第6話:グリンヒルズ市長、マカイ・グリンヒルズ
アタシ達は役所に向けて歩き続けた。通りには人が数人程見える。まァ、こんなもんだろうな。
アタシは地図に目をやる。この通りを真っ直ぐ行けばいい様だ。
「キセガワ様。少し宜しいでしょうか?」
「あ? どうした?」
「こんな事を言っては失礼かもしれませんが、礼節の方は大丈夫ですか?」
こいつアタシを舐めてんのか? 師匠からたっぷり仕込まれてるぜ。
「問題ねェよ。ちゃんと教えてもらってる」
「そうですか。それなら安心しました」
ったく……アタシを何だと思ってンだ。将来は大物落語家になるんだぞ? 礼儀ぐらい出来るぜ。
アタシ達は役所の前に辿り着いていた。よし……入るか。
扉を開けて中に入る。中は意外と普通の内装で、あんまり変わった印象派受けなかった。まァ、役所だから、当たり前か。
アタシは受付に近付く。
「すみません。少し宜しいですか?」
「はい。どのようなご用件ですか?」
「実は市長にお会いしたいのですが……」
「申し訳ございませんが、どのような理由からですか?」
まァ、そう言われるよな。
アタシはレーメイに目配せする。
「あの、私、レーメイ・トワイライトです。多分この名前を言って頂ければ、分かるかと……」
「……少々お待ちください」
そう言うと職員は受付から出ると、階段を上り、上の扉に入っていった。
アタシ達はその場で待たされていた。しかしおっせェなァ……何やってんだよ……。
そんな事を思っていると、先程の職員が降りてきた。
「お待たせしました。お通し致します」
「ありがとうございます」
アタシは頭を下げ、二人を引き連れ、二階に上っていき、扉の前に辿り着いた。
職員が扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
アタシ達は部屋に通された。
部屋の中には髭を生やした大男が居た。身長は180cmはあるだろうか。
男は頭を下げる。
「どうもお初にお目に掛かります。私はこのグリンヒルズの市長をしております。マカイ・グリンヒルズです」
なるほど。ここもトップの人間の名前が場所の名前になってんのか。
「どうも。私は喜瀬川雅。こちらのレーメイ・トワイライトの付き人としてこちらに参りました」
「キセガワさんですか。お名前の感じからすると、ニキタマ国の方ですか?」
ニキタマ国? まさか、この世界にも日本に似た国があるのか? とりあえず、そこから来た事にしておくか……。
「はい。ニキタマの出身でございます」
「そうでしたか! いやはや、これは珍しい! もし宜しければ、茶でも飲みながら……」
まずい……こいつ話が止まらなくなる人間だ。こっちから切り替えないと……。
「お気持ちはありがたいのですが、レーメイよりお話がございます」
「おっと、そういえばレーメイ様がご用時があるのでしたな」
レーメイが一歩前に出る。
「お初にお目にかかります。レーメイ・トワイライトです」
「実際に会うのは初めてですね。お父上からお話は聞いておりましたよ」
「ご存知でしたか。光栄です」
レーメイが頭を下げる。しっかり教育されてるみたいじゃねェか。
「頭をお上げください。それで、ご用件は何ですかな?」
「はい。実は……」
レーメイはあの国で起こっている事を話した。『黎明』とか言う魔術道具が盗まれた事。『黄昏』の力が制御出来ず、あの国が衰退に向かっている事を。
「……何と、その様な事が……」
「そこで、力を貸して欲しいのです。もし何か心当たりがあれば、教えていただきたくて……」
「申し訳ございませんが、私にも分かりません。一応部下にも話は通しておきましょう。見かけたらレーメイ様にお話が行くようにしておきます」
このおっさんは知らないか。まァ、違う国で起きた事だもんな。知らないほうが普通だ。
「ありがとうございます」
レーメイが頭を下げる。
すると、オーレリアが突然話し始める。
「ではマカイ様。もし何か分かりましたら、こちらの魔方陣をお使いください」
そう言うと、オーレリアは何かの模様が書かれた紙を出した。あれが魔方陣? あんななのか?
「分かりました。これで転送すれば良いんですね?」
「はい。それをお使い頂ければ、私の元に送られるようになっております」
オーレリアは頭を下げ、一歩後ろに下がる。
さて、これで一通り話したか?
