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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第7章:ニキタマ国
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第37話:八犬士 『忠』

 橋の近くにやってきたアタシは川岸へと降り、手に付いた血を洗い流し始めた。その後ろではレーメイとオーレリアが黙ったまま立っていた。

 やはり、人を殺すというのは、ただ殴るだけとは違う。一つの命を奪う行為だ。本来なら、人間も動物だ。こういう事が出来るものなのだろう。だが、今の世の中はそういうのは許されない。いつしか人を殺していけないという常識が人間の中に刷り込まれた。それが、普通の事だ……。

「よっ、久しぶり」

 聞き覚えのある声が聞こえ隣を見ると、そこにはトゥーリバーで出会った探偵のヴェリタが立っていた。

「あ、あなたは……」

「……お前ェ、今までどこに居たんだ……?」

「どこにって……君達が頼んできた依頼を遂行してたのさ。忘れたか?」

 こいつには『黎明』の捜索を頼んでいた。ここにこいつが居るって事は、やはりそういう事なんだろう。

「覚えてる。ここにあるんだろ?」

「おう。ただ、一応警告しとくぜ?」

「……何だよ」

「この一件、手を引いた方がいい」

 ヘラヘラとしていたヴェリタの表情が一瞬にして引き締まる。

「どういう意味だ」

「君達は知らないんだろうけど、ここニキタマ王国は複数の土地に分かれていて、いつも内戦を起こして土地の奪い合いをしてる」

 やはりここはかつての日本と同じ様な場所の様だ。

「それで、だ。今居るこの場所、アワノはニキタマ国の中でも特にヤバイ場所なんだよ」

 アタシは血を洗い終わり、立ち上がる。

「どうヤバイ……?」

「アワノは『里見一家』って組織に支配されてる。小さい組織なんだが、ずば抜けて強い奴等を揃えてるらしい」

 さっき戦った犬塚も『里見』って名前を出してたな。

「それで、俺が調べたところによると、どうもその里見一家が『黎明』持ってるっぽい訳だ」

「……ああ、そうだろうな。アタシもそう感じてここに来たんだ」

「あ、知ってたのか? じゃあ話は早いな。さっさとこっから帰った方がいいぜ」

「そうはいかねェよ。『黎明』取り戻すまでは帰れねェ」

 ヴェリタはキョロキョロと周りを見始める。

「ホントは噂もヤバイんだがな……あいつらは殺人を躊躇しない。目的のためなら何人でも殺すような奴らだ。女子供でも関係無いんだぜ……?」

 オーレリアが口を開く。

「ヴェリタ様。先程、あなたが仰っている里見一家の方と思われる人物と交戦したのですが」

 それを聞いたヴェリタの顔が青ざめる。

「ま、マジで言ってんのか……? 里見一家を敵に回したのかよ……?」

「いえ、何やら我々の命を最初から狙っている様でした」

「マジだぜ。アタシが……この手で殺した」

 ヴェリタの顔に汗が伝う。

「……誰をやったんだ?」

「犬塚とか言ってたな」

「……どこで戦った?」

「近くの通りだが……」

 ヴェリタは口笛を吹き、鷹のシトを呼び寄せる。

「今、シトの視界からチラッと見たんだが、マジっぽいな……。とんでもないことしたな君達……」

「ああ、殺したくは無かったんだけどな……」

「はっきり……いいか、はっきり言っとくぜ? 俺はこれ以上は無関係だ……あの『黎明』にも関わりたくないし、里見に喧嘩売るつもりも無い……」

 ヴェリタはアタシに言っているというよりも、どこかに居る別の誰かに話している様に見えた。

「オイ、どうしたんだよ? 何言ってる?」

「……俺は、賢く生きたいんだよ。バカな真似して死にたくない……俺は、探偵である前に一人の人間だ」

 アタシは周囲を警戒し、見回す。

 ヴェリタを見るに、どこかに誰かが潜んでいる様な様子だ。丁度上には橋が架かっている。そこから聞き耳を立てる事も出来るだろう。

 ヴェリタが後退りをした瞬間、風を切る様な音と共にヴェリタの胸に何かが突き刺さった。驚いたシトは空へと飛び立つ。

「え……?」

 ヴェリタの胸に刺さっていたのは、あの時レナスの国王の胸に刺さっていたのと同じ見た目のクナイだった。

 アタシはよろめきながら倒れるヴェリタを抱きかかえる。

「オイ! しっかりしろ!」

「なん、で……無関係だって、言って……」

「キセガワさん! 後ろ!」

