-16『本分』
仕掛けは悉く大成功だ。
危うい瞬間もあったが、クウもナユキも、それぞれにできる限りのことをして強面たちを怖がらせている。
変化が下手なことも、緊張すると水になって溶けることも、本来は怖がらせるための特技ではない。むしろクウとナユキにとっては半人前の欠点だ。
だがそれも、使い方次第では妖怪らしい真実味を醸し出せる。
見事に恐怖で顔を真っ青にさせるヒョロたちを見て、クウもナユキも嬉しそうに微笑んでいた。
館内では強面たちのほかにも、大広間に留まっているサークル会員や部屋に戻ろうとする会員たちにも、旅館の従業員の妖怪たちが好き放題に客を驚かせ続けている。
そのせいで色んな所から悲鳴が聞こえ、それが更に強面たちの恐怖を募らせる。
さながら今のこの旅館は、正真正銘のお化け屋敷といったところだ。
「うげえ。なんだこの蜘蛛。背中に目があるぞ」
「い、いま、なんや君の悪い猫がおらへんかったか。っていうか猫にしてはでかすぎたように見えたで」
「そんな化け物がいるわけ、ってなんだ、このにょろにょろした太いの……って、首がついてる?!」
目のついた巨大蜘蛛に二股の化け猫、首を長く伸ばしたろくろ首。
様々な妖怪たちが強面たちへと立て続けに襲い掛かっていく。
彼らが元からここにいる従業員なのか、勝手に居着いた野良の妖怪たちなのか、それとも変化した狸たちなのか。
俺にすらまったくわからない。
けれどもまるで脅かすことがこれ以上ない性分なのだとばかりに、皆一同にはりきっている。
「妖怪にとって、怖がられることはご飯を食べるのと一緒なんだ。誰かに認知されていたり、怖がられたり。そういった人間たちの意識がボクたち妖怪の力の源であり、存在証明になるんだよ」
以前クウにそう教えてもらった話を思い出して、なるほど、と納得した。
怖がってくれる人が一杯いて、彼らはとっても楽しいのだ。
妖怪とは何なのか。
仲居娘たちと接してきても、俺にはいまだによくわからない存在だった。
けれどもそんな彼らの片鱗を、一瞬だけでも垣間見たような気がして、不思議と妙な居心地の良さを感じていた。




