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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第8章:許されざる者
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第60話:蘇った男

 アタシ達は役所の前に立っていた。入り口の前には頭から足元までを隠せる程の盾を持った者達が立ちはだかっていた。

「おかしいな……どこから情報が漏れた……?」

 この状況はヒューにとっても予想外だったらしい。しかし、そこまで不思議な事でもないかもしれない。里見の奴らが関わってる事を考えると、アタシの行動が筒抜けでもおかしくない。

 盾の向こう側から声が聞こえる。

「そこで止まれ! すぐに立ち去れ!」

 それにヒューが答える。

「……もうお前達の言いなりにはならない! これ以上はこの街のためにもならないんだぞ!」

「この様な集会は禁止されている! すぐに解散しろ!!」

 どうやらこいつらは警察や機動部隊の様な連中らしい。確かによく見てみると全員同じ服を着ている。もしかしたら制服なのかもな。犯罪者を取り押さえる警察……。

「……どうすんだ?」

「決まってる。後戻りは出来ない」

「……そうか」

 呼吸を整え、体に力を入れる。

「……行くぞーーーッ!!」

 アタシの声を合図に全員が一斉に動き出した。その中でアタシは先頭を切り、盾を構えたままの敵陣に突っ込み、相手が構えている盾の上に乗り掛かるかの様に膝蹴りを入れる。盾は鉄製の物なのか、かなりの固さだったが、体重を掛けて乗ったためか相手は体勢を崩し、防衛ラインに隙が生まれた。他の者達はその隙を突いて、一斉に攻撃を始めた。

 ここで時間を食うのはまずい……統治者に逃げられたら里見との関わりが聞けなくなる……それにもしかしたら、里見が今ここに居る可能性もある。

 警察達は革命を起こした者達に対して棍棒の様な物で応戦しており、その対象には当然アタシも含まれていた。アタシは殴りかかってきた警察の棍棒を掴み、頭突きを食らわせる。その痛みからか手放された棍棒をすぐに掴み、入り口を固めようとしている他の警察の一人に投擲した。棍棒は相手の足に当たっただけだったが、相手の防衛を崩すにはそれで十分だった。アタシはすぐさま走り出し、怯んでいる警察の胴体目掛けてドロップキックを打ち込んだ。地面に倒れ、隙だらけになったアタシを捕まえようと警察が数人接近してきたが、他の住人達によって羽交い絞めにされ、拘束された。

 急いで立ち上がったアタシは役所の扉を開け、中へと駆け込んだ。しかし、本来ならそこで働いている筈の職員達の姿はどこにも無く、ただ一人だけが広間の真ん中にポツンと立っていた。

「やっぱり来たんだねー?」

「何だ? お前ェ……」

「俺が誰かなんてさ、どーだっていい事でしょ?」

 男は着物を着崩しており、全体的に不真面目な印象を受ける男だった。ヘラヘラとした態度で人を不快にさせる。

「……お前ェも里見の人間か?」

「それが何?」

「アタシは今、お前ェに質問したんだ。ちゃんと答えになる返答にしろよ」

「アッハハ! そっか……やっぱりキセガワちゃんは怖いなぁ……」

「知ってんのか?」

「当たり前じゃん。八犬士最強の俺に知っててもらえるなんて、光栄な事だよ?」

 どうやらこいつも八犬士で間違いないらしい。という事は、外に居た警察の連中はこいつが呼んだ可能性があるな。アタシの同行を完全に把握してたみたいだしな。

「そーかい、そりゃありがてェ事だな。それじゃあその最強とやらのオリコーさんに聞くぜ。テメェんとこの頭はどこ居る?」

「2階」

「……随分と簡単に答えるんだな?」

「まーね。俺としては別にあの人が殺されても問題ない訳だし」

「どういう意味だ?」

「言ったでしょ? 俺は八犬士最強なんだよ。今一番邪魔なのはあの人だ。あれが居なくなってくれれば、強さからして俺が次の頭になれる」

 その態度からは自分達の頭に対する忠誠心などは微塵も感じられなかった。ただ自分の立場だけを考え、利用できそうだから下に付いているだけ、そんな態度だった。

「それじゃあその願いは果たされねェな」

「へぇ……何で?」

「アタシが居るからだ」

 アタシはその言葉を合図に駆け出し、男に拳を振るった。しかし、まるで最初からそういう攻撃が来る事を知っていたかの様に容易く回避され、脇腹に蹴りを入れられてしまう。その蹴りはとても人間とは思えない程の重さであり、アタシの体を簡単に吹き飛ばした。

