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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第1章:終わりゆく街
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第4話:グリンヒルズ上陸

 アタシは波の音で目を覚ました。

 隣のベッドを見ると、レーメイが寝息を立てており、その横ではオーレリアが椅子に座っていた。

 アタシは体を起こし、オーレリアに話し掛ける。

「おいガキ。寝れねェのか?」

「おはようございますキセガワ様。私は睡眠を必要としないので大丈夫です」

 何を言ってやがるんだこいつは……。

 アタシはベッドから起き上がり、オーレリアの体を掴み、ベッドに無理やり座らせる。

「キセガワ様? どうされたのですか?」

「どーしたもこーしたもあるか。いいから寝ろ。無茶すんな」

「先程も申しましたが、私は睡眠を必要としないのです」

 アタシはオーレリアの肩を掴み、無理やりベッドに寝かせた。

「馬鹿言うな。いいから寝ろ。命令だ」

 アタシはオーレリアの肩から手を離し、部屋を出た。ちょっと他の所も見とくか……。


 アタシは船内にあった厨房へ向かう。寝起きで少し小腹が空いていたので、何か食べ物が欲しかったのだ。

 厨房には海賊達の仲間にしては小綺麗な奴がいた。アタシはそいつに声を掛ける。

「オイ」

「えっ? あ、あなたは……」

「腹減った。何かあるか?」

「えっと……ジャガイモのスープでしたら……」

 ジャガイモのスープか……まァ、ちょっと腹に入れる位ならそれでいいか。

「じゃあそれ頼む」

「は、はい。じゃあ座って待っててください」

 アタシは言われた通りに近くにあった椅子に腰を下ろした。

 しかし、船だから仕方がないが、少し揺れるな。酔うほどじゃないが、ふらつくのは少しウザイ。


 アタシが待っていると、先程の男がスープを持ってきた。

 ……なるほど。確かにジャガイモのスープだ。ジャガイモしか入ってねェ。

「お待たせしました」

「おう。悪いな」

 アタシがスプーンを掴み、スープに口をつけようとすると、男が尋ねてきた。

「あ、あの……いったいどうしてこの船に乗り込んで来たんですか?」

「あ? デケェ船が欲しかったンだよ。それだけだ」

「これ……海賊船ですよ?」

「海賊船は奪っちゃいけねェルールでもあんのかよ?」

「い、いえ……そんな事はありませんが……」

 クソ……何が言いてェンだよこいつは。ウジウジと面倒くせェ……。スープが飲めねェじゃねェか。

「オイ。言いたい事があんならはっきり言えや」

「……実は僕、ここの海賊達に捕まって無理やり働かされてるんです……」

「だから?」

「い、いえ……あなたが乗り込んできた時思ったんです。もしかしたら、助けてもらえるかなぁと……」

 アタシは溜息をつき、スプーンの先端を男のおでこに突きつける。

「オイオイオイオイオイ。何甘えた事言ってんだよ。助かりたきゃ、自分でやれよ」

「無理ですよ……見ての通り、僕は非力です。とてもあの人達に勝てる様な力は……」

 本当に情けねェ……こいつ見た感じアタシより年上じゃねェか。年下に頼って恥ずかしくないのかよ……。

「黙れ。アタシは助けない。ウジウジすんな。いいな?」

「えっ、あ、あの……」

 アタシはスプーンを男の目の前に突きつける。

「それ以上腑抜けた事言ったら、目ェ抉るぞ」

 その言葉を聞くと、男は何も言わなくなった。……情けねェ。

 アタシはようやくスープを飲むことが出来た。悪くない味だ。こいつが働かされてるのも分かるな。こいつは腕前は一人前だ。精神はゴミクソだが。


 スープを平らげたアタシは軽く礼を言うと、部屋に戻った。

 部屋では既にレーメイが起きており、オーレリアも変わらず起きていた。

「キセガワさん。どこに行ってたんですか?」

「飯食いに行ってた」

 アタシがそう答えると、レーメイの目が輝いた。

「どこで食べられるんですか!?」

「あー、あっちの方にある厨房だ」

「オーレリア行くわよ! 朝食にしましょう!」

 そう言うと彼女は返答も待たずにオーレリアの腕を掴んで引っ張っていった。

 アタシは一人残され暇になったので、甲板に出てみる事にした。


 甲板に上がると、綺麗な青空がアタシを出迎えてくれた。

 甲板から下を覗くと、海は空と同じくらいに真っ青で、とても綺麗だった。いい朝だ。

 アタシがこの素晴らしい朝を満喫していると、海賊の一人が話し掛けてきた。

「なぁ、ちょっといいか?」

「あ? 何だよ朝からきたねェなァ。風呂入ってンのか?」

「……それはどうでもいい。それよりも聞きたい事がある」

「何だよ?」

「いつまでこの船にいるつもりなんだ?」

