The man is dead
処女作ですので、意見やアドバイスがあれば遠慮せず申し付けください。
ストーリーについては、矛盾点の指摘以外は受け付けません。
追記。誤字報告を受け付けました。ありがとうございます!
2030年、7月――
皮膚に突き刺さるような光を鬱陶しく感じ、不快指数が日に日に増してくる頃。天気の良い日も続き、平和であったならば『絶好のピクニック日和』として愛する妻と娘に休日サービスをしていたころだろうな、と男は考えた。
もう連絡すら取れないがと自嘲的な笑みを浮かべつつ、男は周囲を見渡す。視界に入ったのは阿鼻叫喚――地獄絵図だった。
炎上した車、無人になった会社、はらわたが引きずり出された女性の遺体。そして――それを貪る異形。
その異形はヒトのカタチをしていた。頭が割れているのか額から血を流し、腹が裂けて腸が飛び出していても、ソレはヒトの原形をかろうじてとどめていた。ギョロギョロと浮き出ている大きな目や、耳の近くまで大きく裂けた口は、もはや人の者とは言いたくはなかったが。
「ダメだ……ジャムってやがる」
男は手元の拳銃――9mm拳銃の引き金を引いて、肩を下げた。自衛隊として身に着けていた武器の中でも使い物になっていた唯一の武器は、銃の薬莢の排出不良で失われた。
本来使い方を間違っていなければ、薬莢が詰まるなんてことはほとんどない。しかし、絶対というわけではないのだ。
仮に薬莢排出に失敗する確率が千分の一だったとしても、何度も打っていればいつかは「千発に一発ジャムる」確率を引き当ててしまう。
「……くそ」
死者の手はすぐそこにまで迫ってきていた。後ろに下がっても、そこは壁に阻まれている。武器も逃げ場も失われ、打開策もみつからないまま絶望的な状況に陥っていた。
先の記憶が、フラッシュバックのようによみがえる。都内の救助に当たっていた仲間の隊員はみな異形たちに屠られていった。目の前で喰われた彼らを思い出し、喉から酸い液体がこみ上げて、思わずよろめいてしまう。
しかし、ここで倒れるわけにもいかなかった。
どうにか嘔吐するのを堪えながら、死者を睨む。
「ど、どうにかならないんですか?」
背後に隠れていた女性が男にすがるように問いかける。制服に身を包んでいる様から、おそらく高校生か大学生だろうか。さきほど襲われそうになっていたのを公園付近で助けたのだが、彼女を守りながら異形から逃げ延びる自信はすでに男にはなかった。
――万事休す、か。
9mm拳銃を異形に投げつけ、護身用のナイフを手に取る。もともと、死者がそれくらいでひるむとは思っていないが、何か抵抗しないと男の気が済まなかった。
「おい、お前はまだ走れるか?」
「――え?」
女は素っ頓狂な声を上げる。男の真意がいまいち分かっていない様子だ。
男は護身用のナイフを戸惑う女に押し付ける。そして、近くの死者へ駆け寄って――力の限り殴った。ぐちゃりと不快な音がしたと同時、死者メートル吹っ飛び、頭から崩れ落ちる。
「向こうの突き当りまで走って右手側にいけば駐屯地に着く! おそらく武器もまだある! 俺が囮になるから走れ!」
「で、でも」
顎を殴られ大きなダメージを負っているはずなのに、それを意に介さず立ち上がろうとしていた死者の頭を踏み砕く。男が囮をかってでたことは、女も理解したようで、しかし動けずにいた。男の叫び声で、死者たちの注目は男に集まった。体力も尽きかけ、丸腰で生還することは難しいだろう。
ならばせめて――と、男は女をかばい前に出る。
「早くいけ! そんなに死にたいか!?」
「――っ! あ、あとで駐屯地で会いましょう!」
「ああ!」
近くをうろついていた死者の鳩尾に蹴りを入れながら、男は叫んだ。それをトリガーに女は走り出した。
遠ざかっていく女の後姿を見て、男はもう一度叫ぶ。
「お前らの相手は俺だ! こっちにきやがれ、腐れ脳味噌!」
足元に落ちていた石ころを拾い、女を追いかけていた死者の頭に投げつける。残念ながら届きはしなかったが、石がアスファルトを打つ音に反応して、死者は女を負うのをやめて振り返った。
女に向かっていた注意は、再び男に向いた。死者はうめき声をあげながら、足を引きずってこちらに近づいてくる。
だが、女の周りに奴らはいない。
――よかった。無事に着いてくれそうだ。
ぷちり、と。糸が切れた人形のように、男は倒れこんだ。すでに限界に達していた体は、どうやらいうことを聞いてくれない。
死者たちのうめき声がどんどん近くなってくる。肉の焦げたにおいと腐敗した匂いが鼻につく。視界がぼやけていくが、奴らがすぐ目の前にいるということは、なんとなく分かっていた。
首元に牙を立てられる。腹が引き裂かれる。腕が引きちぎられる。
痛みはすでになくなり、感じるのは『熱』だけとなっていた。
痛みが許容を逸脱したことにより熱に感じるようになったのかと、理解した瞬間に急速に意識が遠のいていく。
さっきまでのた打ち回るのを強要していた『熱』すらどこかへ消え去り、不快な血の感触も口から湧き上がってくる血の塊も、全ては遠ざかる意識の付き添いとして連れていかれる。
「……葵、愛菜……今そっちへ行く」
愛する妻と娘の名を呟き、男――篠山はその命を散らした。
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