「キセガワちゃんが居ても居なくても変わんないよ。俺はあいつを殺して『黎明』を奪うんだ」

 アタシは痛みを堪えながら床から立ち上がる。

「あいつは……何であれを奪ったんだ……?」

「さぁ? 何か、ナントカっていう爺さんに渡すとか言ってたけど、興味ないから名前とか忘れたよ」

 やっぱりトリスメギストスに渡そうとしてんのか……まずはオーレリアを利用して盗ませた後、何らかの手段を使ってレナスに移動させた。そしてその後に里見の連中に奪わせたって事か……随分と遠回りな事しやがる……。

「あー、別に心配しなくてもいいよ。あいつは俺が殺しとくし、キセガワちゃんもそのお仲間さんもしっかり殺しとくから」

「待て……! あいつらは関係無いだろ!」

「……そーゆーのは通用しないよ。既にお仲間さんとは一戦交えちゃったんだからさ」

「何……?」

「俺と犬坂ちゃんとで船の足止めに行った時に戦ったんだ」

 まさか……あの船、か? リオンと共にバフラムに雇われてたのに、突然裏切ってリオン諸共アタシを殺そうとした……。

「リオンとオーレリア、か……?」

「名前とかいちいち覚えて無いけど、剣士ちゃんと機械ちゃんでしょ?」

 間違い無い様だ。あの時あの船に乗っていた奴……でも何でここに居るんだ? リオン達が全員倒した筈だ。

「さて、と……あんまりグダグダ話してても時間の無駄だし、終わりにしよっか?」

 そう言うと男はこちらに近寄ると、アタシの手を踏みつけた。

「っ!?」

「さっさと死になよ」

 男は何発も蹴りを放ち続けた。体に足がめり込む度に全身に痛みが走り、熱を帯びてくるのが伝わる。

「キセガワちゃんのお仲間さん達ももう駄目みたいだ。外から声が聞こえなくなったね」

 男が言う様に、先程までは聞こえていた筈の喧騒が全く聞こえなくなっていた。まるで最初から何も起きていなかったかの様に……。

「哀れだねぇ。弱い奴ってホントに哀れだ。自分の実力も分からずに相手に挑んで虫の息」

「違う、な……あいつらは、勇気を持って行動したんだ……」

「それこそ違うよ。君達のはね、勇気じゃなくて、ただの馬鹿なんだよ」

 蹴りが入る。

「弱い奴は強い奴に支配される。それが人間社会の決まりなのにさ。それに抗うなんて馬鹿でしょ?」

 アタシの耳にある音が聞こえる。見なくても分かる、知っている音だった。その音は段々近くなってきており、アタシは目を閉じる。

「おっ? 死ぬ覚悟が出来たの?」

「……いいや違うな。これは、助けを待つ姿勢だ」

「助けなんて来ないよ。もう外で立ってる奴なんて俺の呼んだ警察達位だよ」

「それはどうかな……」

 直後、扉が開け放たれると同時に閃光が放たれた。それは男目掛けて飛んできていた。しかし、男はすぐさま飛び退き、それを回避した。

「……へぇ、久し振りじゃん」

「ええ、お久し振りですね」

 入ってきたのはオーレリアだった。

 オーレリアはアタシに駆け寄ると、体を支える様にして座らせた。

「大丈夫ですか?」

「……何で来たんだ」

「ご命令はされていませんでしたので」

 そういえば、リオンにこいつらが来ない様にって頼みはしたが、こいつ自身には何も言ってなかったか……。

 オーレリアは立ち上がり、男の方を見る。

「犬江様、警告です。我々への攻撃はお止めください」

「君に指図される覚えは無いけど?」

「いいえ、あります。あなたは一度私に敗北しました。忘れたという言い訳は通りません」

「……テメェ言ってたもんな? 弱者が強者に支配されるのは当然だってよ」

 アタシは近くにあった椅子を引き寄せ、それを頼りに立ち上がろうとする。

「あ~知らないんだねキセガワちゃん。俺の言う強者ってね、『俺自身』って意味なんだよ」

 クソ……ふざけた事言いやがって……。

