表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第8章:許されざる者
46/65

第46話:オートマタのココロ

 キセガワ様からの命を受けた私は、ヴィアベル様と話をするために港へ停泊しているシップジャーニーへと戻ってきていた。広間にはヴィアベル様やヴォーゲ様、そしてバフラム様がいらっしゃった。

「ヴィアベル様、少しお話が」

「……何だい?」

 どうやらヴィアベル様は、これから私が話そうとしている事に感づいていらっしゃる様だ。

「キセガワ様からの伝言です。『もうこれからは運ばなくてもいい』との事です」

「……まぁ、あいつならそう言うだろうねぇ」

「オーレリアさん、本当にキセガワさんはそう仰っていたのですか?」

「はい。これ以上は、皆様も里見の標的になる可能性が高くなるとの事で」

 バフラム様は腕を組みながら何やら思案されている様だったが、やがて私へと口を開いた。

「私もそうするのがいいと思う」

「何だい、あんたにしちゃ珍しい判断じゃないか」

「……私は、彼らを雇っていた身です。どういう奴らなのかは良く分かっているつもりですが?」

「そうだね……。それで、あんたはどうしたいんだい?」

 ヴィアベル様はおかしな質問を私にしてきた。私がどうしたいか? 私にはやらねばならない使命がある。

「私は……お嬢様をお守りするのが使命です。この身が果てるまで、お嬢様に付いていくつもりです」

「……そうかい」

 そう仰ると、ヴィアベル様は私に近付き、少し屈むと目線を合わせた。

「いいかい? 何があっても、あんたは自分が正しいと思える道に進みな。いいね?」

「……はい。それでは失礼します」

 私にはヴィアベル様の仰った言葉の真意がさっぱり分からなかったが、キセガワ様との約束は果たせたと判断したため船を出て、シップジャーニーとの別れを告げた。


 港から出た私は病院へと戻るため、元来た道を戻っていた。そんな中、私の目にふと一つの店が映った。『レストラン クィジーン』、外観は特に何の変哲も無いレストランだと認識したものの、何故か私は吸い寄せられる様にその店へと足が動いていた。

 扉を開け中に入ると、一人の少女が私の元へと歩いてきた。

「いらっしゃいませ! お一人様ですか?」

「はい。一人で参りました」

「では、こちらにどうぞー」

 私は少女に案内されるまま席に着く。

 彼女は、お嬢様と少し年齢が近い様に思われる。その人当たりのいい笑顔からは、敵意や悪意といったものはまるで感じられない。エプロン姿の良く似合う、可愛らしい少女だ。

 その様な事を考えながらふと厨房を見ると、そこには私がよく知っている顔があった。どこか自信の無さ気な表情、少しおどおどした動き、間違いは無かった。

「申し訳御座いませんが、あちらにお方にこちらへいらっしゃる様に言伝を頼めませんでしょうか?」

「え? えっと……ヘルメス姉の事ですか?」

「はい。ヘルメス様です」

「しょ、少々をお待ちを……」

 少女は私に対して怪訝な顔を浮かべながらも、ヘルメス様の下へと向かっていった。そしてお母様と思われる女性と何やら話し、ヘルメス様ともう一人、青年を連れてこちらに戻ってきた。

「あ、あの……何の御用でしょうか?」

「ヘルメス様。お初にお目に掛かります。私、マスターから使命を仰せつかってこちらに参りました」

「マ、マスター……?」

「はい。私の主、トリスメギストス様です」

「えっ……!? し、師匠……!?」

 そう、私はお嬢様の下へと就く前に、マスターからもう一つ頼まれていた事があった。それが彼女、ヘルメス・アルケミー様の保護だった。マスター曰く、ヘルメス様を修行に出させたはいいものの、自信の無い引っ込み思案な性格のせいで酷い目に遭っているかも知れない。必要ならば戻る様に伝えて欲しいとの事だった。

「マスターからの伝言です。『どうしても辛いようなら、無理をせずに帰ってきなさい』との事です」

「え……な、何で……。し、師匠が修行をしてこいって言ったのに……」

「マスターの真意は私にも判断出来ません。どのように判断するかはヘルメス様にお任せします」

 何故か分からないが、咄嗟に嘘をついていた。マスターのプライドを守るためか、それともヘルメス様のプライドを守るためなのか、オートマタの私にはまるで分からない嘘だった。

 そんな事を考えていると、一緒に来ていた青年が私に質問を行ってきた。

「あの、すみません。お名前を教えてもらっても宜しいですか?」

「これは失礼しました。私の名前はオーレリアと申します」

 そう答えると、青年はどこか不思議そうな目で私を見始めた。

「私の事について、何か疑問を感じておられる様ですね。質問してくだされば、お答えいたします」

「じゃあ、あなたの性別について教えてもらえますか?」

「はい。私には、明確な性別は用意されておりません。性別は私にとって必要の無いものだからです」

 どうやら彼は私の性別に疑問を感じていた様だった。実際、キセガワ様もお嬢様も私が人間では無いと知った時、驚いていらっしゃった。私はそんなに変に映っているのだろうか?

