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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第7章:ニキタマ国
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第40話:恩返し

 敵からの攻撃を耐えていたアタシ達の下に、待ち望んでいた者の一人がやってきた。

「母さん、連れてきました」

 バフラムは食事を貰っていたからか、牢屋に入れられていたにも関わらず、血色は良さそうに見えた。

「……何ですか、師匠」

「大体分かるだろう? この状況をどうにかしないといけない。あんたの意見が聞きたいんだよ」

 バフラムは自嘲的に笑う。

「私に……? 何を馬鹿な……あなたともあろう者が……」

「バフラム、今はあんたが必要なんだよ。このままじゃ、民達も危ないんだ」

「あなたなら逃げるのでしょう? あの時も、そうしたのですから……」

 レーメイが声を荒らげる。

「いい加減にしてください! このままじゃ皆死んじゃうんですよ!? 分からないんですか!」

「……私は水軍の人間だ。海で死ねるなら本望だ」

 アタシはバフラムに掴みかかる。

「テメェいい加減にしろよ。お前ェがどうなろうが知った事じゃねェがな? ここには、親を亡くしても一生懸命頑張って働いてる様な奴も居んだよ。お前ェの勝手な都合で、関係ない人間死なせんのか?」

 バフラムはアタシの問いには何も答えなかったが、掴んでいた腕を振り解くと、婆さんの方に向いた。

「……分かりました。お見せしましょう。私の方が正しいという事を」

「ああ、しっかりと見せて貰おうじゃないか」

 バフラムはヴォーゲや婆さんと作戦について話し始めた。

「あの船は間違いなく私達を裏切った者達の船です。それは間違いありません」

「それで、どうすんだい?」

「この状況から見て、彼らの目的は恐らく足止めでしょう。下手に逃げようとすると反って被害が出る」

「それで、どうしろと……」

「若造、君は師匠の下で育ったから、こういう選択はしないかもしれないし、賛成出来ないと思うがよく聞け」

「……ええ」

「一隻、突っ込ませる」

 ヴォーゲの眉間に皺が寄る。

「突っ込ませる、ですって?」

「ああ。この船だと近付いても的になるだけだ。それに相手は相当戦い慣れている相手だ。ならば、小さい船に精鋭を乗せて近付け、白兵戦を仕掛けるしかない」

「待ってください! まさか、民達の船を使えと言うのですか!」

 婆さんはヴォーゲを手で制す。

「待ちな。こいつが言ってる事は最もだ。問題は……」

 アタシが答える。

「誰が乗るか、だな?」

「そうだね。戦い慣れてる奴じゃなきゃいけない」

 レーメイは心配そうな顔でこちらを見ている。もう何かを察しているのだろう。

「ハッ……なら決まってンじゃねェか。アタシが行きゃいいんだろ?」

「悪いけど、今回はそうはいかない」

「あ? 何でだよ」

 婆さんはアタシの足を見る。

「その体でどう戦うってんだい?」

「何ともねェって。ちょっとミスっただけだろ……」

 アタシが足の痛みを抑えながら立ち上がろうとすると、突然肩に何者かの手が置かれ、そのまま座らされてしまった。

「あんたは寝てなさいよ」

 アタシが振り返ると、そこにはリオンとオーレリアが立っていた。リオンは何故かアタシが回収したあの二人の遺品を持っていた。

「お前ェ……」

「言ったでしょ。こいつらはあんたが守りなさいって」

 レーメイがリオンを睨む。

「どういうつもりですか……恩を売るつもりですか……?」

「そういうんじゃないわよ。こういう荒事は私みたいなのが似合ってる。それだけよ」

 そう言うとリオンは犬山の額当てを身に付け、犬塚が使っていた日本刀を腰のベルトに差した。

「……それで? 後は誰が行く訳?」

 ヴォーゲが手を上げる。

「私が行こう」

「いいえ、駄目ね。あんたはここに居なさいよ」

「何故……?」

 リオンはヴィアベルの婆さんを見る。

「そっちの人、あんたの母親でしょ? だったら行かない方がいい」

「それが何だ?」

「……今まで戦場で何人も殺してきて、何回も見てきたのよ。子供殺されて泣き喚く親をね」

 リオンは小瓶を取り出し、薬を呑む。

「そういうのはもう御免なのよ。そんなのは、もう沢山……」

「分かった……」

 ヴォーゲはリオンの意思を尊重してか、志願を取り下げた。

 しかし、このままこいつ一人を行かせる訳にはいかない。命を狙ってきた相手ではあるが、悪人という訳ではない。いくらこいつが強いと言っても、相手の能力は未知数だ。

 すると、オーレリアが口を開く。

「少し宜しいでしょうか?」

「何?」

「私が行きましょう」

「えっ!?」

 予想もしなかった言葉にレーメイが声を上げる。

「な、何言ってるの!? 危ないでしょ!」

「お嬢様、私の使命はお嬢様をお守りする事です。それには一切の変わりは御座いません」

「でも、あなたは……!」

「私の戦闘能力はお嬢様も知っておいででしょう? 簡単に負けたりはしません」

 アタシはオーレリアを見る。

「マジで言ってんのか」

「はい。生憎、冗談は苦手なもので」

 確かにこいつは強い。そこらの下っ端相手なら簡単に圧倒出来るだけの力を持っている。だが、前にエネルギー切れで動けなくなったのを見た事がある。それに、例えオートマタとはいえ、まだこいつは子供だ。少なくとも、アタシにはそう見える。

