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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第8章:許されざる者
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第59話:革命の灯火

 寝ていたレーメイを起こし、これからの事を話したアタシは仲間を連れて、あの広場に向かっていた。街に特に異常な様子は無く、いつもの様な時間を送っている様だった。

「しかし、あいつが言ってた事、マジなのか?」

「再開発の件ですか?」

「ああ。確かに一部が発展すりゃあ、そりゃあ多少は割を食う人間も出るかもしれねェが、そんなに大勢の人間が生活苦になる程なのか?」

「それに関してですが、私も少々疑問に思っております。多少は国からの援助があってもおかしくはありません。ですが、ヒュー様の発言ではその様なものが無かった、との事でした」

 どうにも妙な感じがする。傍から見れば発展している街だというのに、その実情は多くの失業者を放置している状況。いったい何でだ? ホームレスが居るっていう状況は、人から見ればあまりいい印象は受けない。なるべく隠そうとする筈だ。それなのに何故そうしない……? ここの政府は何を考えてる?

 長い間歩き続け、ようやくアタシ達はあの広場に辿り着いた。犬飼と戦った時とは違い、他のホームレス達も集まっており、人が居るという点で見れば良い印象を受けた。

「よう」

 着いてすぐにヒューがアタシ達の側に寄ってきた。

「来てくれたか」

「ああ、それで? どうすんだ?」

「まあ、こっちに来てくれ」

 そう言うとヒューはアタシ達を広場の端にある木陰の下に連れて行った。周りに居たホームレス達もそれに合わせる様にして同じ場所に集まり始めていた。

「キセガワさん……」

「何だレーメイ?」

「この人達は……この街の上の人達のせいでこうなったんですか?」

「……全員が全員じゃあないだろうがな。だがまあ、ほとんどがそうだろうよ。上がちゃんとしてなきゃ、こういう事にもなる」

「そう、ですか……」

 レーメイは不安そうな顔をしている。まあ無理も無いかもしれねェな。こいつはいずれは一国の主になる人間だ。今までは籠の中で育った雛鳥だったんだろうからな、こういう所もあるっていうのは知らなくても無理は無い。

 ヒューは木陰に置かれていた新聞を拾い上げると、話し始めた。

「革命を起こすのに最も必要なのは住人達の声だ。それが必要になってくる」

「それで?」

「実は、少し前にここの政府が強大な力を持った魔法使いを捕まえようとした事があったらしいんだ。ただ、本人を捕まえるためにその知り合いに無実の罪を着せて、本人を炙り出そうとしたんだ」

 穂がアタシの服をギュッと掴み、引っ付く。

「オイ、どうした?」

「……」

「……まあ無理もないだろうね。その魔法使いってのがその子だよ」

「何?」

「君は知ってるのかどうかは分からないけど、その子の実力はかなりのものらしい。聞いた話じゃ、国一つ容易く消せるって話さ」

 今まで穂が見せてきた魔法を思い出すとそれも嘘じゃない様な気がする。こいつが時々言ってる『未来の大魔法使い』ってのも嘘じゃないと思っちまう。

「本来なら、この事実は誰も知る事は無かった筈なんだ。いくらでも揉み消せた事だからね。でも、一人の勇気ある若者によって事実は公表された」

「誰なんだそいつは?」

「確か……フミヤって言ってたかな? まだかなり若い子だったけど、その子がこの事実を世間に広めたんだ。手作りの新聞という方法によってね」

 まさか……リオンの妹と一緒にあの『孤児院』に来た奴か? 確かにあいつならやりかねないって雰囲気があるな、そこまで違和感が無いというか……。

「それでどうなったんだ?」

「政府を非難する住民は増えてるけど、それ止まりさ。流石に政府に攻撃を仕掛ける様な人は居なかったよ」

「それじゃあ何か? お前ェらはその事実とやらを元に更に住民を煽るって事か?」

「それしか無い。話し合いで解決するのが一番だとは思ってるけど、そんなので解決してたら、今頃俺達はこんな所に居ないよ」

 リオンが口を開く。

「あんた達正気なの? 今まで色んな戦場を見てきた私から言わせてもらえば無駄な事よ?」

「無駄?」

「ええ。こういう風に革命を起こそうとしている人間が政府に戦いを挑んだのを見た事があるのよ。その結果どうなったと思う? 全員虫けらみたいに殺されたのよ? 一人残らずね」

「確かにそういう事もあるかもしれない。でも全部が全部じゃないと思うけど」

「……やりたいなら勝手にやればいいわ、あんた達の事だしね。でも、そういう事がほとんどだって事は頭に入れておいて」

 実際リオンの言う通りかもしれねェ。革命ってのは成功する時もあるが、勝っても負けても大勢の死人怪我人が出る。本来ならこういう問題には首を突っ込むべきじゃないのかもしれねェが、『黎明』を取り戻すためだ。やるしかねェ。

