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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第8章:許されざる者
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第47話:概ね、ヒト

 アタシは体の小さな痛みで目を覚ました。膝ではまだ穂が眠っており、隣に居たリオンも座ったまま眠っていた。

 その時、扉が開き、ヴィアベルの婆さんの所に行っていたオーレリアが戻ってきた。手には出て行った時には無かった何やら小さな袋を持っていた。

「戻ったか」

「はい。了承を頂けました」

「そうか。……その手に持ってんのは何だ?」

「クッキーです」

 オーレリアは袋を開け、中からクッキーを取り出した。素人目に見ても上手く焼けており、見ているだけで唾が出てしまいそうだった。

「……どっか、行ってたのか?」

「はい。少し、知り合いの所に……」

「また、言えねェのか?」

「……どうなのでしょうか。私には分かりかねます。言っても……良いのでしょうか?」

 オーレリアの奴、どうしたんだ……? いつもなら『秘匿情報』だとか言う癖に……。

「……まァ言いたくなったら言やァいい」

「……そうですか」

「そんで、こっからどうする? レーメイが治るまで待つにしてもどこで待つ? 下手すりゃ何日も掛かるぜ?」

「……それなのですが、一つ記録の中に心当たりがあります」

「そうか。そんじゃあ行くか」

 アタシはリオンの頬を軽く叩き、目を覚まさせた。

「……戻ったの?」

「はい。お待たせしました」

「しばらく住む場所が居るだろ? オーレリア連れてってくれるんだとよ」

 リオンは寝起きとは思えない程、何のふらつきも無く立ち上がった。

「そう。なら行きましょう」

 アタシは穂を起こさない様に抱きかかえた。まだ幼いという事もあってか軽く、疲れた体でも問題なく抱きかかえる事が出来た。

「その子連れてくの?」

「ああ。頼まれたからな」

 アタシは穂の高い体温を体に感じながら、オーレリアに付いていく事にした。



 どれ程歩いたか最早分からない程の間歩き続けたアタシ達はやがて街から外れ、森の中に入っていた。

「ねぇ、どこまで行くのよ」

「……もうすぐです」

 オーレリアが言う様にやがてアタシ達は森を抜け、開けた場所に出た。その中心には大きな建物が建っており、何か異質な雰囲気を放っていた。

「ここです」

「……ここか?」

「ねぇキセガワ、今思った事言っていい?」

「……何だよ」

「……ここ、孤児院よね?」

 普通ならリオンに突っ込みを入れてるところだ。どう見たって孤児院じゃない。全体的にボロボロ過ぎるし、とても複数の子供を住ませたりする様な構造じゃない。だが……アタシにもそう思えてしまった。

「そう、だな。アタシもそう思う」

「おかしいわよね?」

「ああ……明らかに違う筈なんだ。なのに……何故か脳がそう認識しちまう」

 オーレリアはこちらを向く。

「キセガワ様、実は私自身も何故ここを知っているのか分からないのです。本来この様な場所は来た事も無い筈なのです」

「それじゃあ何か? お前ェの記録とやらに誰かが意図的にこの建物の情報を入れたって事か?」

「分かりません。ですが、この『孤児院』が問題なく使用出来るというのは確かです」

 どうにもオーレリアの様子がおかしい。どこか……人間らしくなってる様な気がする。前まではもっと機械的な感じがした筈だが……。

「……そうか。まァとりあえず入ろうぜ。こいつもちゃんと寝かせてやらねェと」

「……そうですね」

 オーレリアは明らかに孤児院ではない建物の扉を開け、アタシ達はそれに続いて入っていった。


 内部に入ったアタシ達は、それぞれ分かれ、建物の中を探索し始めた。建物の中は外部とは打って変わって綺麗なものだった。いくつかの部屋にはフラスコや見た事も無い実験道具が置かれていた。それは以前リオンと共に漂着した島の遺跡にあった物とそっくりだった。

「なァリオン」

「ええ。あの遺跡と同じね……」

「こりゃ明らかにおかしいぜ」

「ええ。でも間違いなく『孤児院』なのよ……」

 そう、間違いなく孤児院だ。だが、アタシが昔居た養護施設には少なくともこんな実験室みたいな部屋は無かった。それにこんな実験道具みたいなものも、当然無かった。

「どうも調べとく必要があるみたいだな。とりあえず、このチビを寝かせとくのが先か」

「そうね。私は少しここを見てるから、オーレリアに寝られる場所聞いてきたら?」

「ああ。行ってくる」

 アタシは実験室と思われる部屋を出ると、少し離れた所にあった広間に居るオーレリアに声を掛けた。

「そっちは何かあったか?」

「いえ、こちらには何も」

「そうか。こいつ寝かしたいんだが、どこならいい?」

「少々お待ちを。箪笥の中に古い物ですが毛布がありましたので取ってまいります」

「分かった」

 アタシは部屋を出て行くオーレリアを見送り、穂を部屋にあった古びたソファーに寝かせた。相当疲れているのか目を覚ます様子は無く、スヤスヤと心地良さそうに眠っていた。

 出来る事なら、こいつもアタシ達の側からは離れるべきだ。だがもし今離れれば、またこいつの身を狙う連中が来るかもしれない。そうなれば、師匠との約束を守ろうとしているこいつは何も抵抗する事が出来ないかもしれない。そう考えると、ここに居た方が安全なのかもしれない。