 レーメイの叫びを聞き後ろを振り向くと、そこに一人の女が立っていた。その女は額当てを付け、袴を着ており、右手にはクナイが握られていた。

「あーあ……お前みたいなのがいるからさ、あたしが出てこなくちゃいけなくなるんじゃん……」

「何モンだ、お前ェ……」

「ここまで来たって事は言わなくても分かるでしょ?」

 ヴェリタは血を吐きながら顔を上げる。

「お前、は……」

「なぁヴェリタ。『秘密』ってのはさ、知られたくない人間が居るから『秘密』って言うんだよ。なぁ?」

「いぬ、やま……」

「人の場所でよぉ! コソコソ探ってんじゃねぇよ!! おぉ!?」

 犬山と呼ばれた女が突然怒鳴る。

 それを見たレーメイとオーレリアがアタシの前に立つ。

「……は? どういう真似な訳?」

「こ、これ以上は行かせません!」

「申し訳御座いませんが、里見一家の方ですね? 『黎明』を返して頂けますか?」

「……あたしに命令すんのか?」

 マズイ……こいつも犬塚と同じだ。人を殺すのに躊躇が無い人間だ……こいつが言っていた通りに……。

 アタシは声を張り上げる。

「待て! レーメイ! オーレリア! こいつが優先だ! 連れてけ!」

「で、でも!」

「……お嬢様、行きましょう」

 アタシの意思を汲み取ったオーレリアはレーメイの腕を掴むと無理矢理引っ張り、ヴェリタの側に来ると、ヴェリタの肩を組み、立ち上がらせた。

「お前ェの相手はアタシだ」

「ま、いいか。どうせあんたが最優先事項だしね。そっちのクソガキは後でも殺せるし」

 オーレリア達はヴェリタの体を引きずる様にして、元来た道を引き返していった。恐らくオーレリアなら、ヴィアベルの婆さん達の所へ連れて行ってくれる筈だ。

「何でアタシを狙う」

「さぁね。たださ、伏姫フセヒメ様が迷惑してんだよね、あんたにさ。だからあんたを殺すんだよ」

「それがお前ェらのかしらか?」

「そう。あたしはあの人に忠誠を誓った。今のあたしは全部あの人の所有物な訳。この体も、技も、思想も、過去も、未来も、犬山忠美イヌヤマタダミという名前も、全部あの人のもの」

 アタシも師匠に恩義を感じてはいるし、可能な限り力になりたいと思っている。だが、こいつの忠義は明らかにおかしい。度が過ぎている。

「自分を捨てる事が忠義か?」

「あたしにとってはあの人こそが世界の中心、世界そのもの。あの人が望むならあたしは何だってやる」

 こいつも手加減が通用する相手では無いだろう。それこそ、さっきの犬塚よりもよっぽどヤバそうだ。こういう人間は何を仕出かすか分からない。また……殺さなくてはならないかもしれない。

「お前ェらが何企んでんのかは知らねェが、好きにはさせねェよ」

 犬山が目を見開く。

「テメェみたいな三下がッ! あの人の計画に一端の意見を垂れんじゃねぇッ!!」

 そう叫ぶと、犬山は何やら手を動かし、印の様なものを結んだ。その直後、アタシの両隣から巨大な火の壁が現れ、挟み込もうとしてきた。

 アタシは犬山の方へと跳び込み、そのまま体重を掛けて右ストレートを放った。しかし、犬山はそれを見切っていたかの様に飛び退き、クナイを投げてきた。

 何とか顔を逸らし、避ける事には成功したものの、二つの火の壁がぶつかった事によって橋は炎上し始めており、更には投げられたクナイが橋の足の一部に突き刺さり、足の一つが完全に焼け落ちた。

 明らかに火力がおかしい……いくらなんでもこんなに早く焼け落ちるなんて事は無い筈だ。さっきの動きから推測するに、こいつは忍術か何かを使ってるんだろうか……?

「正気かお前ェ……他の無関係な人間が橋の上に居るんだぞ?」

「うるせぇなぁ……! 三下のカス共がどうなろうと知った事じゃない……! むしろ、あの人の崇高な目的を理解出来ないカス共は皆死ぬべきなんだよ!!」

 怒鳴り散らす犬山を表しているかの様に橋はどんどん焼けていき、凄まじい熱気が伝わってくる。

「ふざけんなよ、犬山ァ……!」

「焼け落ちろクソカス共がぁッ!!」

 犬山が再び印を結ぶと、炎が鞭の様にしなり、うねりながらこちらへと飛んできた。

 アタシは何とかかわしていたものの、このままではどうにもならないと考え、避ける動きに見せかけて犬山の方へと石を蹴り飛ばした。

 犬山はこちらを攻撃するのに執着していたためか、石に反応が出来ず、頭に思い切り石が直撃した。それと同時に炎の動きがピタリと止まった。

 アタシはその隙に急いでオーレリア達の後を追うために元来た道へと撤退した。

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