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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第8章:許されざる者
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第58話:Become human

 部屋を出て穂の所に向かうと、居間には座り込んだ姿勢のままのオーレリアとその側で椅子にもたれる様に眠っている穂の姿があった。アタシは穂の体を揺する。

「オイ、起きろ」

「ん…………あぇ?」

「もう朝だぞ」

「あ、喜瀬川のお姉さん……」

 穂は目を擦りながらフラフラと立ち上がると小さく伸びをする。

「お待たせしました。何とかなりましたよ」

「こいつ、治ったのか?」

「はい。ミノリも初めて見たんですけど、どうやら頭の所に記憶を司る所があったみたいです。そこが焼き切れてたので、ちょっと繋げてみました」

 そう言うと穂はオーレリアの頭に手を当てる。

「起こしてみます?」

「あ、ああ。頼むよ」

 アタシがそう返すと、穂は何やら小さな声でブツブツと呪文の様な言葉を呟き始めた。それはレーメイが使っていた様な呪文とは明らかに違うもので、どういう風に発音しているのかすらはっきりと認識出来ないものだった。

 突如オーレリアと穂の体が薄紫色のオーラの様なものに包まれた。更にその周りにキラキラと光が現れ始めた。光源になる様な物はどこにも無く、空間から突然現れているかの様に見えた。

「お、オイ何なんだこの光は……?」

 そう尋ねてみたものの、穂はアタシの問いには一切返事をせず、呪文を詠唱し続けていた。

 アタシにはよく分からねェが、もしかしてこいつが今使おうとしてる魔法は結構なもんなのか? 人間を簡単に瞬間移動させられる様な実力を持ってたが、そんなこいつですら相当集中しなきゃいけねェ魔法って事なのか?

 しばらくの間詠唱は続いていたが、やがてそれは止み、穂はオーレリアから手を離した。

「これで大丈夫な筈です」

「つっても、全然起きねェぞ?」

「まあまあもう少し待ってください。未来の大魔法使いたるこのミノリに間違いはありません!」

 その言葉の直後、オーレリアの体が突如痙攣しだし、オーレリアを囲んでいたオーラや光がその体に吸い込まれていく。

「何が起きてんだ……?」

「心配は無いです。魔力が流れ込んでるだけですから!」

 魔力ってのはこんなにも目にはっきりと見えるもんなのか? それともこいつの魔力がでか過ぎて、アタシにも見えてるってだけか?

