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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第5章:レナス城塞攻略戦
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第27話:狂犬、再び

 後ろにあの女が居るのが分かる。

 アタシはレーメイに囁く。

「……あいつはアタシが相手する。お前ェとオーレリアはマスター達連れて逃げろ」

「え!? で、でも……」

「考えろ。あいつは明らかに異質だ。お前ェらが相手して勝てる相手じゃねェ。アタシもすぐに追い着く。先に行け」

 レーメイは渋々といった表情で席を立ち、客達の方へ走っていった。一方オーレリアは話を聞いていたらしく、カウンターの裏へ移動し、マスターを避難させ始めた。

「意外だな。他の奴らには何もしねェのか?」

「……私の今の獲物はあなたよ! 他の奴らは後からいくらでも料理出来る……!」

 随分な自信だ。だが、厄介な事にそれだけの実力はある。手加減が出来る相手じゃない。

 やがて二人の誘導によって、店内にはアタシと女の二人だけになった。

「邪魔者は居なくなったわね」

「ああ。存分にやりあえるって訳だ」

 アタシがコップをカウンターに置くと共に女はあの時と同じ様に真っ直ぐに突っ込んできた。

 いや、一つだけ違う点があった。小刀を突き出す様にこちらへと向けている。どうやらそのままの勢いで刺すつもりらしい。

 アタシはレーメイが飲み残していたコップの水を相手に引っ掛ける。

「いっ……!?」

 どうやら目に入ったらしく、そのままの勢いでカウンターの奥へと突っ込んでいった。

 アタシは席を立ち、カウンター裏に回る。

「同じ戦法が通用すると思ったか? 今まではそれでやってきたのかもしれねェが、アタシには効かねェぞ」

「このっ!」

 女は酒瓶を投げ、下から切り掛かってくる。大方、酒瓶で視界を塞ぐのが目的なのだろう。

 アタシは飛んできた酒瓶を掴み、斬撃をかわしながら、後ろから後頭部を酒瓶で殴りつけた。

 ガラスが砕ける音と共に女は意識を失い、倒れこんだ。

 今回は場所が場所だったから良かったが、使える物が無い場所で戦ったら危ないかもしれない。ここまで追ってきた事を考えると、また起き上がる可能性がある。早く合流して国王を捕まえた方がいいだろう。

 アタシは急いで店を飛び出し、街を駆け出す。

 まずはあいつらと合流するのが先だ。急がなくては。



 しばらく走っていると、建物の影からオーレリアが手を振っているのが見えた。急いでそこに駆け寄る。

「ご無事でしたか」

「ああ、何とかな。他の奴らは怪我無かったか?」

「ええ。マスターからも目的の場所を教えて頂きました」

 こいつらに任せて正解だった。また情報収集から始めるのかと思うと気が遠くなりそうだったからな。

「で? どこなんだ?」

「ここからでは建物の陰になってて見えにくいですが、あちらの方に役所があるそうです。そこにいるというお話でした」

「早く行きましょうキセガワさん! 増援が来たらまずいです!」

 レーメイは身を乗り出しながら辺りを見回していた。

「ああ。長引けば長引く程不利になるからな」

 アタシ達はオーレリアを先頭に立たせ、目的地まで走り出した。


 

 その建物は意外にもすぐそこだった。

 他の建物よりも明らかに異質な見た目をしている。

 役所だというのに異常な程に鉄で作ったと思われる板で補強してあり、周囲には鉄で作られたと見られる盾が並べてあった。

 これは最早、役所というよりも一種の要塞だ。

「す、凄いですね……」

「……ああ。役所っていうのも建前かもな」

「行きましょう」

 アタシ達は意外にも警備が居ない正面から中に侵入した。

 中には職員も居らず、不気味な程に静まり返っていた。

「どうなってんだ……?」

「どこかに隠れているのでは?」

「……下がってろ」

 アタシは近くの扉に手を掛け、ゆっくりと開いた。

 その瞬間、中から一人の兵士が飛び出し、羽交い絞めにしてきた。

「っ!?」

「キセガワさん!」

 予想してなかった訳ではないが、やっぱ突然出てくるとビビるな……。

 アタシは足を上げ、敵の右膝を思い切り蹴りつけ、解放されると共に首を掴み、壁へ押し付けた。

「……残念だったな。アタシの方が一手上だ」

「うっ……ぐ……」

「いいか? 今からアタシの質問に答えろよ? そうすりゃ解放してやる。もし答えなかったり、嘘を言った事が後で分かったりしたら、ここの床とキスするはめになるぜ。いいな?」