「ああ、勿論。えっとそれでだ、もし良ければなんだけど、その子の助けも借りたいんだ」

「み、ミノリですか……?」

「オイ待ちな。こいつは関係ねェだろうが」

「俺も情け無い話だとは思うんだけど、どうしてもこの新聞の内容だけじゃ煽れない気がするんだ。中には冷静な人だっているだろう? そういう人達は動かないと思うんだよ」

「だったらほっときゃいいだろうが。関わる気の無い人間まで巻き込む気か?」

「少しでも参加者は多い方がいい。戦わなくてもいい、ただ参加してくれればいいんだ」

 無茶だ。例え戦わなかったとしても、革命が失敗すりゃあそいつは共犯者として逮捕されちまう。

「参加した時点で共犯者だぜ?」

「言いたい事は分かるよ。でも、もうこうするしか道が無いんだ。今のままじゃ絶対に良くない」

 ヒューは一切譲ろうとしなかった。絶対的な信念を持っているからか、アタシの言葉では彼を動かす事は出来そうに無かった。そんな中、アタシの服が引っ張られる。

「あの……」

「穂、お前ェは黙ってろ」

「いえ、ミノリが引き受けます」

「あ?」

「ミノリも師匠も酷い事されました……ここの人達も酷い事されたんですよね? だったら力になりたいなって……」

 アタシは屈んで両肩を掴む。

「オイ、冷静にもの考えろよ。自分が持ってる力の強さは分かってんだろ? それによ、お前ェの師匠は『魔法は人を傷付けるものじゃない』って言ってたんだろ?」

「はい……でも師匠はこうも言ってたんです。『困ってる人のために力を使え』って」

「なァ穂……人の命に関わる事なんだ、分かるか? この件に関しちゃお前ェがやる事じゃねェンだよ」

「命に関わる事だからです! 大魔法使いは誰も見捨てないのです! 皆をお助けするのが役目なのです!」

 穂はその幼い目でアタシを睨みつけた。その目は憎しみというよりも覚悟で満たされている様に感じられた。決して揺らがないという強い意志を感じられた。

「…………分かったよ。じゃあ好きにしろ」

「はい!」

「じゃあ協力してくれるんだね?」

「ええ。ミノリは何をすればいいんですか?」

「簡単な話なんだ。住民の皆を一種の催眠に掛けて欲しいんだ。皆何かしらの不満は持ってるし、少し掛けるだけでいいから」

「分かりました!」

 恐ろしい事考えやがる……それは本当に本人達の意思なのか? アタシにはただ都合のいい駒として使ってる様にしか見えないんだがな……。

「それで、いつ決行するんだ?」

「早い方がいい。住民が集まり次第始めよう。武器はこっちでどうにかするよ。それまでは各自準備しててくれ」

 そう言うとヒューは穂を連れてその場を離れた。

「リオン」

「……ええ」

 アタシは穂の事をリオンに任せ、レーメイ達と共にその場に座り込んだ。他のホームレス達はそれぞれまばらな方向に散っていった。

「キセガワさん……大丈夫でしょうか?」

「大丈夫じゃないってのがアタシの見解だ。でもここまで来たらやるしかねェだろ」

「やっぱり……いっぱい怪我人が出るんでしょうか?」

「怪我人で済めばいいんだがな……」

 レーメイは暗い顔をし、俯いている。

「……どうしたよ?」

「不安なんです……私はいつかトワイライト王国を統治しなきゃいけません。でも、こんな私にちゃんと出来るかどうか……ここみたいになっちゃうんじゃないかって……」

 まあ、そう思っちまうだろうな……どれだけ自信を持ってても、こいつはまだまだガキだ。こうやって色んな事に直面して悩むのは当然の事だ。

「お前ェなら心配いらねェよ」

「何で言い切れるんですか?」

「お前ェは人の苦しみが分かる人間だ。そうやって不安に思ってるって事は、それだけここの人間に感情移入してるって事だ。それなら問題ねェよ」

「でも、人は権力を持つと変わるって言いますよね……いつか私もそういう風になっちゃうんじゃ……」

 レーメイがそこまで言ったところで、オーレリアが自らの手をレーメイの手に重ねた。

「オーレリア……?」

「お嬢様、私があなたに付いている理由、分かりますか?」

「え? それは仕事だし……」

「確かに最初はそうでした。トリスメギストス様に操られている形ではありましたが、初め私は仕事として働いていました。そうするのが私の役目だと思って。でも今は違うのです」