 魔力を完全に取り込んだオーレリアは突然意識が戻ったかの様に顔を上げ、キョロキョロと辺りを見渡す。

「わた、しは……」

「ようオーレリア。数時間ぶりか?」

「気分はどうですかオーレリアさん? 体がどこか動きにくいとかあります?」

「キセガワ様……ミノリ様……何故、私を生かしたのです……私は罪深い者、許されてはならない者なのです……」

 アタシはオーレリアの前で屈む。

「いいかオーレリア、もしお前ェに償いてェって気持ちがあるんなら、逃げんじぇねェ」

「そのために、そのために私はこの体を止めようと……機能停止したのです。私は……」

「そういうのを逃げてるって言うんだよ」

「では、では私をあなたの手で殺してください。それならいいでしょう……」

 アタシはオーレリアの肩を掴む。

「いいかオイ! お前ェ何か勘違いしてんだろ! いいか、アタシは殺し屋じゃねェンだ。お前ェの我が儘に付き合うのが仕事じゃねェンだよ」

「ですが、それではお嬢様に顔向けが……」

「……あいつ、お前ェの事心配してたぞ」

「え……?」

「お前ェが動かなくなった後に泣きながらお前ェを起こそうとしてたぞ。お前ェが思ってる以上に、お前ェは大切にされてんだよ」

「お嬢様が……」

「お前ェはそんな奴の事、裏切るのか?」

 オーレリアは少し間、顔を下に向けたまま黙っていたが、やがて顔を上げた。その顔には、今までの無表情さはどこにも無く、決意に満ちた顔になっていた。

「そうですね。私がするべき事が今、分かりました」

「そうかよ」

「ええ。私はオーレリア。オートマタとしてではなく、お嬢様の一人の付き人としてこれからは動きます」

 アタシはオーレリアの手を取ると一緒に立ち上がった。

「ミノリ様、ありがとうございます。私を再起動させてくださったのはミノリ様なのですよね?」

「はい! でも初めての事なんで、もしかしたらちょっとおかしい所とかあるかもです」

「いいえ、問題ありませんよ。体のどの部分も問題無く正常に稼動しています。流石は未来の大魔法使い様ですね」

「え? いやぁ~へへへ……まあそれ程でもありますけど……」

 穂は嬉しそうに照れ笑いをしている。

 何か変わったな。以前のこいつだったら、今みたいな気の効いた言葉を言ったりはしなかっただろうな。穂が新しく魔力を流し込んだからか、それとも……。

 アタシはオーレリアに話しかける。

「オーレリア、ちょっと聞きたい事があるんだがな」

「何でしょうか?」

「昨日色々調べてたら、トリスメギストスが使ってるかもしれない建物の契約書が見付かったんだ。それでな、そこを調べようと思ってるんだがどう思う?」

「詳しい場所が分からない限りは何とも言い難いです」

「分かった。じゃあ付いて来てくれ」

 アタシは昨夜リオンと共に調査をしていたあの部屋へとオーレリアと穂を連れて行った。部屋の中では椅子に腰掛けたままリオンが寝息を立てており、机の上にはあの契約書や色んな本が置かれていた。アタシは契約書を手に取る。

「これだ」

「見せてください」

 オーレリアは少し間目を通していたが、やがて顔を上げてこちらを向いた。

「確かにこの街のものですね。今位置情報を検索してみたのですが、直接行くのは危険かと」

「何でだ?」

「この辺りには他の住人も住んでいる様なのです。私達の様な余所者がそんな所に居たら怪しまれます」

「やっぱりそうか……だとしたらどうするか……」

 パッと思いつくのは他の何かで住人達の気を逸らす事だ。しかしやるにしてもどうやってやるかだな……なるべく多くの人間を一つの場所に長時間集中させる事が出来れば怪しまれなくなるかもだが、それをどうやってやるかが問題だ。

 そう考えているとリオンが小さな呻き声を上げて目を覚ました。

「ああ……オーレリア、治ったのね……」

「ああ。今あの契約書を見てもらったところだ」

「そう。それで?」

「お前ェが言った様に危険らしい。今どうするか考えてるところだ」

「なるほどねぇ……」

 その時、玄関の扉が何者かによってノックされる。今までの事もあってか、アタシ達の間に緊張が走る。

「アタシが出る」

「何言ってんの、あんたは下がってなさいよ。まだ怪我も完治してないんだし」

「いや、敵じゃねェよ、多分」

 アタシは部屋を出ると玄関へと歩いていき、扉越しに尋ねる。

「……誰だ?」

「お礼がしたい。ホームレスのリーダーと言えば分かるか?」

 アタシはあの時助けたホームレスの仲間かと思い、扉を開けるとそこには、顔を包帯でグルグル撒きにした男が立っていた。もうほとんど顔が見えない程のだったものの、口元は捻れておりその声には聞き覚えがあった。

「もしかして、あの広場みたいな所に居た奴か? 確か犬飼とかって奴に血塗れにされてた」

「恥ずかしい話だけどね。俺はヒュー・ブーン、この辺のホームレスのリーダーやってる」

「……それで、そのリーダーさんがどういう訳でここに居んだよ。どうやってここを知った?」

「そう警戒しないでくれよ。助けてもらったからさ、お礼に来ただけだ」

 まあこいつに対してそこまで警戒する事はないか? もし敵なんだったら、わざわざあそこまでボロボロになる必要無かったもんな。

「ああそうか。でもアタシは別に礼なんぞしてもらっても困るンだよ。分かったらさっさと帰ってくれ」

「まあ待ちなよ。君達さ、困ってるんだろ?」

「何?」

「君を襲ってたあいつ、名前も誰なのかも知らないけど、君を狙ってた。他にもまだ居たんだろ? そういう奴が……」

「だとしたら何だよ」

「情報提供がしたいんだよ。きっと役に立つ」

 どうも怪しくも感じるな……。

「君達、この街の人間じゃないだろ?」

「何で分かる? もしそうだとしたら何だってんだ?」

「あまり舐めるなよ。ホームレスの情報網をさ。君達みたいな奴らは見覚えが無いんだ、余所者以外の何者でもないだろ?」

「それで?」

「こっからが本番だ。実はこの街ホルンハイムでは数年前から見知らぬ人間が何度も目撃されてる。役所に何度も出入りしてるのが目撃されてるし、この街の統治を任されてる奴とも仲良さそうに歩いてる所を見たって話もある」

