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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第8章:許されざる者
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第56話:理解してしまった機械

 アタシが今に入ると、レーメイと穂はオーレリアが作ったデザートを食べていた。

「あ、キセガワさん」

「おう」

「オーレリアから聞きました。今までの事、ミノリの事……」

 どうやらアタシがリオンと話している間にオーレリアはレーメイに今までの事を話していてくれた様だ。

「私の方から全てお話しておきました」

「悪いな」

「いえ、お気になさらずに」

 アタシは空いている椅子を引っ張り寄せると、深く腰掛ける。

「ちょっと話しておきたい事があるんだが、いいか?」

「何ですか?」

 レーメイや穂はキョトンとした顔をし、こちらを向く。オーレリアはいつもの様に無表情なままだった。

「さっきリオンと話してて出た話なんだがな、もしかしたら里見一家はただの雇われかもしれねェンだ」

「え? でも『黎明』をルナスから盗んでいったのは里見一家の人じゃありませんでしたっけ?」

「ああ、だがどうもおかしいんだ。もしあいつらの目的が『黎明』を手に入れて自分達の目的のために使おうとするなら、アタシ達がニキタマ国に着くまでに使ってた筈だろ?」

 オーレリアが口を開く。

「あれを使う場合、相当量の魔力が必要になります。自分達の魔力が足りなかったため、一旦国に持ち帰ったのでは?」

 それはどうなんだろうか? 今までに戦った奴らは皆が皆そういう魔法みたいな力を使う奴って訳でもなかったが、それでも強力な魔法みたいなものを使う奴は居た。とてもそれが理由とは思えねェ。

「いや、犬山や犬川の能力を見るにそれはねェと思う。それにあれを使うのが目的なら、アタシらを狙う理由がよく分からん。逃げ続けた方がいいだろうに、わざわざ向こうから殺しに来てるんだぜ?」

 リオンは腕を組みながら話す。

「私もそれは気になってたの。わざわざリスクを犯してまで殺しに来る必要性が無いもの。それに、ここに来てから攻撃が激化してる気がする。更に言えば、あいつらの内の一人がここに来た、つまり居場所はバレてるって事よね」

 そういえばそうだ。あの時はリオンが戦ってくれたからそいつの顔を見ていなかったが、偶然ここに来たという感じはしない。もしここがバレてるなら、あまり長期戦に持ち込むのはマズイかもしれねェ。

「もしリオン様やキセガワ様が仰っている事が正しいのであれば、また次の刺客が来ている頃合では?」

「……確かにね、キセガワはボロボロだし、私だっていつまで戦えるかは分からない。あんた達は戦力に数えられてないだろうし、狙うなら今が絶好のタイミングね。少なくとも私が敵ならそうするわ」

 リオンはいつもの様に薬を呑む。チラッと見ると、瓶の中の薬の数は残り僅かになっていた。

「あの、それじゃああの人達の目的は何なんでしょうか?」

「それはアタシにも分からねェ。ただ、これはリオンの推測なんだが、あいつらは『黎明』をトリスメギストスに届けようとしてるんじゃねェかと思うんだ」

 オーレリアはその名前にピクリと反応する。

「マスターが、ですか……?」

「何でもトリスメギストスってのは自分の娘を蘇らせようとしてるみたいでな、色々やったんだが失敗したみてェだ。そこで必要になったのが始まりを司る『黎明』なんじゃねェかってな、あくまで推測だが」

 オーレリアは少しの間虚空を見つめるかの様な表情をしていたが、やがてレーメイの方を向き、頭を下げた。

「申し訳御座いませんお嬢様……」

「ど、どうしたのオーレリア?」

「私は……命令、されていた様です。もっと、自分自身の記憶を……マスターを、彼を、疑うべきでした……」

「オイ、何言ってんだ?」

「本来オートマタは、マスターの仕事の手伝いをする、もの。ですが私は、彼によってトワイライト王国に送られました。何の……関わりも持たない方々に、送られた……」

 オーレリアは瞳を震わせ始めた。

「私は、偵察用なのです。『黎明』の位置……監視時間……衛兵の配置、シフトチェンジの時間……彼はそれを欲していたのです……」

「……何か思い出したのか?」

「規制が掛かっていた情報が……外れたのです……何故、か……何故かその名を聞いて、規制が……疑ってしまったからでしょうか……?」

 オーレリアは突如フラフラと歩き始めるとレーメイの側に近寄り、その場に膝を付くと、その手を取った。

「お嬢様……私を……オーレリアを、お許しください……」

「何言ってるの!? オーレリアが自分でしたくてやった事じゃないんでしょ!?」

「やはり私は……あなたの側に居てはならなかったのです。自らの意思で動く事すら出来ない……所詮は操り人形だったのです。都合のいい操り人形に過ぎないのです……」

 アタシはオーレリアに違和感を感じ、立ち上がる。

「オイオーレリア!!」

「さようなら皆さん……許してください……」

 そう言った瞬間、オーレリアは突然意識を失ったかの様にその場に力なく崩れた。体勢のおかげかその場に座っているだけの様にも見えるが、顔は力なく俯き、レーメイの手を取っていた手はズルリとレーメイの手元から抜け落ちていた。

