藍原桐華の挑戦~甘い恋心を込めて~
バレンタインデー特別企画のような物を書いてみました。
登場人物は、以下のキャラクターとなっております。
霧原零・藍原桐華・藤堂亜理紗・九条咲
以上の四人が登場します。それでは、本編へどうぞ!
「……じー」
ある日、藍原桐華は食品コーナーの中にあるお菓子コーナーの棚を睨んでいた。綺麗に並べられた商品の一つ一つに視線を向け、どれが良いかを見定めていく。片手に持った買い物カゴには既に何個かお菓子が入っているのだが、それ以外にも何かを買おうと睨み続けているのだ。
「桐華さん、決まりましたか?そろそろ行きますわよ……って、まだ決まって無いんですか?」
「亜理紗……うん、決まってない」
「決まってないって、貴女のそのカゴにあるお菓子だけで良いのでは?」
「まだ10個しか入れてない」
「10個でも十分多いですわよ」
無表情のままお菓子の入ったカゴを持ち上げる桐華に対し、即座にツッコミを入れた亜理紗は肩を竦めつつも桐華の隣に立って問い掛けた。
「それで?早めに決めないと作る時間が無くなってしまいますわよ?」
「……作る?何を?」
「何って、もうすぐバレンタインだからそんなに悩んでいたんじゃなくて?」
「バレンタイン……――!」
「(あ、今思い出したみたいな顔ですわね。これは)」
呆れつつも亜理紗は、ハッとしている桐華に続けて言った。
「彼にチョコを作るのなら、私も手伝いますから。早くチョコを決めて……」
――ばらばらばら。
「な、何してるんですの?」
「チョコ、作るって言ってたから。これぐらいあれば足りる?」
小首を傾げながら、商品の箱を引っ繰り返している桐華。足りるも足りないも、既にそういう次元ではない領域となっている買い物カゴ。それを見て亜理紗は溜息を吐き、額に手を当ててカゴに入れられた大量のチョコをそのままで桐華の背中を押した。
「――もうそれで良いですので、早く帰りますわよ」
「ん……」
やっと会計が済み、施設にある自室まで辿り着いた所で亜理紗は袋詰めにされたチョコの山を見た。再び溜息を吐きながら、ボーっとしている桐華に問い掛ける。
「桐華さん、この量のチョコはどうするのですか?まさか、全部彼の為の材料とか言わないですわよね?」
「……(フリフリ)」
「では何ですの?」
「こうする」
――ビリビリ、……パキパキ……。
袋詰めされていたチョコの一つを取り出した桐華は、チョコを包む紙を破り音を立てながら一口サイズに折り始めた。亜理紗は彼女が料理の為に折り始めているのかと思ったのだが、次の桐華の行動で予想は裏切られた。
「あむ……たべふ」
「そうだと思いましたよ!!数個だけ預かりますわよ」
「あ、あたしのチョコ……あむ」
「別に取って食べるつもりはありませんわ。これは貴女が彼の為に作るチョコの材料ですわ」
「……亜理紗」
「何ですの?言っておきますが、食べるのは作ってからにして下さいね?」
釘を刺した事を思いながら、亜理紗は桐華の言葉を待った。だが桐華はすぐに発言する事はなく、何やら言い悩んでいるような様子で手を絡ませていた。亜理紗が見た事の無いような挙動で、思わず身構えた亜理紗だったが……次の言葉でそれも裏切られた。
「――あたし、チョコの作り方知らない」
「は?」
「だから……その……あたし、食べる専門だったから……チョコの作り方とか、知らない」
「そんなモジモジとしながら私に言われても(可愛いのは認めますが)」
そんな事を思いながら、亜理紗は桐華に「着いて来なさい」と言って部屋から移動した。互いに片手に大量に詰められたチョコ袋を持って、移動した先は生徒会室だった。ノックしてから誰も居ない事を確かめ、中へと入って鍵を閉めた。
「今から生徒会室を借りて、チョコを調理したいと思います。幸いな事に、ここには調理グッズも揃っているので」
「……勝手に使って良いの?これ全部、咲の」
「きっと大丈夫ですわ。理由を話せばなんとかなりますわ」
