表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/44

 -16『本分』

 仕掛けは悉く大成功だ。

 危うい瞬間もあったが、クウもナユキも、それぞれにできる限りのことをして強面たちを怖がらせている。


 変化が下手なことも、緊張すると水になって溶けることも、本来は怖がらせるための特技ではない。むしろクウとナユキにとっては半人前の欠点だ。


 だがそれも、使い方次第では妖怪らしい真実味を醸し出せる。


 見事に恐怖で顔を真っ青にさせるヒョロたちを見て、クウもナユキも嬉しそうに微笑んでいた。


 館内では強面たちのほかにも、大広間に留まっているサークル会員や部屋に戻ろうとする会員たちにも、旅館の従業員の妖怪たちが好き放題に客を驚かせ続けている。


 そのせいで色んな所から悲鳴が聞こえ、それが更に強面たちの恐怖を募らせる。


 さながら今のこの旅館は、正真正銘のお化け屋敷といったところだ。


「うげえ。なんだこの蜘蛛。背中に目があるぞ」

「い、いま、なんや君の悪い猫がおらへんかったか。っていうか猫にしてはでかすぎたように見えたで」

「そんな化け物がいるわけ、ってなんだ、このにょろにょろした太いの……って、首がついてる?!」


 目のついた巨大蜘蛛に二股の化け猫、首を長く伸ばしたろくろ首。


 様々な妖怪たちが強面たちへと立て続けに襲い掛かっていく。

 彼らが元からここにいる従業員なのか、勝手に居着いた野良の妖怪たちなのか、それとも変化した狸たちなのか。


 俺にすらまったくわからない。

 けれどもまるで脅かすことがこれ以上ない性分なのだとばかりに、皆一同にはりきっている。


「妖怪にとって、怖がられることはご飯を食べるのと一緒なんだ。誰かに認知されていたり、怖がられたり。そういった人間たちの意識がボクたち妖怪の力の源であり、存在証明になるんだよ」


 以前クウにそう教えてもらった話を思い出して、なるほど、と納得した。


 怖がってくれる人が一杯いて、彼らはとっても楽しいのだ。


 妖怪とは何なのか。

 仲居娘たちと接してきても、俺にはいまだによくわからない存在だった。


 けれどもそんな彼らの片鱗を、一瞬だけでも垣間見たような気がして、不思議と妙な居心地の良さを感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