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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第2章:芸術家の街
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第8話:喜瀬川の本質

 いい加減空腹に限界が来ていたアタシは二人を連れて、適当に近くにある店に入った。もうこの際、腹に入れば何でもいい。

 店の中は流石に飲食店という事もあってか、清潔にしてあった。中々悪くなさそうだ。

 アタシはとりあえずメニューを見てみた。

 サンドイッチやパスタ等のよく知っている料理が見られる。ただ、卵料理が見当たらない。やっぱり、鶏の卵ってのは希少価値が高いのか? 栄養価が高い上に、量産出来ないしな。

 アタシは二人にメニューを回す。

「ほら。どれにする?」

 最初にレーメイがメニューを受け取った。

「……どれが美味しいんでしょうか?」

「好みによるだろ。好きなの選べよ」

「そうですね……うん、決まりました」

 そう言うとレーメイはオーレリアにメニューを渡した。

「ありがとうございます。しかし、私は食事を摂らなくても活動可能なのです。ここは節約も兼ねて……」

 まだ言うかこいつは。しゃーねェ。適当に頼むか。

「駄目だ。この中じゃアタシが年長者だ。年下のガキが飯食おうとしてねェのを見過ごす訳にはいかねェ」

 アタシは呼び鈴を鳴らし、店員を呼んだ。どうせこいつは説得しようとするだけ時間の無駄だ。さっさと頼んじまおう。

 アタシは自分とオーレリアの分を、レーメイは自分の分を注文した。後は、待つだけだな。



 しばらく待っていると、頼んでいた料理が運ばれてきた。

 アタシはトマトスパゲティを、レーメイはサンドイッチを、オーレリアにはアタシと同じ物を頼んでやった。

 料理が出揃ったアタシ達は食事を始めた。どうやら『いただきます』ってのはしないみたいだな。文化の違いってやつか。

 スパゲティを口に運ぶ。……悪くない。決して滅茶苦茶美味いという訳ではないが、安心出来る味付けだ。

 オーレリアの方を見てみると、まだ料理に手を付けていない様だった。

「おいガキ。早く食わねェと冷えるぞ」

「これは、フォークを使って食べるのですか?」

 オイオイこいつマジか……何となく分かるだろ。今までどうやって生きてきたんだよ……。

「ああ。フォークでこう、巻き付ける様にして食べるんだ」

 オーレリアはぎこちない手付きでフォークを持ち、スパゲティを巻きつけ始めた。ある程度巻いた後、そのまま口へと運んだ。

「どうだ。美味いか?」

「……どうなのでしょうか。今まで食べた事が無いので、適切な表現が思いつきません」

「もっと食いたいか?」

「……そうですね。食べたいです」

「じゃあ、それが美味いって感覚だ」

「……なるほど。理解しました」

 オーレリアはまた口へと運んだ。何とか食ってくれたか。旅の途中で倒れられたら敵わねェからな。

 その横ではレーメイがサンドイッチを食べていた。昼時は一番腹が減る筈だが、そんなに少なくて大丈夫なんだろうか。

「レーメイ」

「んっ……失礼。何でしょうか?」

「美味いか?」

「はい!」

 レーメイは笑顔を見せる。まァ、こいつは心配ないか。割と表情に出るタイプだし、変に気を遣う必要はねェか。

 アタシ達は料理を食べ終えると代金を払い、店を出た。



 店を出たアタシ達の前にはあの芸術家と揉めていたチンピラ二人と、その仲間と思しき奴らがいた。

 アタシは一歩前へ出る。

「誰かと思えば、あの時の三下二人組みじゃねェか。どうしたよ?」

「悪いが親分からの指示なんだ」

 気が付けば、アタシ達は囲まれていた。なるほど。そういう訳か。

 アタシは二人に声を掛ける。

「お前ェら、自分の身は自分で守れよ」

「はい……!」

「承知しました」

 アタシは静かに構える。

「アタシの喧嘩売るとはいい度胸だな。だが、手加減は出来ねェ。死ぬ覚悟がある奴だけかかって来な」

 アタシがそう言うと、あの兄貴分と思われるチンピラが右手を上げる。それと同時に、周囲の敵が一斉に襲い掛かってきた。

 アタシは殴りかかってきた敵の腕を掴み、頭突きを食らわせ、他の奴らも巻き込むように投げ飛ばした。やっぱりこいつらは素人だ。さっき腕を掴んだ時に分かった。こいつらはただ力任せに殴りに来ている。喧嘩は力じゃない。技だ。

 突如、周囲の温度が一気に上がるのを感じた。

 横を見ると、敵の一人が強大な火の玉を作っている。これは意外だな。ある程度は魔法使えるのか。しかし、問題ない。

 アタシはその敵へと向かって真っ直ぐに突っ込んだ。途中、邪魔しようと何人か攻撃してきたが、肘打ちや蹴りを入れてやると簡単に黙った。情けない奴らだ。

 火球を作っている敵は明らかに動揺している様に見えた。まァ、そうだろうな。もうすぐ目の前だ。ここであの火球をこっちに向かって放とうものなら、味方や自分さえも巻き込んじまうからな。