「う、うん……」

「私は、私の意思でここに居るのです。ただあなたのお力になるために」

「仕事じゃないの?」

「ええ。私には人の心が分かりません。ですからこんな事を言うと気持ち悪いと思われるかもしれませんが、私はあなたが初めて私の前で笑ってくれた時、嬉しかったのです。あなたが私を頼ってくれた時、嬉しかったのです。あなたが私の話す童話を楽しそうに聞いてくれた時、嬉しかったのです。あなたがおねしょをしてしまって、その下着を洗っている時に愛しく思ったのです。あなたが誰よりも賢くなろうと勉学に励んでいるのを見て愛しく思ったのです。あなたがその声で可愛らしい歌声を披露された時、愛しく思ったのです。あなたが……あなたが、私のために泣いてくれた時、私は……嬉しかったのです」

「そ、そっか……何か途中で思い出したくない事を掘り返された気もするけど……オーレリアの気持ちは分かったよ」

 レーメイは優しい笑顔をオーレリアに向けた。

「そうですか。では安心してください。お嬢様がどこかで間違えてしまったとしても、いつでも私がお側に居ますから。いつでも頼ってくだされば正しい道へと向かえる様に助言致しますので」

「ありがとう……これからも宜しくね? 大好きなオーレリア」

「はい。これからもお慕い申しております、お嬢様」

 どうやら、もうアタシがどうこう言わなくても大丈夫みてェだな。いつの間にかオーレリアも随分と人間っぽくなってる様だし、こいつらなら道を踏み外す事は無いだろうな。もし踏み外したとしても、すぐに軌道修正出来る筈だ。

 アタシは一安心すると、ヒュー達が帰ってくるまで木陰で体を休める事にした。





 数十分程待っただろうか? やがて広場の向こうから、ヒューを先頭に街の住人達が戻ってきた。かなりの数であり、この街の人間全員を集めてきたのではないかと思う程だった。

「遅くなってすまない」

「全員連れてきたのか?」

「いや、医者の先生とか老人、後は子供とかは残しておいた。流石に危険だな」

「キセガワのお姉さん! 安心してください! ミノリの魔法でちょちょっとやっただけですから、皆無理はしない様になってますよ!」

「あ、ああ。凄いな」

 穂は鼻をふんすと鳴らし、得意気な顔をした。

「それじゃあそろそろ始めよう。作戦としてはこうだ、まずは全員で総攻撃を仕掛けて、その混乱に乗じて統治者の居る役所へ侵入する。後はそこでとっ捕まえるだけ。シンプルだろ?」

「ああ、まあな……」

「よし、それじゃあキセガワ、君が先頭に立って指揮を執ってくれよ?」

「アタシが?」

「ああ、君強いんだろ? ぴったりじゃないか」

 あんまりこういうのはしたくないが、仕方がないか……なるべく被害が出ない様にアタシが先陣を切るしかないか……。

「……分かったよ。リオン、レーメイと穂とオーレリアを頼む」

「……ええ」

「よし、じゃあ始めよう。皆! 武器を持て!」

 ヒューの指示で人々が武器を持ち始める。とはいえ、刃物等は見当たらないため、用意されてないか、あるいは穂が使わない様に暗示を掛けてるのかもしれない。

「さっ、そこのベンチに立って、頼んだよ?」

「あ、ああ」

 アタシはベンチの上に立ち、住民達が武器を手に集まるのを見る。

 これで里見を炙り出せればいいんだがな……あいつがもし、『黎明』をトリスメギストスに渡すつもりなら、この街に居る筈だ。

 人々が集まったのを確認し、口を開く。

「……我々は、今まで政府によって支配されてきた。再開発によって仕事を無くし、家を失った者も居る。中には大切な者を奪われた者も居る。誰がやったか、これを黙認し、甘い蜜を啜り続けているのは誰か、もう言わずとも分かるだろう。今こそ我らは、自らの力でこの街を取り戻し、本来のあるべき街に戻すのだ!!」

 そう言い終わると同時に空気が轟く程の声が上がった。人々は異常な程の熱気に包まれており、完全に場の空気に呑まれている様だった。

「では行くぞ!! アタシに続け!!」

 アタシはベンチから降り、ヒューと一緒に歩き出す。

「凄いじゃないか。大盛り上がりだ」

「穂が掛けてる催眠の影響だろ」

「そうかな? 君の実力もあると思うけど」

「あって堪るか、そんな実力……」

 アタシは後ろを振り返り、レーメイ達が居ないかどうか確認をする。

 ……居ないみてェだな。リオンが上手くやってくれたか。流石にあいつらを巻き込む訳にもいかねェしな。

「今日こそ、歴史を変えるんだ……」

 ヒューのそんな言葉を聞きながら、アタシ達は役所へと進んで行った。

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