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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第6章:ニキタマ国への旅路
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第31話:バフラム艦隊と狂犬

 アタシは突如発生した揺れで目を覚ました。

 船全体が大きく揺れ、木が軋みを上げている。

「何だっ!?」

「おはようございますキセガワ様。前にもこういう事がありましたね」

「……そういう事か。オーレリア、どうする?」

「以前と変わりません。私の使命はお嬢様をお守りする事でもありますので」

 流石にそう言うよな。どうせ止める事は出来ないだろう。

 アタシはこんな状況にも関わらず暢気に寝ているレーメイを揺する。

「オイガキ! いつまで寝てる! 起きろバカ!」

「んぇ~……へへ……」

 この野郎……状況が状況だってのに何ヘラヘラ笑ってやがるんだ……命が掛かってるんだぞ。

 仕方なくシーツを剥ぎ、頬を引っ叩く。

「あ痛ァっ!?」

「ようやく起きたか」

「なな、何ですか!? 何が!?」

「落ち着けレーメイ。前みたいに撃たれてる。急いで上に行くぞ」

「お嬢様、失礼します」

 オーレリアがレーメイを抱き上げるの見て、アタシは急いで甲板へと走り出した。


 甲板に上がると、ヴィアベルの婆さんとヴォーゲが遠くに見える艦隊を見ながら指示を出していた。

「婆さん!」

「来たかい。まただよ」

「ああ、そうみてェだな。性懲りも無く来やがったみてェだ」

 砲弾が直撃し、船が大きく揺れる。

「……オイ大丈夫なんだろうな。これどの位もつんだ?」

「所詮は船だからね。あんまり損傷が激しいと沈むだろうさ」

 オーレリア達が少し遅れて甲板に上って来る。

「お待たせしました」

「す、すみません遅れちゃって……。あの、オーレリアそろそろ下ろして?」

「畏まりました」

 とりあえず前回と同じメンバーが居るが、同じやり方が通じるだろうか? 相手はこの婆さんと同じ水軍に居たとかいう奴だ。素人考えが二度も通じるとは思えない。

 するとオーレリアがヴィアベルの婆さんに向かって尋ねた。

「ヴィアベル様。前回の戦闘との大きな差異を検出しました。お聞きになりますか?」

「ほう。一応話してごらん。あたしも少し気になってる事がある」

「分かりました。今見た限りでは御座いますが、一隻ほど攻撃が激しい船が見られます。以前の戦闘と比べると明らかな差異があります」

 言われてみればそうかもしれない。攻撃されているという事に意識が向き過ぎていたが、前はここまでは激しくなかった筈だ。

 直後、甲板に炎が直撃した。

「消火ーー!!」

 ヴォーゲが叫び、船員達が水を運んで必死に消火を始める。

 これはどうもおかしいぞ……前とは比べ物にならねェ……。

「どうやら、バフラムの奴、戦力を増やしてるね」

「つーか魔法まで撃ってきてるぜ。完全に殺す気だ……」

「仕方が無い。ここで手加減をしても犠牲が増えるだけだ。こっちも本気で行こうじゃないか」

 婆さんの瞳が力強く光る。

「総員! 配置に着け!! フルセイル! 速度を落とすんじゃないよ!!」

 これが老人の出す声か? とんでもねェ声量だな。

「攻撃には重砲を使いな! 攻撃のタイミングはこっちで指示する!」

 流石に提督と呼ばれてるだけはあるな。頼りになる。

「婆さん、他の連中は逃がしてあるか?」

「ああ。それよりあんた、また頼めるかい?」

「遠距離から攻撃すんのはこっちの二人だ。アタシは白兵戦しか出来ねェぞ」

「構わないよ。魔法攻撃はあんたらのタイミングで任せる」

 そう言うと婆さんは望遠鏡片手に端の方へと歩いていった。

 よし、それならやる事は前と同じだな。

 アタシはヴォーゲから望遠鏡を受け取り、後ろから付いてくる二人を連れて、甲板の後ろへと移動した。

 そこでは操縦士が必死に舵を切り、船を動かしていた。

 話しかけるのは止めた方が良さそうだ。

「いいかレーメイ、オーレリア、やる事は前と一緒だ。覚えてるよな?」

「は、はい! マストを燃やすんですよね?」

「ああ。だが今回はちょっと注意した方がいい。向こうもこっちみたいに魔法撃ってきてるからな」

「要は、魔力やエネルギーを使い過ぎない様に撃てという事ですね?」

「それもあるが、レーメイ、今回はお前ェの力がかなり重要になるかもだぜ?」

「そ、それはどういう?」

 船の近くに着弾したらしく、水しぶきが上がる。

「今のだ」

「え?」

「あいつらがどんな魔法を撃てるのかは知らねェが、少なくともお前ェと同じ火の魔法が撃てるのは確かだ。火を消せるのは何だ?」

「水、ですけど……」

「そういう事だ」

 アタシは望遠鏡で敵艦隊を覗く。以前と同じ様に一つの船を守る様にして船が並んでいる。だが、一つだけ気になるのは一隻だけ離れて行動している船があるという事だ。しかもそいつからの攻撃が一番激しい。もしかしたらあれは遊撃用か?