 なるほど。そういう事か。

 アタシは手摺にもたれ掛かりながら、話す。

「別に長居はしねェよ。グリンヒルまでだ。そこまで行ったらさよならさ」

「……そうか。分かった」

 そう言うと海賊は向こうへと歩いていった。

 アタシはしばし海を楽しんだ後、マストの近くへ向かった。

 マストは天高く伸びており、この船の象徴と言ってもいい程、豪華に装飾されていた。ちょっと悪趣味にも感じる。

 すると、マストを眺めているアタシに、先程とは別の海賊が声を掛けてきた。

「お前!」

「何だよ朝からうるせェな」

「他の奴らは降参してるみたいだが、俺はまだ負けを認めねェぞ!」

 まァ、覚悟はしていた。絶対にこういう奴が出るとは思ってたさ。

「で、どうするんだ。アタシを殺して追い出すか?」

「……賢いじゃねぇか」

 そう言うと海賊は懐からナイフを取り出した。

「オイ止せよ。武器出されたら手加減出来なくなる」

「上等だ。やってみろよ」

 アタシは武器を持っている手を掴み、そのまま武器を奪い取り、背負い込みの要領で甲板に叩き行けた。

 アタシは馬乗りになり、掴んでいる相手の手の指にナイフをあてがう。

「今日は機嫌がいい。1本で許してやる」

 アタシがそう言うと、その海賊は体に力を入れはしたものの、抵抗はしなかった。なかなか、根性のある奴だ。

 アタシはそいつから離れ、ナイフを捨てた。

「……どうした。やるんじゃねぇのか?」

「気分が変わった」

 アタシは背を向け、操縦桿へと向かった。

 

 リーダーは操縦桿を握っており、アタシを見るや否や嫌そうな顔をした。

「オイオイ。今の失礼だろ」

「……何の用だ」

「そろそろ着くかなって思って、聞きに来ただけだよ」

「……ああ。そろそろ着く」

 アタシは手摺にもたれ掛かる。

「そうか。じゃあ、そこまで行ったらお別れだな」

「ああ」

 アタシはレーメイ達にもうすぐ着くという事を教えるため、船内に戻った。


 厨房には二人がいた。食事は済ませた様だ。

「オイ。もうすぐ着くってよ」

 アタシがそう言うと、レーメイが立ち上がる。

「いよいよですね」

「お嬢様。揺れる船内で急に立ち上がるのは危険です」

「大丈夫よ。それよりキセガワさん。行きましょう!」

 そう言うと、レーメイはアタシの側に寄ってきた。

「ああ。オイ。オーレリア。お前ェも行くぞ」

「畏まりました」

 アタシ達は揃って甲板に出た。

 

 甲板から見ると、港町が見えてきた。本当にもうすぐだ。

 そう思っていると、リーダーがこちらにやってきた。

「オイ。操縦桿に戻れよ」

「いや……これ以上近寄ると攻撃されるぞ。俺達は海賊だ」

 そういやァそうか。面倒くさい……。

「じゃあ、どうすりゃいい?」

「お前らが乗ってた船も回収してある。それに乗って後は勝手にしてくれ」

 こいつにしてはなかなか気が利いたじゃねェか。

 アタシは指示を出した。

「おし。そんじゃあ、ボートを用意しろ」

「……ああ。待ってろ」

 リーダーはそう言いながら離れていった。



 少し経つと、アタシ達が乗っていた小船が用意され、先にレーメイとオーレリアの二人に乗ってもらった。

 アタシは海賊達に話す。

「世話になったな。これでお別れだ」

 リーダーが返す。

「ああ。もう二度と来ないでくれ」

「へへ。まっ、そうなりゃいいな」

 アタシは海賊達に背を向け、軽く手を振った後、縄梯子を降り、小船に乗り込んだ。

「キセガワ様。またお願いします」

 そう来ると思ってたよ。

「言われなくてもやるよ」

 アタシはオールを手に取り、船を漕ぎ始めた。


 先程まで近くにあった海賊船もどんどん離れていき、気が付けば陸はすぐそこだった。

 アタシは適当に近くの足場に横付けし、そこから陸に上陸した。

 下を見ると、船に乗ったままの二人がじっとこちらを見ていた。

「はぁ……ほら」

 アタシはしゃがみ、手を伸ばす。それをレーメイが掴んだ。

「ありがとうございます」

 アタシはレーメイを引っ張り上げ、今度はオーレリアに手を伸ばす。

「ほら」

「申し訳ございません」

 二人とも引っ張り上げたアタシは、レーメイに道案内を頼む事にした。

「で、どう行きゃいいんだ? お前ェに頼みたいんだがな」

「すみません……実は私もここに来るの初めてで……」

 アタシはオーレリアの方を見る。

「私もお嬢様と同じです」

 アタシは溜息をつく。揃いも揃って道が分からないとは……。

 仕方が無いので、アタシが先頭に立って歩く事になった。

「しゃーねェ。アタシが先頭歩くから、離れんなよ」

「はい!」

「善処します」

 こうして、陸に上がったアタシ達の冒険が始まった。

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