『理由を話す前に借りれるかとか生徒会室の使用許可をした方が良いと思いますよ。藤堂亜理紗さん♪』
「「――っ!?」」
亜理紗の言葉に間髪入れずに介入してきた声を聞いた瞬間、彼女たちは身体を強張らせてゆっくりと振り返った。するとそこには、ソファの背凭れに立て膝をして彼女たちを覗き込み、満面の笑みを浮かべている九条咲の姿があった。
「さ、咲さん!?い、いつからそこに?」
「ついさっきですね♪」
「えっと、これはですね」
「チョコを作るんでしょ?兄さんに、桐華さんが、チョコを、作るんでしょ?」
要所要所を強調しながら、亜理紗の眼前に迫る咲。桐華はソーッと咲の視界から外れ、生徒会室の入り口へと向おうとした。だがしかし、戸に触れた瞬間に桐華の手元には一本の小さい弓矢が突き刺さった。
「っ……」
「何処へ行こうとしてるんですか?藍原桐華さん♪お話はまだ終わってませんよぉ?」
「咲、怖い」
「お二人とも?」
「「はい」」
「正座して下さい♪」
「「はい」」
――説教から数分後。
「――お話は理解しました。けれど、ここにはチョコ作りが出来る程の材料がありませんよ?」
「え、そうなのですか?」
「当たり前です。亜理紗、生徒会室は私の私物化にはしてませんよ?まぁ、チョコ作りをする事は私も賛成ですので、さっさと作ってしまいましょう」
咲はそう言いながら腕を捲くり始めた。そんな咲の行動の意味が分からなかったのか、亜理紗と桐華はほぼ同時に首を傾げて咲がエプロンを着始めているのを眺めた。視線に気付いた咲は、ジトッとした目を彼女たちに向けてエプロンの紐を縛った。
「勘違いしてるかもしれませんが、私は別に無断でチョコ作りをしようとしたから怒ってるんじゃないですよ?」
「「……??」」
「問題は、私を蔑ろにした事です。どうして私を誘ってくれないんですか!!私とは友人では無かったんですか?ただの生徒会だけの間柄という訳ですか?」
「(なかなか面倒な性格してますわね、咲さん)」
「じゃあ、咲も一緒に作る?」
「はい、勿論。これで兄さんの胃袋を掴みます!!桐華さん、負けませんからね」
「……あむ。うん、分かった」
両方の腕捲くりを終了した咲が言った言葉に対し、桐華もエプロンを装着して腕を捲くっていた。捲くっていたのだが、その口元には折っていない板チョコが咥えられていた。その光景を見た咲は、「亜理紗、ちょっと」と言って亜理紗を手招きしたのであった。
そして生徒会室の隅へと行き、桐華に背中を向けた状態でひそひそと話をし始めた。
「亜理紗、桐華はチョコを作る気あるの?」
「あるとは思うんですが、どうもその覇気を感じませんよね。そう思うのは私も同感です」
「じゃあ何で作る前に材料のチョコを食べてるの?」
「大量に買ったから、大丈夫だと思ってるのでは?」
「そうだったら良いけど、亜理紗……桐華は料理出来ないんだよ」
「それはさっき聞きましたわ。けど、本人があれでは覚える気があるのかどうか……」
「なら、私も教えるの手伝うから亜理紗も手伝って。良い?」
「承知しましたわ」
ひそひそ話が終わって、彼女たちは桐華の方へと向き直った。するとそこには、指先をペロッとチョコの付いた指を舐める桐華の姿があった。生徒会室はやや暑かったのか、多少溶けている事もあってエプロンに垂れそうになったのを受け止めたのだろう。
頬から顎に掛けてチョコが垂れている。
「ペロ……ん、どうしたの?二人とも」
「ごめんなさい、咲さん、私、さっそく幸先が不安ですわ」
「偶然、私も」
――チョコ作りの準備に数分経過。
生徒会室から移動し、咲の部屋へとやってきた女子三人。湯煎を開始している頃、引き続きチョコを食べながら鍋を眺める桐華は端末で調べ物をしていた。それは咲と亜理紗からの案で、作りたいチョコは無いのかと聞いた事が理由である。
調べ物をしながらでもチョコを食べている事は既に放置を決め、咲と亜理紗も個人でチョコを作り始めている。そんな中で、ヘラを使い始めた亜理紗に桐華は問い掛けた。
「亜理紗……何を作ってるの?」