「ちょ、ちょっと待ってくださいよキセガワさん! そういう事ってどういう事ですか!?」

「火が飛んできたら、あのデカイ魚殺った時みてェに水で守れって事だ」

「いやいや前にも言いましたけど、苦手なんですよあれ! 上手くコントロール出来ないんですって!」

 ごちゃごちゃとうるさい奴だ。

「いいからやれ。ここで死ぬのは嫌だろうが。多分前みたいな攻撃は通用しねェ。防御しながらじゃねェと今回はマジでヤバイぞ」

 レーメイは諦めたのかそれ以上は何も言わなかった。アタシとしてもその方が戦局を見極め易くなるからありがたい。

 パッと見渡してみたところ、敵の数は全部で12隻程だ。前回と比べても精々2隻増えた程度だが、どうにも攻撃が激しい。特にあの離れて行動している1隻、あれが特に激しい。

 すると、先程まで砲弾や魔法を撃ってきていた遊撃船が突如こちらを向き、全速力で突っ込んできた。

「総員! 衝撃に備えろーーーーっ!!」

 婆さんとヴォーゲが同時に叫び、船員達は各々掴まれそうな物に掴まった。

 後ろを見ると、オーレリアがレーメイを抱き締め、その場に座らせていた。あっちは任せても大丈夫だろう。しかし、操縦士はこの巨大船への損傷を少しでも防ぐために必死に舵を切っていた。

 どう考えても間に合わない。しかもあの体勢のままだと衝撃が来た時に振り落とされる可能性がある。

 アタシは操縦士に駆け寄る。

「オイ! 手ェ離せ! そのままじゃ落ちるぞ!」

「しかしこのまま直撃したら……!」

 仕方なくアタシは操縦士の脇腹に膝蹴りを入れ操縦桿を手放させ、そのまま左手で抱きかかえる様にして甲板に這いつくばり、可能な限り落ちない様に近くのロープを掴んだ。

 その直後、脳を揺さぶられる様な衝撃が船全体に走り、海水が跳ね上がった。

 顔を上げてみると、敵の船の上に見覚えのある顔があった。

 アタシは素早く立ち上がり、甲板の手摺を蹴る様にして敵船へと飛び込んだ。

 船上には船員達が待ち構えていたが、こちらを攻撃する様な素振りは見せなかった。しかし変わりにあの見覚えのある顔が操縦桿から手を離し、こちらに歩いてきた。

「まあ……お前ェとはまた会うと思ってたよ」

「嬉しいわね。そう言ってくれて」

 そこに居たのは、レナスで会ったあの銀髪の女だった。

「バフラムに雇われたのか」

「ええ。まさかあなたが居るとは思わなかったけど」

 ここから見た感じだと、どこにも武器を持っている様に見えない。勿論どこかに隠している可能性もあるし、船の上なら武器になるものはいくらでもあるが。

 後ろで巨大船が動き始め、木が擦れる音が聞こえる。逃げ場は無くなったな。

「キセガワさーーーん!!」

「いいかい!! あたしらがあいつらを片付けてくる!! それまで死ぬんじゃないよ!!」

 レーメイと婆さんは声を張り上げながら、移動していった。

 上等だ。追い詰められてからが本番だろ。

「あら、見捨てられたのね?」

「いいや違うぜ。お前ェの雇い主をぶちのめしに行ったのさ」

「……随分と余裕なのね。あの時の傷はまだ塞がってないと思うんだけど?」

「まあな。だがこれ位はどうって事はねェよ」

 女は口角を上げる。

「不思議ね。今まで戦ってきた中で、あなたが一番魅力的よ。ムカつくところもあるけど」

「そりゃ光栄だな。アタシも今まで戦ってきた中じゃあ、お前ェは上位に入るぜ?」

「そう。でも残念ね。死んだら魅力ゼロだもの」

「オイオイオイオイ。アタシが死ぬ前提で話してんのか? 今まで4回もやられといてよくそんな事が言えたもんだな。余程の自信家か余程の馬鹿か」

 女の眉間が少し動く。

「……そうね。だからこそよ。だからこそあなたを殺すの。私の人生の汚点になりうるあなたを!」

「そうかい……じゃあ最後に名乗っておくか。アタシは喜瀬川雅。お前ェは?」

「私はリオン。それだけよ。名前だけ」

 アタシは拳を握り、臨戦態勢に入る。

「あなた達は邪魔しないで!!」

 リオンが叫ぶと船員達は甲板の後ろへと下がっていった。

「これで邪魔者は居ない……!」

「ああ。思う存分やり合えるってェ訳だな」

「今回は特別よ。能力を使わずに殺してあげる!!」

 そう叫ぶと同時にリオンは拳を伸ばしてきた。

 能力を使わないって言い方してたって事は、あの力は魔法とは少し違うって事か?