アタシはレーメイに小さく耳打ちする。
「……もう話す事は無いか?」
「……はい。これで全部です」
アタシはマカイのおっさんの方を向く。
「それではマカイ様。我々はここで帰らせて頂きます。他の国でも捜査しなければなりませんので」
「分かりました。それではお気を付けて。もしまたグリンヒルズに来る事があれば、またお寄り下さい」
アタシ達は別れの挨拶を済ませると、役所を出た。
ふぅ……地味に緊張したな。
「キセガワさん、凄いですね!」
「あ? 何がだ」
「全く緊張してませんでしたよね?」
こいつ……見たまんまで判断すんなよ……。
「アホ。そう見せない様にしてたんだよ。緊張したに決まってンだろ」
「意外です。キセガワ様も緊張される事があるのですね」
オーレリア……こいつもアタシの事どう思ってんだよ……。
「二人して失礼な奴らだなお前ェらは」
「え? どうしてですか?」
「私は率直な感想を申しただけですが」
はぁ……こういう悪気の無い奴が一番質悪いな……。
アタシは二人に背を向ける。
「まァいい。それよりこれからどうすんだ? 一泊したら次の場所へ向かうのか?」
「そうですね。そうしましょうか」
「私もお嬢様に賛成です」
「ん、そうか。じゃ、宿に戻るか」
アタシ達は宿に戻るため、通りへと歩いていった。
アタシ達が通りを歩いていると、何やら人ごみが出来ていた。いったい何だ? さっきまではこんなに人居なかったのに。
人ごみを掻き分けるようにして人ごみの中心を見ると、大きなオブジェクトの横にいる男とチンピラの様な風貌の二人が言い争っていた。
「何度言ったら分かるんだ!」
「そりゃこっちの台詞だ!」
「そうだ! こっちの台詞だ!」
クソが……何だか知らねェが他所でやれよ……。
「これはまだ未完成なんだよ! 売る訳にはいかない!」
「だから! もう期日だって言ってんだろ! これ以上は親分が待てねぇんだよ!」
「待てねぇんだよ!」
見た感じ、借金の形か何かか? もうどうでもいいからさっさと終われよ……。
「そうはいかない! 一人の芸術家として、未完成品を売る訳にはいかない! 君達は何故それが分からない!?」
「ふざけんな! テメェの都合にいちいち合わせてたらキリがねぇんだよ!」
「ねぇんだよ!」
片方のチンピラ、繰り返してるだけじゃねェか……?
「絶対に売らないぞ! 少なくとも後5ヶ月は!」
「五ヶ月ゥ!? テメェ今までどれだけ待ったと思ってんだ! そうやって1年は経ってるぞ!?」
「経ってるぞ!?」
それは、あの芸術家が悪いな……。
しかしこれじゃあ埒があかねェ。しゃーねェ。止めに入るか……。
「オイ。レーメイ、オーレリア。そこで待ってろよ」
「キセガワさん? どうするんですか?」
「……余り無茶はしないで下さいね」
アタシは人ごみを掻き分けながら中心に入る。
「オイ!」
「ん? 何だい君は?」
「おい姉ちゃん。悪いんだがよ。邪魔しないでくれるか?」
「そうだ! 邪魔すんな!」
アタシは溜息をつく。
「……なァ? アタシは別にお前ェらがどうなろうが知ったこっちゃねェンだがよ? お前ェら邪魔なんだよ。どっか他所でやれや」
アタシがそう言うと、さっきから片方の言葉を繰り返しているチンピラがこちらに近寄ってきた。
「お前に指図される言われは無いぜ! 兄貴の邪魔すんな!」
「アタシだって邪魔したかねェよ。でもな、お前ェらが邪魔なんだよ」
「何だとぉ!?」
チンピラが胸倉に掴みかかる。何でどいつもこいつも三下は胸倉に掴みかかるんだろうな……。自ら逃げ場が無い距離に入ってくるのは間抜けとしか思えねェ……。
アタシはチンピラの腕を掴み、捻り上げる。
「いたたたた!?」
「ほら、別にアタシはお前ェらとやり合おうなんざ思っちゃいねェよ。お前ェらが退いてくれりゃあアタシも文句は言わねェよ」
アタシは突き放す様に腕を離す。
「ぐっ……!? ちくしょう……調子に乗りやがって……」
「おい待て。関係無い奴を巻き込むのはやべぇぞ。親分に大目玉食らう」
……なるほどなァ。こいつらの親分とやらは、最低限の良識は持ってる様だな。
「でも兄貴!」
「いいから、ここは帰るぞ。おい! 明日また来るからな! 明日は絶対持って帰るからな!」
そう言うと、兄貴分と思しきチンピラは弟分を連れてその場から走り去っていった。やっと退きやがったか……。
アタシはレーメイ達の所に戻るため、二人の方へ向かおうとした。しかし、芸術家の男に呼び止められた。
「君!」
「あァ? 何だよ。急いでんだよ」
「助かったよ! これで僕の芸術家としてのプライドは守られた!」
男はアタシの手を握ると強く上下に振った。
「痛ェンだよッ!! ……ったく、ざけんじゃねェぞ」
「ごめんごめん。でも助かったよ」
アタシは握られていた手を少しさすりながら男を睨む。
「お前ェなァ、自分の事を芸術家とか言うなら、納期ぐらい守れよ」
「え?」
「だァかァらァ! 納期を守れる様になってから、ようやく一人前だって言ってんだ! 納期も守れない奴は、いつまで経っても三流なんだよ!」
アタシは思いのままに怒鳴る。こいつは芸術家のプライドとか言ってたが、結局は甘えてるだけだ。
「別にお前ェがどうなろうが知らねェけどな。一人前になりたきゃ、納期を守れ。じゃあな」
アタシはいつの間にか俯いていた男に背を向け、歩き始めた。
「悪い。待たせたな」
アタシが二人の下に戻ると、レーメイは目を輝かせていた。
「凄い! 凄いです!」
「何だよ、今度はどうした?」
「格好良かったです! まさに職人って感じで!」
ふん。まァ、こういう風な事だと悪い気はしねェな。
「そうか? ま、あいつが気に入らなかっただけだ」
「キャーッ!」
レーメイがはしゃぐ。こうして見ると、年相応だな。さっきまで見せてたキチッとした感じが嘘みてェだ。ガキはそうやって笑ってりゃいいんだよ。
「ほら、はしゃいでねェで戻るぞ。こちとら腹が減ってんだ」
「お嬢様。余り騒がれると近隣の方のご迷惑になります」
「もう、分かったわよ。さっ、行きましょうか!」
アタシはうるせェレーメイと相変わらず物静かなオーレリアを連れて、宿へと戻っていった。




