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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第5章:レナス城塞攻略戦
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第28話:第三者

 扉を開けたアタシ達の視界に入ったのは予想外の光景だった。

 恐らくこのレナスの王であろうと思われる男が刃物で刺されて倒れており、その近くには黒装束に身を包んだ謎の人物が立っていた。

 その人物の右手には青白く輝く宝玉の様な物が握られていた。

「何だ……お前ェは……」

 アタシが困惑していると、レーメイが叫んだ。

「あれです! あの手にあるやつ! あれが捜してるやつです!」

 どうやらあれが『黎明』とかいう魔術道具らしい。

 アタシは肩のロープに手を掛ける。

「動くンじゃねェぞ。お前ェ、何モンだ?」

 黒装束は何も答えず、ただその場に立っていた。いや、そういう風に見せ掛けていた。

 その人物の左手から何かが落ちた瞬間、突如大量の煙が発生し、部屋の中を包み込んだ。

「っ! おい待て!」

 アタシは予測される逃走経路へと攻撃を行うため、ロープを窓へと振るった。

 しかし、人に当たった様な感触は無く、ただ窓の端に当たっただけだった。だが、このロープから伝ってくる感覚を信じるなら、奴は窓から外に脱出した様だった。

「き、キセガワさん……っ!」

「慌てんな……なるべく口閉じろ」

 アタシは煙の中を進み、王と思われる男の元に近寄る。

 煙の中のため、やや見づらいが、鋭い目付きをしており、左頬に傷がある。いかにもな悪人面だった。

 だが、一番気になるのはこの男を殺したあいつが誰で、もし依頼されたのならそれは誰からなのか、という事だ。

 煙が少しずつ晴れていく中、アタシはこの男の体に刺さった刃物を手に取る。

 持ち手の長さ的に片手で持つ物だろう。その先の刃物の部分は菱形の様な形をしている。いわゆる、クナイというやつによく似ている。

 これはつまり、抵抗されたから殺したというよりも最初から殺すつもりだったという事だろう。そうでなければ、こんな殺傷能力の高い特徴的な武器は使わない筈だ。

「キセガワ様? どうなされたのですか?」

「いや……こいつの体に刺さってるやつを見てただけだ」

「そうでしたか。しかし、予想外の事態が発生しましたね。まさかここにあるものとは思えませんでした」

 アタシも思っていなかった。むしろ干ばつに追い込まれているロードレイクが怪しいと思っていた。

「キセガワさん、これからどうしましょう? さっきの人って……?」

「……捜しゃあいいだろ。アタシの予想が合ってれば、あいつがどこの国の人間かは分かる」

 アタシは死体からクナイを抜き、それをロープで包んだ。

「え!? わ、分かるんですか!?」

「……多分、な」

 アタシは扉に近寄り、開ける。

「行くぞ。ここにもう用は無い。死んじまった人間に償わせる事は出来ねェ」

 二人はやや困惑した表情を浮かべながらも、アタシの後に付いてきた。

 ……よりにもよって厄介な事になりやがった。今までちょくちょく聞いていたあの国……『ニキタマ国』。今まではアタシの素性を隠すためにそこの出身だと偽ってきたが、まさか実際に行く事になるとは思いもしなかった。

 これ以上……隠し続けるのは難しいかもしれない。

 ふとあの銀髪の女と戦った場所を見ると、いつの間にかあの女の姿が無くなっていた。首を絞めて気絶させたため、もう少し倒れているかと思っていたが、思ったよりも早く目覚めた様だ。

 だが、もう用は済んだ。これ以上ここに居るつもりは無いし、あいつとも戦うつもりは無い。これ以上突っかかって来ないなら、それが一番ベストだ。


 役所から出たアタシ達は大通りを通り、門へと向かっていた。その途中、先程会ったマスターと遭遇した。

「……どうでしたか?」

「死んだ」

「それは……! 何とも……!」

 マスターの顔が綻ぶ。相当あの男は嫌われていたのだろう。正直、あいつがどんなクズだったとしてもアタシは人の死を喜ぶ事は出来ない。

「殺したのはアタシらじぇねェよ。入ったときには既に誰かに殺されてた」

「既に?」

「はい。我々が突入した段階では、恐らく既に生命活動が停止していたものと思われます」

 そう……間違いなく死んでいた。即死だったのだろう。あいつの顔には驚きはあったが、苦痛というものは見られなかった。本当に……一瞬だったのだろう。

「まァ、アタシらはここに長居する気はねェ。後はあんたらで勝手にやってくれ」

「……分かりました。本当にありがとうございました!」

 頭を下げるマスターに背を向け、アタシは歩き出した。

 これは恐らく予想だが、多分この国は統治者が変わっても長続きしない。今まで何度もやろうと思えば、あいつを暗殺なりするチャンスはあった筈だ。だが、何も対処しようとした形跡が見られなかった。

 ……ここにいる奴らは、結局のところ皆同じ様な奴らなんだ。

 そんな事を考えていたアタシの耳にレーメイの声が入ってくる。

「キセガワさん。あの、さっきあの黒い人がどこの国の人か分かるって言ってましたよね?」

「ああ……」

「それってどこなんですか?」

「……ニキタマ国だ」

「えっ……」

 アタシの答えを聞き、レーメイが言葉を詰まらせる。

 こいつらの前ではアタシはニキタマ国の出身って事にしてたからな。だが、もうこれ以上は嘘をつけないだろう。

「……なァ、今から大事な話をする。聞いてくれるか?」

「は、はい」

「アタシはな……」

 そこまで言った瞬間、体が揺れ、腰に痛みが走る。

 振り向くと、あの銀髪の女が小刀をアタシの腰に突き立てていた。

「っ!」

「あっ……!」

 完全に油断していた。もう来ないものと思っていた。

 アタシはすぐさま相手の顔に肘打をし、女に掌底を打ち込んだ。

 綺麗に当たったらしく、女は小刀から手を離し、倒れこんだ。

「き、キセガワさん!?」

「……あぁ?」

「だ、大丈夫ですか?」

 小刀は割りと深く入っており、そのせいもあってか体中が熱を帯びているかの様に熱かった。

「…………帰る、ぞ。歩け……」

 アタシはこのままでは危険だと感じ、急いで船へと戻ろうとした。しかし、血が流れ続けているせいで頭が上手く回らず、足にも力が入らなくなっていた。

 何とか歩こうとしたものの、ついに体を支えきれなくなり、その場に倒れてしまった。

「キセガワさんっ!」

「……悪い。足が言う事聞かねぇ……」

 その様子を見たオーレリアは珍しく早口になり、レーメイに話し出した。

「お嬢様。キセガワ様の右肩をお願いします。私は反対側を持ちますので」

「あ、う、うん! 分かった!」

 情けの無い事にアタシは二人に肩を貸され、運ばれる事になった。

 だが……これはどういう事だ? 昔も刺された事はあったが、ここまで血は出なかったぞ? あの小刀に……毒でも塗ってあるのか?

 何とか意識を保とうとあれこれ頭を働かせたものの、やがて息をするのも困難になっていき、ついにアタシの意識はそこで沈んでしまった。

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