仮のパーティメンバーだ。

 目的を達成するために組んだだけで、それが達せられれば解散する。

 そして何より、俺達は別々の復讐の道を歩んでいる。

 共に行動することの方が異様だったというべきだろう。

 

 しかし、ファルズの複雑な表情を見て小さな迷いが生まれる。

 そんな迷いを振り払う様に、俺は酒場を後にした。


 ◆


 ゴールズホローがどれだけ栄えているかは、十分に理解しているつもりでいた。

 しかし考えてみれば、冒険者が利用する施設など限られている。

 冒険者ギルドやその周辺に集まった宿、武具店などだ。


 知ったつもりの街であっても、ただ道を一本外れるだけでまったく違った光景が広がっていた。

 そもそも街中をゆっくりと探索する時間も余裕もなかったのだから、仕方がないと言えばそれまでだが。

 

 そして街の上部に位置する富裕層の居住区ともなれば、まさに別世界だ。

 城のような豪邸が立ち並び、それぞれの家の主が自分の財力と繁栄を競っているように見える。

 一段と豪奢に飾り付けられた大通りを抜けて、手紙に記された目的地へと進む。


 手紙に従って歩いていると、崖際の小さな――あくまで周囲の家と比べてだが――家にたどり着く。

 その門の前には重装備の番兵がふたり、周囲を睨みつけるように立ちふさがっていた。 

 よく見れば鎧には憲兵団の紋章が彫り込まれている。

 間違いない、この場所だ。 


「ギルドに言われて来たんだが、この場所で間違いないか?」


「冒険者のアクトだな。許可証を提示しろ」


 言われて、自分の冒険者章と手紙と革袋を受け渡す。

 番兵は両方の中身を確認すると頷き返し、門の内側にいた番兵へと渡した。

 門の隙間から見えたが、内部にもまだ複数人の番兵が巡回している様子だ。

 それも重装備の完全武装で。


「随分と厳重な警備だな。まるで要塞だ」


「それだけ重要な場所だ。問題を起こしてくれるなよ」


「善処するさ」


 ここまで厳重に守られている場所で問題を起こす程、常識はずれではない。恐らく。

 それに様子を窺っていれば、番兵たちも熟練の戦士が醸し出す特有の空気を纏っている。

 俺がなにか問題を起こしたところで、即座に捕縛されてしまうだろう。 

 ただここまで腕の立つ人材を配置している事から、この場所がどれ程に重要視されているかがわかる。


「武器は預かる。魔道具や魔結晶もだ」


「丁重に扱ってくれよ」


 入念に身体検査を行い、武器や道具もすべて預ける。

 そしてついに、ギルドが用意したという見返りを少しばかり期待しながら、巨大な門をくぐるのだった。

 

 ◆


「イノーラ様。冒険者をお連れしました」


 案内された扉の前で番兵が声を上げる。

 どうやら俺はこの家の主と顔を合わせる事になるらしい。

 一応は身なりを整えなおし、対面の準備を済ませる。


 ただ、扉の向こうから帰ってきたのは沈黙だった。

 微かに香水の香りが漂ってくるが、それでも室内からの返事はない。

 再び番兵が声をかけるも、やはり物音ひとつしない。


「まさか留守か?」


「いいや、そんなはずはない。つい先ほど、顔を合わせたばかりだ」


「なら眠ってるんじゃないのか」


「そんな訳があるか。イノーラ様、失礼します」


 険しい表情のまま、番兵が扉を開け放つ。

 目に入ったのは対面して設置されたソファ。

 その間に置かれたテーブル。

 そしてテーブルの上に置かれた手紙が一通。


 応接室らしきそこには、イノーラという人物の影はなかった。

 しかし、ある臭いが香水の匂いに交じっていた。

 それは冒険者ならば嗅ぎなれた臭いでもある。


「血の匂いだ!」


「なんだと!?」


 臭いの元を辿れば、応接室と扉で繋がった部屋にたどり着く。

 頑丈に鍵が掛けられた扉を蹴破って中へと飛び込む。

 すると床に倒れる女性の姿が目に飛び込んできた。 


「い、イノーラ様!」 


 女性の元に番兵が駆け寄る。

 だがその瞬間、俺は巡回中の番兵の元へ向かっていた。

 応急処置は発見した番兵に任せればいい。

 今は最悪の事態を想定して動くべきだ。


「魔術師、回復魔術師を呼べ! 今すぐに!」


 巡回中の番兵へと、そう叫ぶ。

 恐らくあのイノーラという女性が俺達の復讐に必要な情報を持っているのだ。

 ここまで来て、手が届きそうな情報を手放してたまるか。

  

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