「え、えっと?どういう事ですか?」

「はい。私はマスターによって造られたオートマタでございます。オートマタは他の生物と違い、子を残す事は出来ません。故に、私に性別は必要無いのです」

「えっと……あなた自身としては、ヘルメス姉にどうして欲しいんですか?」

「はい。私にはそれに関する意見を言う権利はありません。権利は全て、マスター及びヘルメス様にあります」

 その様に少女と話していると、青年が再び尋ねてきた。

「悪いんですが、オートマタについて教えてくれませんか?」

「はい。オートマタは、別名、機械人形です。人の手によって造られ、人の手助けをする事が私共の仕事です」

「……あなたはどうやって動いてるんですか?」

「はい。私の体内には様々な部品が詰まっており、魔術及び錬金術の力によって動いております」

 実際の所、私自身にも私の体の事は完璧には分かっていない。どこにどういう部品があり、どういう機能が内蔵されているのか、それを完璧に知っているのは恐らくマスターだけなのだろう。

「ヘルメス様。どうなさいますか?お選びください」

 私から選択を迫られたヘルメス様はしばしの間思い悩んでいたが、やがて決意を感じさせる目で私に答えた。

「……私は、まだ帰りません。せめて、自分に自信が持てるまでは……」

「……はい。分かりました。では、マスターにそのように伝えて参ります」

 ヘルメス様からの答えを得た私は、キセガワ様達の下へと戻るために店を出ようと席を立ち、扉へと向かった。

 しかし、そんな私を少女が呼び止めた。

「あ! 食事はされないんですか!?」

「私は食事をとらなくても、活動可能です。睡眠も必要ありません。必要の無い事をする必要性はありません」

 そう、私に食事や睡眠など必要ない。それらの事をせずとも活動が可能、それがオートマタである私の強みなのだ。だからこそ、私は今までお嬢様のどんな我が儘にもいつだって応えられてきたのだ。

「あの……! せめて、何か食べていってくれませんか……!?」

 その言葉を聞いた時、私の中に断るという選択肢は出てこなかった。今までキセガワ様から言われた時は断れたというのに、何故か彼女には断れなかった。それがマスターやヘルメス様の命令に背かない様に作られた設定からなのか、それとも私自身の意思なのかはオートマタである私には分かりそうもなかった。

「……はい。私の行動の決定権はマスター及びヘルメス様にあります。それ故、ヘルメス様の指示に従います」

 そう言い、私は席へと戻る。

「食事の準備は完了しました。いつでも問題ありません」

「あ、ちょ、ちょっと待って下さいね! すぐに作りますから……!」

 そう言うとヘルメス様はどこか嬉しそうな表情で厨房へと戻っていった。

 笑顔……それは人間が嬉しい時にする表情だ。ヘルメス様はいったい何を嬉しく感じたのだろうか。いくら記録をチェックしても、それに該当する答えが見つからない。

 記録をチェックしている最中の私に再び青年が尋ねる。

「あの、質問しても宜しいですか?」

「はい。質問をどうぞ」

「あなたはどこから来たんですか?」

「はい。先程も申し上げました様に、マスター、つまりはトリスメギストス様によって造られました」

「えっと、そうでは無くて、ここに来る前にいた場所を教えてもらえませんか?」

「はい。私は、とある孤児院におりました。その際、マスターからの指令が届きましたので、こちらに参りました」

 ……何故私は今そんな嘘をついたのだろうか。孤児院など行った事も無いというのに。それにマスターからの指令……? 私は以前言われた事を思い出して遂行しようとしただけで、別に今マスターから命令を下された訳でもない。

「何故、孤児院にいたんですか?」

「はい。マスターからの指示により、孤児院の監視を行っておりました」

 監視……? 違う。私の使命はお嬢様をお守りする事。それが最優先事項の筈。

「何故監視を行っていたんですか?」

「……申し訳ございません。現在の質問者様ではその情報にアクセスする事は出来ません。この情報にアクセスするには、マスターからの許可が必要となります」

 私は疑問を解消すべくあらゆる記録を再生し、一つずつ確かめてみたものの、どこにも答えが見つからなかった。これについて知るにはマスターからの許可が必要な様だ。何故マスターは私にこの様な情報規制を……?

