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恐怖の金縛り

作者: きのい

「――私を捨てたお母さんは……お前だぁ!!」


ビクゥゥゥッッッ!!!

な、なんと俺がお母さんだったのかーーー!!!


「いや、ビビり過ぎだから 笑」

「こんなの超有名な怪談じゃん」


「……べ、別にビビって無いし」

 バレバレの嘘だった……。

そう、俺はいわゆる怖い話ってやつがとても苦手だ。夏になるとTVでよくやる怪談とか心霊関連の番組は、興味が無い振りをしてさっさとチャンネルを変えているが、本当は物凄く怖いのだ。夏の夜に怖い話で納涼なんて、そんな傍迷惑な慣習を作ったヤツには、何故そんな事をしてくれたのかと問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。だって怖い話とかしてると本物の幽霊を呼んじゃうらしいぜ? 

何それ、超怖い。


 そんな訳だが、日本の夏と怖い話は切っても切れないモノらしく、今日、同僚達と仕事帰りに寄った居酒屋でも、怖い話を散々聞かされる羽目になってしまった。

 途中、俺もなんか話せって言われたから仕方無く、とっておきの怖い話『朝、目が覚めたら目の前にゴキがいた話』を披露したら全員から非難轟々だった。

解せぬ。



「怖っ……」

 駅から家まで暗い夜道を一人歩く。怖い話を聞いていた時はまだマシな方で、本当に一番怖いのは一人になってからの帰り道だ。普段見慣れているはずの道が、なんだか別モノのように感じられる。

 だってさ、さっき怖い話をした時に本物の幽霊を呼んじゃってたとしたら、今も誰かに憑いてきている可能性だってあるよね? 憑くならお願いだから俺以外の人にしてね。あ、でもどうしても俺に憑いてくるというなら、美女の幽霊でお願いします。胸はそこそこ大き目で、髪は長めの方が……

「ふぉぉっ!! そ、そこに血まみれの人が立って……なんだ、郵便ポストか。」


 挙動不審になりながらアパートまで辿り着き、玄関のドアノブを握る。

……おい、ちょっと待て。不用意に開けて本当に幽霊がいたらどうするつもりだ? 美女の幽霊に「お帰り~」とか言われて、「ただいま~」って返事して……

何それ、ちょっと嬉しい。

 で、それから「ご飯にする?お風呂にする?それとも、ア・ノ・ヨ?」

――やっぱり怖かった! そもそもまともに話ができるのかさえ疑わしい。日本語って通じるのか? とりあえず、まずは「アーユーゴースト?」から入っておくか。それに本当に美女の幽霊だったらちょっと緊張しちゃうなー。お土産にコンビニスイーツぐらい買っておけば良かったぜ。誰か大至急、小粋な霊界ジョークを俺に教えてくれ!


 ……いやいや落ち着け俺、幽霊に出会いを求めるのはさすがに間違っているだろう。そもそも幽霊なんている訳が無いんだ。意を決して、目を閉じたままさっとドアを開け、玄関の電気を付けてからゆっくりと目を開けるとそこには――

特に変化の無いいつもの部屋があった。


 大きな安堵と一抹の寂しさを感じつつ誰もいない部屋に入る。服を脱ぎ、最低限の支度だけして早々に布団に潜り込むとそこには――

案の定、美女の幽霊は居なかった。

「……グスン。明日も仕事だし、さっさと寝よ」

 布団に入った俺は、お酒が入ってたせいもあって、あっという間にまどろみの中に落ちていった――




コツン……コツン……コツン……コツン……


ん? 何の音だ?

外の共用階段を誰かが登ってきている感じがする。アパートの住民かな。


コツン……コツン……コツン……コツン……


足音が次第に、俺の部屋の前に近づいてくるのを感じる。


コツン……コツン……コツン……コツン。


俺の部屋の前で、止まった?


コツ、コツ、コツ、コツ……


……え!? 部屋の中に入ってきた? 俺さっき鍵締めたよね??


コツ、コツ、コツ、コツ。


 居る。枕元に誰か立ってる。立って俺の事をジッと見ている……。

え? 何?? 怖い怖い!! 早く起きて誰が居るのか確認しないと……。

 そう思った所で俺はようやく気づく。()()()()()()()()というコトに。

目、だけでは無かった。体も全く動かない。声も一切出せない。

……これって金縛り?


 うぅぅぅ……! ぐぅぅぅ……!

さっきから、どうにかして体を動かそうと足掻いているが、体がカチコチに固まってしまったかのように指一本動かせない。すぐ横に誰かいる気配はハッキリと感じるのに、それが誰なのかわからない。

 そんな恐ろしい時間がしばらく続き、もう何十回目か、どうにかして体を動かそうと踏ん張ったタイミングで、ようやく手が動いた。手が動いた瞬間、今までずっと横に居た気配は霧散し……そして気づけば朝になっていた。


「……夢だった?」


 いや、確かにあの時、この部屋には誰かが居た。

俺は、昨日の出来事の手懸りが残って無いか、半分寝ぼけたまま部屋の中を見回していく。お気に入りのロックバンドのポスター、先月のままになってしまっているカレンダー、近頃水をやり忘れてやや萎れた観葉植物、青色のカーテン、カーテンの隙間から差す明るい光、2時を示す掛け時計、床に脱ぎ散らかした昨日のYシャツとネクタイ……


()()()()()()()()()()()()()


 分からなかった人の為に、もう一度部屋の中を見てみよう。

お気に入りのロックバンドのポスター、先月のままになってしまっているカレンダー、近頃水をやり忘れてやや萎れた観葉植物、青色のカーテン、カーテンの隙間から差す明るい光、2()()()()()()()()()、床に脱ぎ散らかした昨日のYシャツとネクタイ……


 ……ん? まだ夜中の2時??

次第にクリアになっていく頭。変だなぁ、怖いなぁと、恐る恐るスマホを見て、画面に表示されていた身の毛もよだつ恐ろしい内容に、俺は背筋が冷たくなるのを感じ、顔を青くした…… 



「午後の2時……? 会社から着信23件……部長からも直電8件だと……!?」


 その後、彼の姿を見た者は一人も居なかった……。




という事も無く、部長に説教されている姿を社内の全員が目撃しましたとさ。



(完)

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