 そんな事を考えていると、毛布を持ったオーレリアが戻ってきた。

「お待たせしました」

「おう、掛けてやれ」

「はい」

 そう言うとオーレリアは毛布を寝ている穂に掛け、その隣に静かに腰掛けた。

「どうした?」

「ミノリ様の面倒は私が見ておりますので、キセガワ様は少し休養をとられては如何でしょうか? ここ最近無理をされている様な気がしますが」

 反論をしたかったが、実際何とか体を動かしている状態のため、何も言い返せなかった。

「そうだな。とりあえず休憩がてらちょっとそこら辺見てくるわ」

 そう返事を返したアタシは一先ずリオンが待っている部屋へと向かう事にした。


 部屋に戻ると、リオンは何やら部屋に置かれていたと思われる本を読んでいた。

「よォ、戻ったぜ」

「おかえり」

「何読んでんだよ?」

「……これ」

 そう言うとリオンは本を開いたままこちらに向け、ある1ページを指差した。

 そこには『ホムンクルスについて』と書かれており、その他にもズラッと文字が並んでいた。

「……いまいちよく分からんが、何が言いたいんだ?」

 そう尋ねると、リオンは手を震わせながら部屋に置かれているフラスコの一つを指差した。

「あんたもおかしいとは思ってたんでしょ? 私は明らかに普通の人間じゃない。それ位は自分でも分かってたのよ。その答えが……これよ」

 そう言うとリオンはいつから放置されていたのか分からないような埃を被ったフラスコを手に取り、その埃を掃いながらこちらに見せてきた。

 そのフラスコ内には胎児と思われる生命体が蠢いており、その真っ黒な目はこちらを捉えている様に感じられた。

「私は、ホムンクルス……人工的に作られた存在。元になった人間すら存在しない、母親すら居ない」

「……まだ決まった訳じゃねェだろ」

「……いいえ、決定事項よ」

 そう言うとリオンはその部屋の机に置かれていたノートを取ると、あるページを開き、床に投げた。

 そのページにはリオンと思われる姿をした人間のスケッチが描かれており、アタシには理解が出来ないメモがあれこれと書いてあった。

「それはどう見ても私よ」

「……ああ、そうかもな」

「ふざけやがってッ!!」

 リオンは感情的に叫びながら手に持っていたフラスコを机の角に叩き付けた。フラスコは砕け散り、辺りにその破片を撒き散らし、中に入っていた命は床の上に投げ出された。

「オイ落ち着けよ」

「落ち着け!? これでも落ち着いてる方よ! こんな! こんなふざけた物見せられて!」

「お前ェ自身でも分かっちゃいたんだろ? 自分が普通じゃないってのは」

「分かってたわよ! でも、母親位は居ると思ってた! 元になった人間が居るんだと思ってた! それなのに、私は……フラスコの中で育ったって、分かったら……私は、誰なのよ……?」

 リオンは床で呻いている命を見下ろしながら聞いた事も無い様な弱々しい声を出した。

「お前ェはお前ェだろ。どっから生まれたとか関係ねェよ」

「関係あるわよ……。自分が誰なのかも分からないなんて、怖いの……。こんな……香辛料や馬糞で作られた体だなんて考えるとゾッとするのよ……」

 アタシはノートを拾い、中を見る。確かにホムンクルスを作るときには香辛料や馬糞などが使われるらしい。正直、こんなもので人が作れるとは思えないが……。

「……お前ェ、これに書かれてる事信じてんのか?」

「ええ。私は作られた存在。戦う事だけを目的とした肉人形」

 リオンは恨めしそうな表情をしながら足元でもがく命を見ると、床が軋む程の力で勢い良く踏みつけた。踏みつけられた未完成の命は泣き声を上げる事すら無く、床の上に血溜りとなって広がっていた。

「……いいわよ。そっちがその気ならやってやろうじゃないの」

「オイ、何言ってんだ?」

「そのノートを見たら持ち主が分かったのよ。今まで思い出せなかったけどようやく分かったわ。私達を作った奴が」

「誰なんだ……?」

「錬金術師、トリスメギストス」

 リオンは手元を震わせながら懐から小瓶を出し、中に入っていた薬を無理矢理呑み込んだ。

「そいつは生体兵器として使う目的で私達を作った。だったら……お望み通りにしてやるわ」

「……殺すのか?」

「ええ。今まで散々殺ってきたんですもの、今更一人増えたところでどうって事無いわ」

 リオンのトリスメギストスに対する殺意は本物らしい。かつてアタシに向けていたそれとは比べ物にならない。だが、本当にそれで、こいつの心は救われるんだろうか……?

 その時、この『孤児院』の扉が開かれる音が聞こえ、アタシとリオンは同時に身構える。

「……聞こえたか?」

「ええ。どうやら相当あんたを消したいらしいわね」

 そう言うとリオンは丸腰のまま歩き始めた。

「オイ、アタシが行く」

「あんたは寝てなさいよ。その体じゃしばらくは無理」

「馬鹿言うんじゃっ……!」

 引き止めようと体を動かした瞬間、脇腹に激痛が走り、アタシはその場に膝を付いてしまった。

「クソ……」

「大人しくしてなさい。そこら辺の棚の中に薬みたいなのもあったから、使いたければ使いなさい」

 アタシは体を引き摺り、壁に体をもたれさせる。

「……死ぬなよ」

「ええ。今日は久しぶりに暴れたい気分だから大丈夫よ」

 そう言うとリオンは部屋を出て廊下へと姿を消してしまった。

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