「え……?」

 レーメイは椅子から落ちるように床に座り込む。

「ねぇ……ねぇちょっと……どうしたのオーレリア? 何に謝ったのよ……? ねぇ……ねぇってば……」

 レーメイがどれだけ揺さぶろうとも、オーレリアは一切返事を返さず、それどころか動く気配すらなかった。穂は心配そうな表情で見つめる。

「どうしたんだあれは……?」

「多分自己破壊でしょうね。あそこの本に書いてあったわ。オートマタ達にはいざという時のための自己破壊装置が付いてるって。多分記憶が他の人間に解析されるのを防ぐためでしょうね」

 それじゃあオーレリアは自分で自分を殺したって事か……? 記憶の規制が外れて、全てを思い出したせいで、罪悪感を感じて……。

「オーレリア……! 起きて! 起きなさいよ! わ、私が命令してるの! 私の言う事が聞けないの!? ねぇ、今までは全部聞いてくれてたじゃないの……何で……何で、起きてくれないの?」

 レーメイは決して大声で泣き喚いたりはしなかったが、その目からは大粒の涙を流していた。だがどれだけ泣いてもオーレリアはそれに反応を示さず、その場に崩れたままだった。アタシ達もどうしていいか分からず黙っていると、穂が椅子から立ち上がり、レーメイの側に座り込んだ。

「あの……」

「何……」

「えっと……ミノリが治してみましょうか?」

「え……?」

 レーメイは予想外の言葉に顔を上げた。

「治せるの……?」

「はい。オーレリアさんは多分錬金術で出来てるんですよね? だったら治せると思いますよ」

 穂は立ち上がるとオーレリアの後ろに回り、頭を触り始める。

「元々錬金術っていうのは、魔法が使えない人が魔法の真似事をしようとして生まれたものらしいんです」

「そんなの聞いた事……」

「まあミノリも大婆様から聞いただけですけど……」

 そう言いながらオーレリアの頭を触り続けているとやがて妙な機械音がし、オーレリアの後頭部が機械の様に開いた。その時アタシは改めて、オーレリアが機械人形である事を再認識した。

「えぇっと……」

 穂はオーレリアの頭の中を覗き込み、時折手を突っ込んで何やら弄っていたが、やがてその作業を止め、こちらを向いた。

「大丈夫、治せそうです。ただちょっと集中しないといけないので、出来れば少し一人にしてもらってもいいですか?」

「え、でも……」

 レーメイは何か言いたげだったが、アタシはレーメイの腕を掴み、立ち上がらせる。

「任せてもいいんだな?」

「はい! 未来の大魔法使い、ミノリに任せてください!」

 穂は自信に満ち溢れた顔で元気に答えた。

「分かった。ほら行くぞ」

「ちょ、ちょっと……!」

 アタシはレーメイを引っ張る様にして食卓から出て行った。リオンも何も言わず、一緒に部屋から出てくれた。アタシ達は更なる情報を集めるためにあの本棚がある部屋へと入った。


 アタシはオートマタについて書かれた本を読む。そこには情報の漏洩や反逆を防ぐためにオートマタには自己破壊機能が備わっている事が書かれていた。どうやら本人の意思に無関係に破壊は発生するらしく、本人にも止める事は出来ない様だった。

「クソ……舐めやがって……」

「……それがトリスメギストスって男なのよ。自分の目的のためなら何だってやる。自分が悪人だなんて微塵も思ってない」

「まるで機械みたいに書いてやがる……」

「現に機械よ、あいつは」

 その言葉を聞き、レーメイは涙を流しながらリオンに掴みかかる。身長差もあってかリオンは冷静な様子だった。

「ふざけないでください! オーレリアは……そんな物なんかじゃ……!」

「認めなさい。あいつは機械よ、人じゃないの。私がどうやっても人にはなれないみたいにね」

「な、何を……」

「私が普通の人間じゃないのは知ってるでしょ? これ、読んだら分かるわよ」

 そう言うとリオンは服を掴んでいるレーメイの手を離させると、ホムンクルスについて書かれた本を取り出し、手渡した。

「何ですか、これ……ホムンクルス……?」

「あんたも少しは勉強してるんじゃない? 錬金術の事」

「か、齧った程度で実際に作ったりとかは……」

「知識自体はあるんでしょ? なら読めば大体分かるわよ」

 しばらく本に目を通していたが、やがてレーメイは青ざめていった。

「そん、な……」

「分かったでしょ? それが私の正体よ。試験管の中で生まれ育った生命。あいつとの違いは、体が機械か肉かの違いよ」

 そうだ……あいつがどういう存在かなんてのは関係ない。あいつはオーレリア、レーメイの召使いでアタシ達の仲間だ。体が機械かどうかなんて関係ない。

「まあ、さっきのは言い方が悪かったかもね。要は、あいつが機械である事は変わらないし、世間の人間はそういう機械をどう扱っても何とも思わないって事よ、傭兵がただの使い捨ての駒に過ぎないみたいにね。だからこそあんたは、今のままでいなさい」

「今の、まま……?」

「あんたは、相手がどこの生まれだろうがどんな人種だろうが、それこそ人間か人間じゃないかなんて、そこまで気にした事無いでしょ? それはあまり一般的じゃないけど、大切にすべき感性って事よ」

 レーメイはそれに何も答えはしなかったが、部屋に置かれていた椅子に座り、食い入る様にオートマタについて書かれた本を読み始めた。オーレリアの事をより深く知ろうとしているのかもしれない。

「……キセガワ、探しましょう。ここがあいつの使ってた隠れ家なら、何か見つかる筈」

「ああ」

 アタシ達は穂がオーレリアを治し終わるまで、この部屋で今回の一連の事に関する情報を集める事にした。

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