「び、びっくりしますから急に出てこないで下さいませ。えっと、私が作ってるのはクッキーですわ」
「チョコクッキー?」
「そんな目を輝かせても、出来立ては上げても一個ですわよ」
「……(しゅん)」
「わ、分かりましたわ。二つ、二つまでが限度ですわよ」
「亜理紗、ありがと」
「あ、こら……料理中に抱き着かないで下さい。危ないですわ」
隣でキャッキャしている亜理紗と桐華を放置し、咲は黙々と料理本を眺めながら調理し続けていた。咲はオーブンの予熱をいち早く設定し、既に作り始める前から作ろうとしていた物があったような行動をしていたのだ。
その為、桐華は邪魔してはいけないかと思いつつ亜理紗に質問などを繰り返した。繰り返していたのだが、咲の作っている物も気になっているのだろう。背後からじーっと咲の様子を眺め続ける桐華なのであった。
「じー……」
「あ、あの……流石に視線が刺さって気になるんで、話し掛けるならさっさとしてくれません?」
「……咲は、何作ってるの?」
「ふっふっふ~、良くぞ聞いてくれました!じゃん、これを見て下さい!チョコケーキです!」
料理本をバッと開き、桐華の眼前に見せる咲。ドヤ顔100%の表情を浮かべる中、桐華は料理本に載っている数々のお菓子を見て目を輝かせていた。
「(マドレーヌ、ケーキ、クッキー、アイス……お菓子の山♪)」
「桐華さーん、鍋が沸騰してますよー」
「あぁ、お菓子の山が(ぐすん)」
本を取り上げられた桐華は、そう言いながらも鍋の火を消しに向った。なんだかんだ言って、チョコを作る気はあるのかと思う亜理紗と咲なのであった。互いに顔を見合わせて、桐華の調理も手伝い続けた。そして翌日……2月14日、バレンタインデー。
生徒会室へと集まった一同は、各々でチョコレートを零に渡したのであった。
「はい、チョコですわ。遠慮なく受け取りなさい、野蛮人」
「へいへい。サンキュー。お前が作って俺に渡すって事は、毒入りか?」
「失礼ですわね。れっきとした普通の義理チョコですわよ。要らないなら返しなさい」
「に、兄さん……ち、チョコ作りました!ど、どうぞ、食べて下さいっ」
「お、おう。咲、ありがとな。お前から貰うなんて、小学生以来だな。ありがとな」
「い、いえ……えへへ」
亜理紗と咲は渡し終わった瞬間、自分の出番になった瞬間にソファに隠れた桐華。そんな様子を眺めながら、亜理紗と咲は桐華の腕をガッシリと掴んで零の前へと押し出した。
急ブレーキをして零にはぶつからなかった物の、顔が間近になった事で桐華の無表情だった顔が徐々に林檎色に染まっていく。やがて意を決した桐華は後ろ手に持ったチョコを差し出し、零に渡したのである。
「――零、食べて」
「お、おう」
その場で開けるような空気になってしまった零は桐華のチョコを取り出し、一口サイズになっているチョコブロックを口の中へと放り込んだ。しばらく静寂に包まれた数秒が過ぎ、零は口角を上げて桐華の頭に手を乗せて言うのであった。
「美味かった。サンキュな、桐華」
「~~~~~~っ、あたしも食べる」
「あ、おい」
気恥ずかしさに負けた桐華は零からチョコを取り上げ、数個を自分の口の中へと放り込んだ。チョコを頬張って逃げる桐華だったが、その口角は上がって頬は真っ赤になっていた。そんな走って逃げる桐華を眺め、咲と亜理紗は短く会話を交わしていたのである。
「ちゃんと渡せて何よりですわね」
「そうだね」
「でも良かったんですか?咲さんはライバルに情けを掛けて」
「大丈夫です。私、これでも勝負事には諦めが悪いので」
ご拝読有り難う御座いました。如何だったでしょうか?
個人的には、桐華の可愛さを引き出したつもりです。少しでも「可愛い」などの感情を抱いて読んでくれたのなら、作者である僕はとても嬉しいです!
他の作品もありますので、作風が良かったら他の作品たちも宜しくお願いします。
最後に3月からの本編続編も、宜しくお願いします!
ではでは、本日は時間を割いていただいた上、ご拝読していただき感謝です!!