「わ、分かった……! 言う! 言うから、離してくれっ!」

「それは答えた後でだ。じゃあ聞くぜ。ここの国王はどこに居る? 5秒以内だ」

 兵士の目が泳ぐ。明らかに隠そうとしている目だ。

「5」

「な、なあ待ってくれないか……?」

「4」

「な? 俺にも家族がいるんだよ」

 あからさまな言い訳をし始めたな。だが止めるつもりは無い。アタシはチャンスを与えているんだ。ここで答えれば本当に解放するつもりだ。

「3」

「なぁ本当に頼むよ……」

「2!」

 アタシは首から手を離し、後頭部を掴む。

「1!」

「分かった! 二階! 一番奥の部屋だ!」

 やっと喋ったか。いちいち手こずらせやがって……。

 アタシは手を離し、兵士を解放した。

「ほら行きな。今回は見逃してやる。生き延びてェンだったら余計な事はすんな。いいな?」

「わ、分かったよ……」

 アタシは二人の側へ戻る。

「悪い、遅れた」

「場所は分かりましたね」

「行きましょう!」

 アタシ達は国王を捕らえるため、階段を上り、二階へと向かった。

 しかし、手摺に金属製の物が当たる音が響く。

 玄関口を見ると、またあの女が立っていた。先程とは違い、両手には何やら木で出来た棒の様な物を持っている。

「キセガワさん! あれ!」

「先に行け! あれは逃げられる相手じゃねェ! 言っとくが勝手に捕まえようとするなよ!」

 アタシは二人を先に行かせ、階段から手摺を乗り越え飛び降りる。

 女はこちらへとゆっくりと歩き出した。

「懲りねェな、お前ェ」

「……言ったでしょ。これは契約なの」

 アタシは女を観察する。

 最初に見せていたあのキレ方をしていないのが気になる。こいつなら何度もやられたら薬で落ち着きを取り戻そうとする筈だが。

「薬呑まねェのか?」

「ふん……とっくに呑んだわよ。目覚めた後にね……」

 なるほど納得だ。流石にそれだけの考える頭はあるか。

 だが、だとすると挑発して冷静さを損なわせるやり方は通じないかもしれない。正真正銘、実力勝負になる。

 アタシは階段下に落ちている小刀を見つける。

「……あれ使わねェのか? そんな棒切れだけでいいのかよ?」

「舐めないでくれるかしら……これは私が一番得意にしてる武器なのよ……?」

「へぇ? その棒切れが一番得意な武器? まるでガキの遊びだな」

 試しに挑発してみるが、落ち着いた様子でこちらに歩いてきている。やはり通じそうも無い。

 アタシは相手の腹目掛けて拳を放つ。

 しかし、鈍い痛みと共に、アタシの拳は叩き落とされた。

「っ……その動き、カリか?」

「よく知ってるわね? そうよ。あなたは私に触れられないの……」

 いつだったかテレビで見た動きにそっくりだ。確かフィリピンだったかの格闘術にこんなのがあった。国技としても認められてるとかいう話だったが……こっちの世界にも似た様な国があるのか?

「……そうかな? どんな武術にも弱点はある。少なくとも、人間が作ったものならな」

「口で言うだけなら簡単ね。でも……!」

 女は素早く棒を振るう。

 咄嗟に防御したものの、やはり木で出来ているとはいえ、武器として作られているだけあり、硬い。防御した場所が痛む。

 アタシは防御した腕で顔に裏拳を叩き込もうとしたものの、カリで再び叩き落とされてしまう。

 このまま正面きって戦っても無意味に体力を消耗するだけだ。戦い方を考えなければ……。

 アタシは後ろに飛び退き、階段を上り、上の階へと移動する。その間意外な事に女は攻撃を仕掛けてこなかった。

 どういう事だ……? あいつのスピードなら余裕で追いつける筈だ。

 とはいえ、アタシにとっては都合の良い事だった。そのまま近くの手摺の支柱にロープを結びつける。

 その直後、明らかに人間とは思えない跳躍をし、女が二階へと上がってきた。

「逃げられると思った? 無駄よ……私からは逃げられない」

「ああ、そうだな。まるで番犬だな。侵入者に容赦なく襲い掛かる」

 女は再び凄まじい速さでカリを振るってきた。しかし、アタシはそのまま食らう事を覚悟し、ロープを相手の首に巻きつける。

「なっ……」

「悪いが、寝ててくれ」

 アタシは手摺の支柱の隙間から体を滑らせるようにして下の階へ落下した。

 ロープを握ったままだった事もあってか、女はロープの動きに巻き込まれ、体を床に押さえつけられ、頭が丁度下の階からも見える位置に出てきた。

「はっ……がっ!」

 女は必死にロープを取ろうとしていたが、アタシがロープの端を持ち、ぶら下がったままだったため、抵抗も空しく、そのまま意識を落とした。

 アタシはロープを離し、一階へ着地する。

「……刃物を捨てたのが敗因だな」

 アタシは急いで階段を上り、念のためにロープを回収した後、廊下を進んでいった。


 多くの扉を無視し、辿り着いた先には悪趣味な装飾が施された扉がり、その前ではレーメイとオーレリアが待っていた。

「キセガワさん!」

「よくご無事で」

「正直ギリギリだった。こいつに助けられたよ」

 そう言ってロープを指差すと、二人はさっぱりといった表情をしていた。

「あの……前にも思ったんですけど、それってそんなに使えます?」

「あ? ああ。使えるぜ。かなり使いやすい」

「そ、そうですか。私にはちょっとよく分からないですね……」

「私も同意見です」

 どうやらアタシがおかしいという事らしい。まあいいさ。むしろ分からない方がずっと平和だ。その方が良いに決まってる。

「余計なお喋りは後にしようぜ。ここに居る奴を捕まえるのが先だ……」

 アタシは扉に手を掛け、一気に押し開けた。

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