 あるのかどうかも分からない頭を働かせていると、ヘルメス様が皿を持って机に近寄ってきた。

「お、お待たせしました」

 皿の上には今までに見た事も無い物体が置かれていた。いや、今まで食に無関心だったため、ただ私が無知なだけだろう。

「ヘルメス様。私から質問しても宜しいですか?」

「は、はい……どうぞ」

「このお皿の上にあるのは何という名前の食べ物なんですか?」

「え、えっと……これは、ロマノフ、です」

「ロマノフ?」

 やはり記録に確認出来ない名前だった。

はい。わ、私も詳しくは覚えてないんですけど、以前……本に載っていたのを見た事があって……すぐに出来るのはこれくらいかなと……」

「なるほど。ロマノフ。記憶しました。では、食べてみます」

 そう言い、『ロマノフ』に手を伸ばそうとすると、突然止められた。

「あっ! 駄目ですよ! スプーンを使ってください!」

「畏まりました。ヘルメス様の指示通り、スプーンを使用します」

 どうやらこれはスプーンを使用して食べる物の様だった。ヘルメス様は酷く不安げな様子でこちらを見ている。余計な心配を掛けさせてしまったのだろうか。

 私は『スプーン』を使い、『ロマノフ』を口に挿入する。

「どうですか?ヘルメス姉が作ったロマノフ、おいしいですか?」

「……口の中に未知の感覚が広がります。該当する表現が見当たりません。これは何ですか?」

「え、えっと……多分それは、『甘い』って感覚です」

「……『甘い』。なるほど。理解しました」

 これが『甘い』というもの……。お嬢様がよく食事の後にデザートを食していらっしゃったが、その時お嬢様もこの様な感覚を感じていたのだろうか?

「ど、どうですか?甘いの、おいしいですか?」

「……おいしい、という感覚がはっきりとは分かりませんが、もっと口に入れてみたいです」

「そ、そうですか……良かった……」

 私は『甘い』『おいしい』という感覚をより深く理解するために、更に『ロマノフ』を口へと運んだ。その度に『甘い』『おいしい』に該当すると思われる感覚を覚えた。

 やがて『ロマノフ』を食し終えた私はヘルメス様に一つお願いをしてみる事にした。

「……こちらから質問しても宜しいですか?」

「は、はい。何でしょう?」

「ロマノフの作り方を教えては下さいませんか?」

「い、いいですよ? 厨房に来ていただけますか……?」

「はい。ヘルメス様」

 ヘルメス様は少しまた嬉しそうな表情をすると、私と共に厨房へと向かった。


 厨房に着いたヘルメス様は『甘い』『おいしい』『ロマノフ』の作り方を私に教授し始めた。その様子は『楽しそう』に見え、とても充実している様に見えた。

 やがて作り方を『記憶』した私は出入り口前に立っていた。

「それでは皆様、私は戻ります。ヘルメス様が皆様の下に残られる件、マスターに伝えておきます」

「お、お願いしますね……」

「はい。ヘルメス様。承りました」

 そう言って振り返ろうとした時、少女と青年の母君と思われる女性から小さな袋を手渡された。

「もし良ければ、これを持って帰って?」

「何でしょうか?」

「クッキーよ。孤児院の皆に持って帰ってね?」

「はい。任務に関係している物と判断したため、持ち帰ります」

 私はまた嘘をついていた。しかし、これは話を合わせるためのものであり、自分で意識してついた嘘だった。

「また来てね?今度は他の子も連れてきて?」

「……承りました。今度は他の皆様を連れてきます」

 そんな会話をしていると、この店の常連客と思われる人々が一人また一人と入店してきた。

「母さん。そろそろ……」

「ええ。それじゃあね。気を付けて帰るのよ?」

「はい。必ず、このクッキーを持って帰ります」

 私を感謝の意味を込めて大きく頭を下げ、ヘルメス様達に背を向け歩き出した。しかしそんな私を彼女は呼び止めた。

「オーレリアさん!」

「何でしょうか?」

「も、もし、体の調子が悪くなったりしたら、私の所に来てくださいね……? 可能な限りで、治しますから」

 私は果たして壊れるのだろうか。私の記憶が正しければ、マスターは私を完璧なオートマタとして設計し、開発した。私も『人』の様に壊れたりする日が来るのだろうか?

「……我々オートマタは基本的には壊れません。何百年も生きることが可能です。……ですが、もし何かあれば伺おうかと思います」

「……はい!」

 私はもう一度頭を下げると、再び病院へと向けて歩き出した。

 ……お嬢様は甘い物が好きだった。城に居た時はいつもの様に食後のデザートを食べていらっしゃった。きっと私が『ロマノフ』を作れば、お目覚めになったお嬢様はお喜びになる筈だ。もしかしたら驚かれるだろうか? それとも、お褒め下さるだろうか? ……いや、召使いたる私に褒めるなど不要。そんなもののためにお嬢様の下に就いている訳では無いのだ。

 私は私自身の浅はかな考えを改めながら、病院へと向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