 目の前まで来たアタシは、そのまま勢いを活かして、顎に掌底を叩き込んだ。

 火球を作っていた敵はその場でふらつき、力が抜けるように倒れこんだ。それと同時に、火球も消えていた。なるほどな。制御する人間が気を失うと消えるのか。

 オーレリアとレーメイの方に目を向けると、オーレリアは体術で、レーメイは魔法で戦っていた。

 しかし、あれはオーレリアが合わせてるんだろうが、息ぴったりだな。お互いの邪魔にならない様に上手く立ち回ってる。

「どこを見てる!」

 その言葉と同時に飛んできたパンチを避ける。

 どうやら、あの兄貴分の様だ。

「いやァ、あのガキ共も結構やるなと思ってよ」

「……俺達が用があるのはお前だけだ。大人しく捕まれば、あいつらは見逃す」

 へっ、チンピラの癖に随分穏便派だな。

「別に見逃さなくてもいいぜ? 全員ぶちのめしゃいいだけだからよ」

「後悔するなよ……」

「お前ェこそ……指の一本や二本じゃ済まなくなるかもしれねェぜ?」

 数秒の睨み合いの後、先に攻撃を仕掛けてきたのは相手のほうだった。アタシには分かる。こいつは他の奴とは違う、場慣れした感じがある。殴り方も、ただの素人じゃねェ。

 相手は素早いジャブを連続で繰り出してくる。これ位なら避けるのは容易いが、中々に正確に狙ってくる。

 アタシは体を大きく屈め、ボディに拳を叩き込む。昔、アタシがよく使ってた技だ。これで沈まなかった奴はいない。

 しかし、相手は後ろに大きくよろめいたものの、倒れはしなかった。

「やるじゃねェか。今のを耐えるなんてよ」

「っ……当たり前だ。この程度で倒れて、リーダーが務まるか……!」

 根性あるじゃねェか。こいつ、中々気に入った。向こうの世界じゃ最近喧嘩出来なかったからな。今日は久しぶりに楽しめそうだ。

 相手はあの攻撃を食らったにも関わらず、素早くこちらに踏み込んできた。右足が一瞬浮かぶ。アタシは蹴りを警戒し、左側を防御出来るように身構えたが、瞬間、相手の体がその場で軽く浮かび、左足が上がった。マズイッ! さっきのはフェイントか!?

 最早防御は間に合わない状況で、相打ち覚悟でやるしかなかった。

 アタシは左手を握りこみ、少しでも蹴りのダメージを軽減するべく、体を傾けながら、相手の顔にアッパーを叩き込んだ。

 しかし、こちらも完璧には防ぎきれず、頭に食らってしまった。視界が、大きくぐらつく。


 何とか意識を保ちながら前を見ると、相手は完全に意識を失い、倒れていた。何とかなったな……だが、まだ他の奴が残っているだろう。あいつらだけであの人数は大丈夫だろうか。

 そう思いながら後ろを振り替えると、敵達は皆倒れており、二人ともケロッとした様子だった。何だよ……心配したアタシが馬鹿みたいじゃねェか……。

 少し安心したアタシは足の力が抜け、座り込んでしまった。

 その様子を見てか、二人がこちらに駆け寄ってくる。クソ……みっともねェとこ見られちまったなァ……。

「キセガワさん! 大丈夫ですか!?」

「問題ねェよ。ちょっと疲れただけだ」

「キセガワ様。私の見立てでは、あまり良い状態ではない様に思えます」

「心配いらねェって……」

 アタシは頬を叩き、無理やり気合を入れ、立ち上がった。まだ、やらなきゃならねェ事がある。

 アタシは倒れている兄貴分のチンピラに近寄り、胸倉を掴みながら頬を軽く叩く。

「っ!?」

「おう起きたか」

「……負けたか」

「そうだな。意外と強かったぜ、お前ェは」

 こいつ気絶してた割には意外と意識がはっきりしてるな。こういうのにも慣れてるのか。

「さて、お前ェに聞きたい事がある」

「……目的だろ?」

「分かってんじゃねェか。何でアタシ達を襲った?」

「……腕試しだよ」

 何言ってンだ、こいつ。

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だよ……お前の強さを確認して、合格レベルなら、うちの組織に勧誘しようと思ってた」

 マジかよ……そのためだけにこんなに人員使ったのか……。だがまァ、答えは決まってるな。

「そうかィ。悪ィけどな、アタシにはやる事があんだよ」

「どうしてもか……? お前の強さなら、うちでも間違いなく幹部になれるぞ?」

「別にそういうのは求めてねェンでな」

 アタシは胸倉を掴んでいた手を離し、立ち上がった。

「じゃあな。もうこんな事すんなよ」

 アタシはオーレリアとレーメイ肩を叩き、その場から去った。


 確かにアタシの本質は戦う事が好きな戦闘狂なのかもしれねェな。だが……アタシには恩がある。師匠に拾ってもらった恩が。それを返さなくちゃならねェ。師匠がやってる、落語という形で……。

 アタシの脳内では、戦闘狂な自分と落語で恩を返したい自分とがせめぎあっていた。でも、それでいいのかも知れねェ。中途半端な方が、どっちにも寄らずに済むし、気が楽だ。

 二人の視線を背中に受け、アタシは宿へと戻っていった。

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