 アタシは何とか猛攻を防いでいたが、少しずつ圧されていた。

 このままじゃこいつに殺される前に海に落ちてしまう……! 幸い近くに島はあるが、あそこまで泳いでいく前に殺されるだろう。

 アタシはあえて前に踏み込み、リオンの顔に頭突きを叩き込もうとした。しかし、ギリギリでかわされてしまい、距離をとられてしまう。

「そう来ると思ってたわ。前に戦った時もそうやってわざと踏み込んでロープを巻いてきたもんね?」

「……それですぐに学べるのは大したもんだな。マジで……敬意を表するよ」

 やはりこいつは他とは違う。たった一度の体験だけでここまですぐに対処できるのは普通では無い。まるで、戦うために生まれてきた様な対応力だ。

 リオンは楽しそうな顔をしながら走り出し、飛び膝蹴りを仕掛けてきた。咄嗟に防御したものの、そのまま両手で頭を掴まれてしまう。

 最初からこれが目的か……! わざと隙の大きい攻撃を仕掛けて防御させて掴む隙を作る……!

 リオンはアタシの頭を掴んだままマストに近付き、力強く叩き付けた。

「っ!?」

 そのまま何度も叩き付けられ、凄まじい衝撃が頭を遅い、一瞬意識が飛びそうになる。

「ほらっ! ほらっ! ほらっ!! どうしたの!? こんなもんじゃ無いでしょ!!?」

「このっ!」

 アタシはリオンの首を掴み、力任せにマストへと押さえ付け、先程と逆の状況に無理矢理持っていった。

 しかし、ここからどうすればいいのか分からない。頭に掛かった衝撃が強すぎて考えがまとまらない。視界もぼやけ、目の前に居るこいつの顔さえもよく見えない。

「ふ、ふふっ! どうしたの? その程度? もっとやってみてよ? あの時私を何度も倒したあなたをもっと見せてよ!!」

 クソが……マトモじゃないぞこいつ……! これがこいつの本性なのか……?

 とにかく何とかするために顔を殴ろうとしたものの、右手で拳を受け止められる。そして、リオンの顔からは笑みが消えていた。

「もういいわ。やっぱりあんたも他の奴等と同じね。口だけで、実際は大して強くない。あの時はまぐれだったみたいね」

「まぐれ、だと? へっ……よく言うぜ……4回もやられた癖によ」

「そうね。でもあなたを殺せばそれは無かった事になる。あなたが居なくなれば誰も私の負けを証明出来なくなる」

 リオンが左手首を反らすと、その動きに合わせる様にして手首からナイフの様な物が姿を現した。よく見ると小指に指輪の様なリングが付いており、そこから伸びた小さなワイヤーの様な物がナイフを引っ張っている様だった。

 この距離だと対処が間に合わない……今から首に掛けている手を離しても無理かもしれない。

「じゃあね。短かったけど、楽しかったわよ。キセガワ」

 その時だった。突如木が弾け飛ぶ様な音と共に船が大きく揺れた。そのお陰で何とかアタシはリオンから離れる事が出来た。

「何!? 何が起こったの!?」

 アタシはふら付きながら立ち上がり、婆さん達が戦っている方を見た。

 どうやらかなり善戦している様だったが、明らかに敵船の1隻が不審な挙動を見せていた。

 婆さん達の船と応戦しつつもこちらに向かって砲弾を撃ってきていたのだ。

「な、何を! 早く旗を振りなさい!! 私達は味方なのよ!? こん、こんなっ……ハァ……ハァ……っ! おかしいでしょう!!」

 リオンは前の様に余裕が無くなりつつある。しかしどういう事だ? 何でこっちに撃ってきてる? アタシを殺すためにこいつら諸共沈める気か……!?

 すると突然突風が吹き、それと共に敵船から炎が飛び出した。それと同時に敵船近くの海水が壁になる様に一気に跳ね上がったが、高く飛び出した炎には届かず、元の海水へと戻っていった。恐らくレーメイが止めようとしてくれたのだろう。

「マジかよ……」

「うそ、嘘でしょ……何で、何で何で何で……」

 そのまま炎は突風によって火力を増し、まるで龍の様にうねりながらこちらへと飛んできた。

「オイ! リオン! 落ち着け!」

「嘘よ……こんな、こんな所で……死にたくない……! まだ、まだやるべき事が……」

 リオンは完全にパニックになっており、とても対処が出来そうになかった。それどころか、他の船員達もどうしようもない状況にパニックを起こし、船の上は阿鼻叫喚といった様子だった。

 アタシは何とかするために急いで操縦桿の所へと走ったが、あと少しという所で炎が船に着弾し、船に積まれていた火薬に引火でもしたのか大爆発を起こした。

 アタシは爆発の衝撃で他の船員やリオン達と同じく成す術もなく船から放り出され、海へと叩き付けられ、意識を失った。

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