「もう一度警告します。ここから退却すれば、私も危害を加えるつもりはありません」

「そーなんだ? じゃあこうしちゃお」

 そう言うと犬江と呼ばれた男は軽く頬を膨らませたかと思うと、こちらに何かを吹き付けてきた。オーレリアは顔の前に手を出し、それを止めた。よく見てみると人差し指と中指の間に小さな針の様な物が挟まっていた。

 もしかしてレーメイが昏睡状態になったのはこれが原因か? 今みたいに見えにいくい針を吹き飛ばして、そこに塗ってある毒で昏睡させたのか?

「お~、止めちゃうんだ?」

「我々に対する敵対行為と判断します」

「いいねぇ、俺もお前を殺したいと思ってたんだよ」

 その言葉を合図としたかの様に眩い閃光と共にオーレリアの背中から金属製の羽根が姿を現した。あの時、医務室で初めて見せた、オーレリアの羽……。

 羽根は電気を纏い、輝きを増し始めた。その輝きは目を背けたくなる程の強さだったが、同時に見とれてしまう程、美しくもあった。

「お前には前に言ったよね? 俺は薬を使ってあらゆる耐性を作る事が出来るって。もう俺の体にはお前のそれに対する耐性は出来てるんだよ!」

 犬江は拳を放つ。しかし、オーレリアはその拳を掴み、止めた。犬江はすぐさま蹴りや拳による打撃の連撃を放ったものの、ことごとくオーレリアに止められていた。攻撃の中には、アタシでも見切れない程の速さのものがあったが、それすらもオーレリアにはハッキリと見えている様だった。

「何なんだ、お前っ……!」

「あなたが仰ったではありませんか。私は機械です。あなたの筋肉の動く音も骨が軋む音も、目の動きも……そして、あなたの体に流れているこの不思議な流れも全て見えているのです」

 オーレリアは犬江の拳を掴んだまま話を続ける。

「これは何でしょうか? 私のこれと似ていますが」

 まさか、生体電気の事言ってんのか? 確か生き物の体には電気が流れていて、それで筋肉が動いてるらしい。正直自分の体の事ながら、信じられねェが……オーレリアが言ってるのは、そういう事なんだろうな。

「おいクソ! 離せ!!」

「犬江様、これには耐性を持っていますか?」

 オーレリアがそう言った瞬間、突如背中の羽根が纏っていた電気が収縮する様に小さくなっていき、やがて完全に羽根から無くなった。それと同時に犬江はその場に膝をつく様に力なく倒れ、動かなくなった。

 数秒程犬江を見下ろしていたオーレリアはこちらへと振り返り、しゃがみ込んだ。

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ……それより、今の何したんだ?」

「彼の体に私が放っていた力と同じ物を感じたので、そこに私の力を送り込み、動きを変化させてみました」

 つまりこいつは今、犬江の体に流れる生体電気の強さや流れる方向を意図的に操作してたって事か……? アタシはこういうのに詳しい訳じゃないから断定は出来ないが、犬江はその生態電気の変化に耐えられなくなって死んだって事か……。

「しかし今は感じません。恐らく死亡したものと思われます」

「ああ、そうだろうな……」

「キセガワ様、どうしますか?」

「……二階に里見の親玉が居るらしい。ケリを付けに行く」

「私もご一緒します」

 アタシは椅子にもたれて何とか立ち上がり、オーレリアを手で制する。

「いや、お前ェはここに居ろ」

「何故ですか?」

「まだ他の奴らが邪魔しに来るかもしれねェからな。ここで見張っといてくれ。アタシ一人で大丈夫だ」

「……分かりました。では、お待ちしておりますね」

「ああ」

 アタシは呼吸を整えると、里見一家との戦いにケリを付けるべく、階段を上り始めた。

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