第7話:奇術師と魔法使い
宿に戻ったアタシ達は部屋に入り、休息をとった。
腹の減ったアタシは部屋の中を適当に見て回った。当たり前かもしれないが、冷蔵庫などは無い。食べられそうな物は見当たらない。
「どうしたんですか?」
「腹減った。何かないかと思ったンだがな」
アタシが壁にもたれていると、オーレリアが意見を出した。
「キセガワ様。この宿の主人に聞いてみては?」
そうするかな。もしかしたら、何かくれるかもしれねェし。
「ン。じゃあちょっくら聞いてくるわ」
アタシは部屋を出て、主人に会いに行った。
一階にに降りると、主人は掃除をしていた。
「なァ、ちょっといいか?」
「はい。何でしょう?」
「腹減ったんだがよ。この宿は飯出ねェのか?」
「あ、すみません。安宿なもので……」
なるほど。つまり出ねェ訳か。仕方ねェか……。
「いや気にすんな。悪かったな」
アタシは聞きたい事を聞き終わり、階段を上っていった。
部屋に戻ったアタシは食事が出ないという事実を二人に伝えた。
「オイ。飯出ねェってよ」
「そうなのですか? どうしましょうか?」
「私は食べなくても大丈夫ですので、お二人でどこかで食べてこられてはどうですか?」
何言ってんだこのガキは。
「馬鹿言うんじゃねェよ。お前ェも行くんだよ」
「キセガワ様。私は食事を必要としておりません。ここは経費を少しでも削減するべきです」
アタシはオーレリアに近付き、頬を摘まむ。
「アホ。必要に決まってんだろ。お前ェも行くぞ。拒否権はねェ」
「ひふひょうははいまへんは、きへがわはまがそうおっひゃるはな」
ふん。無機質に喋る奴だが、こうして喋らせると面白いな。
アタシは手を離す。
「よし、レーメイ、オーレリア、行くぞ」
アタシ達は腹を膨らませるため、外に出る。折角だ。何か美味いもんでも食おう。
外に出たアタシ達は目ぼしい店を見つけるために、適当にぶらぶらしていた。
アタシは通りにいたある二人組みに目が留まる。
一人は背中にマントの様な物を羽織り、胡散臭い雰囲気を醸し出す口髭を生やしている男だ。もう一人は、まだ小学生ほどと思われる少女で、三角帽子を被り、男と同じ様にマントを羽織っている。あれは……マジシャンか?
そう思いながらアタシが歩いていると、少女から声を掛けられた。
「そこのお三方! ちょっと見ててってください!」
「あ? アタシらか?」
「はい! 今から師匠が凄い魔法をお見せします!」
少女が紙吹雪を撒き散らすと、隣の男が一歩前に出る。
「さあさあ! 世紀の大魔法使い、真架伏議人による魔術をとくと御覧あれ!」
このおっさん……日本人ぽい名前だな。マカイ市長が言っていたニキタマ国の出身か?
マカフシと名乗った男はアタシ達に様々な魔術を見せてきた。しかし、何と言うか、これを言うのは野暮かもしれないが、これ……マジックじゃないのか?
アタシは隣の二人を見る。
レーメイは真剣にマジックを見ている。オーレリアはいつもの様に冷たい目で見ていた。
すると、レーメイが口を開く。
「あの、失礼ですが……本当に魔法ですか?」
「……そうだよ? 何でそんな事聞くんだい?」
「うーん……私も魔法の心得があるのですが、あなたからは魔力を感じないんです」
こいつ魔法使えたのか。しかし、魔力か……魔法が使える人間には認識出来るのか?
「私もお嬢様に賛同します。マカフシ様から魔力は感知出来ません」
しっかしこいつら、空気読めねェなァ……。もうちょっと気ィ使えよ……。
「なな何ですか! 師匠を嘘つき扱いするんですか!!」
あぁクソ……チビ公が騒ぎ出した……。アタシが何とかしねェとな……。
「あーすまねェ。こいつら猜疑心が強いもんでな。アタシの方から厳しく言っとくから」
「お待ち下さい。キセガワ様」
オーレリアがアタシを止める。
「……この方から、強い魔力を感じます」
「私も感じるわ」
何だ? このチビ公が? そんな感じはしないが……。
すると、少女は急に得意げな顔をした。
「ほう? 穂の力を見抜くとは、やりますね! まっ、師匠の方が凄いんですけどね!」
やけに得意げだが、いまいち信じられねェなァ……本当にこんなチビ公が魔法を?
「あ、穂、駄目だよ。無闇に使っちゃ」
「そ、そうでした! 魔法はいざという時だけです!」
いや矛盾してないか? さっき魔法って言ってマジックやってたじゃねェか……。
レーメイがミノリと名乗った少女に尋ねる。
「あの、どんな事が出来るんですか? これとか出来ます?」
そう言うと、レーメイは手の平の上に炎を出現させた。これが魔法か。ホントに、急に炎が出てきたな。
「ふふん! 穂を甘く見ないで欲しいですね! それくらい簡単です!」
ミノリは何やら呟いて両手を広げると、両手の間に大きな炎が発生した。先程レーメイが見せた魔法と比べると、明らかに火力が違っていた。
マカフシが慌てる。
「あー! 駄目だって!」
「師匠! ここは見せ付けてあげましょう! 穂達が本物だという事を教えてあげましょうよ!」
「駄目だって!」
マカフシがミノリを抑えに入る。体格差故にか、ミノリは簡単に抑え付けられた。
「話してください師匠! この人達に見せてあげるのです!」
何か、面倒な事なってきたな。立ち去った方が良さそうだ。
「悪い! じゃあな! 迷惑掛けてすまん!」
アタシは二人の腕を掴むと、逃げ出す様にその場を離れた。
アタシはしばらく離れた所で二人の腕を離した。
「はぁ……はぁ……お前ェらなァ、少しは空気読めっての」
「私は気になった事を聞いただけです」
「私もです」
はァ……世間知らずと言うか何と言うか……。
「あのなァ? ああいうのは分かってても黙っとくもんだ。いちいち言うんじゃねェ」
レーメイは納得いっていない様だった。
「そうなのですか……?」
「ああ。分かってても言わない。それが粋ってもんだ」
「イキ?」
粋って言葉はこの世界では存在しないのか?
「まあ、あれだ。格好悪いって事だ」
オーレリアが話し始める。
「なるほど。『粋』ですね。記憶しました」
どうやらオーレリアはこの概念を理解できるみたいだな。
「ほら、いい加減飯食いに行くぞ。さっきから腹と背中がくっ付いちまいそうだ」
アタシは二人を連れ、食事を取れる場所を探すのを再開した。もう、適当にそこら辺の店に入るか……。