「駄目よオーレリア! やめなさい! 命令よ!」

「お嬢様。お嬢様の命は私にとっては何よりも優先されるものです。例えお嬢様からの命令であっても、それを覆す事は出来ません」

 もうこうなってしまっては、止める事は出来ないのだろう。こいつは融通が利かない。レーメイが言っても駄目なら、アタシが言っても駄目だろう。

「……リオン、こいつ頼めるか?」

「……そうね。こいつがそこそこ強いのは知ってるし、まあいいわよ」

「き、キセガワさん!?」

 アタシはレーメイの顔を手で両側から押さえ、目を見る。

「……いいか。お前ェの気持ちは分かる。でもな、今の状況を打開するには一人でも多くの精鋭が居る。分かるな?」

「……分かりました。それなら……」

 レーメイはアタシの手を外から優しく持つと、そのまま顔から離した。

「私も行きます」

「は? お前ェ何言って……」

「私だって強いですよ?」

 確かにレーメイは魔法に関してはかなり強く見えた。だが、こいつはそれこそ本当に子供だ。それに将来は一つの国を支える様な人間だ。こういう事をするべきではない。

「いや駄目だ。アタシが行く」

 そう言って立ち上がろうとした瞬間、足に痛みが走る。

「っ……」

「……キセガワさん。私だって、もっと頑張りたいんです。キセガワさんは今まで沢山頑張ってきましたから、たまには私だって凄いってところを見せたいんです」

 リオンはアタシの目の前で屈みこむ。

「……今回だけよ」

「何がだよ……」

「子供のお守は今回だけ。一応あんたには命を助けてもらった借りがあるから、今回だけは助けてあげるわ」

 そう言うとリオンは婆さんの方を向く。

「どの船なら使えるの?」

「……そればっかりはあたしにも決められない。船は漁師にとってなくてはならない物だ。自分達で聞いてみてくれるかい?」

「そう」

 そう言うとリオンは立ち上がり、レーメイ達と共に近くに居る船員達に話し掛けに行った。幸いな事に、シップジャーニーの住人達は少しでも安全な場所に居るために、この船にほとんど集まっている様だった。実際、住人達が使っている船に砲弾が当たりでもすれば、確実に沈むだろう。

「……良かったのかい?」

「何がだよ?」

「あんた、あの子達の事相当心配してんだろ?」

「へっ……どうせ言ったって聞きゃしねェよ……あの年頃のガキってのはそんなもんだ」

「……そうかい」

 正直、レーメイに信用しろとか言ってしまった反面、アタシが信用しないってのはおかしいからな……。今は、信用するしかない。


 しばらくすると、リオン達はペスカとスバルの二人を連れてきた。

「こいつらが手伝うって」

「……いいのかい?」

「ええ! 提督にはお世話になりっぱなしですから!」

「まぁ……オレもそいつには借りがあるし……」

 アタシはふらつきながら立ち上がる。

「正気か……? 状況分かってんのか……?」

「何だよ? オレらじゃ不満かよ」

「そういう事じゃねェ、命が懸かってんだ……相手は平気で人間殺せる奴らだぞ……?」

 ペスカが笑顔で答える。

「まあキセガワさん、私達も色々お役に立ちたいんですよ。前に襲われた時も助けてもらいましたし、その時の恩返しみたいなものですよ」

「キセガワ様、ペスカ様やスバル様はあくまで船の操縦手を買って出てくださっただけです」

「そういう事よ。だからあんたは大人しくしてなさい」

 彼女達の目は覚悟の決まっている目だった。最早、アタシでも止める事は出来そうも無い。

「……好きにしろ」

「ええ」

 リオンはバフラムの方を向く。

「それで、私達はどうすればいいの?」

「ああ。単純な話だ。近寄って白兵戦を仕掛けてくれればいい。それが終われば、またこっちに戻ってきてくれ」

「そ。楽勝ね」

 リオンはバフラムに背を向け、アタシの横を通り過ぎていく。

「じゃあね。さっさと片付けてくるわ」

 レーメイ達はそれに続く様に甲板から降りていった。

「……さて、キセガワだったか?」

「あ? どうした?」

「君は医務室に戻っていろ」

「そうだねぇ。あんたは今はその怪我を治す事に専念しな」

 アタシはバフラムとヴィアベルの婆さんを睨む。

「何言ってんだ。少なくともこの戦いが終わるまではここにいるぜ……?」

 バフラムは小さく溜息をつく。

「はっきり言うが、今の君では足手まといだ。君の戦闘能力はかなりのものだが、怪我をしていては碌に力も出ないだろう?」

 アタシは抵抗する様に動いてみせようとしたが、上手く足に力が入らず、倒れ込んでしまう。

「……無理するもんじゃないよ。年寄りの言う事は聞くもんさ。ヴォーゲ、連れてってやりな」

「はい、母さん」

 情け無い事にアタシはヴォーゲに支えられながら、医務室へと向かう事になった。

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