「ただの知り合いなんだろ」

「名前は里見」

 その名前を聞いたアタシの体に衝撃の様なものが走った。全く予想をしていなかった名前が出たからである。

「里見……」

「その反応は何か知ってるね?」

「あ、ああ。アタシらを狙ってる奴らは里見一家って名乗ってたからな……」

「なるほど。じゃあ話は早いかな」

「あ?」

「単刀直入に言う。俺達に協力して欲しい」

「何言ってんだお前ェは……? 意味が分からんぞ」

 そう話していると、後ろからオーレリアがやってきた。アタシが遅かったため、心配して来たのかもしれない。

「どちら様ですか?」

「俺はヒュー・ブーン。協力してもらいたいだけだ」

「どういう意味ですか?」

「とりあえず、中で話させてくれ。聞かれたらまずいんだ」

 アタシはオーレリアを見る。

「入れてもいいか?」

「キセガワ様の判断に委ねます」

「……分かった」

 アタシはヒューを中に入れると居間へと向かった。そこには既に目を覚ましている穂とリオンが居た。最初は警戒していたものの、ヒューが事情を話すとその警戒心は無くなった。

 ヒューによると里見という女はよく役所に出入りしていて、聞いた話ではこの街の支配を裏からやるつもりだと話していたらしい。更に何やら光る球の様な物を所持していたらしく、それを大切そうに持っていたらしかった。

「間違いなく『黎明』ですね」

「それで、あんたは私達に何させようっての?」

「革命を手伝ってもらいたい」

「革命?」

「俺達も、元々は普通にこの街で暮らしてる住人だったんだ。でも再開発が進めば進む程、俺達の仕事は新しい住人達に奪われていった……その結果がこれだ」

 ヒューの話によると新しい人達が入ってくる度に、政府はホームレスになった彼らを見放したらしく、彼らの生活をサポートしようともしないらしい。

「このままじゃこの街が完全に里見とかいう奴のものになってしまう!」

「事情は分かった。しかし革命ってのは?」

「口で言っても分からない様だから体で覚えてもらうんだ。俺達にも人として生活を送らせるんだ」

 オーレリアがアタシに耳打ちする。

「彼に今協力すべきかと」

「何でだ?」

「革命のどさくさに紛れて里見の方々を見つけられるかもしれません。それに騒ぎが大きくなれば、それだけその場所に注意が向く事になります」

 確かに、そのタイミングなら怪しまれる可能性が大幅に減るな……。

「……分かった。あんたらの話に乗ってやる」

「本当か?」

「ああ、利害の一致ってやつだ」

「ありがとう……!」

 ヒューは包帯のせいで顔は分からなかったものの、嬉しそうな声でアタシと握手を交わした。

「でもどうやってやるんだ? 住人を煽る材料がねェぞ」

「それに関してはこっちで用意する。また後であの広場に来てくれないか? そこで詳しく話すよ」

 そう言うとヒューはアタシ達に感謝と簡単な別れの挨拶をすると外へと出て行った。

「キセガワ。あんた、正気なの?」

「何がだ?」

「革命なんて、大体ろくでもない結果で終わるのよ? 無意味な死人が出るだけ」

「……悪い。今はこうするしか方法が思いつかねェンだ」

「そうかもしれないけど……」

 リオンの意見も最もだ。大体が成功しない。仮に成功したとしても多くの死人や怪我人が出る。でも今はこうするしかない、そう自分に言い聞かせるしかない。

「何ならお前ェらは参加しなくていい。アタシが一人で紛れ込んで『黎明』を確保する」

「キセガワ様、今その様な事を決めるのは早計です。ヒュー様に詳しい作戦を聞いてからの方が良いのではないですか?」

「……あ、ああ。そうだな。お前ェの言う通りだ……ちょっとレーメイ起こしてくる」

 アタシはこの後訪れるであろう戦いを説明すべく、レーメイを起こしに向かった。

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