第23話:下準備
アタシ達はシップジャーニーの巨大船に集まっていた。
ヴィアベルの婆さんがどういう作戦を考えているのかアタシには分からなかったが、恐らくビーバー族達にしか出来ない事なのだろう。
婆さんが話し始める。
「よく来たねモーン。ビクついて来ないかと思ってたよ」
「ヴィアベルさん。お話を聞きに来ただけです」
シップジャーニーとビーバーロッジは取引関係にはあるが、決して仲が良いという訳ではないらしい。
「そうかい。じゃあ簡潔に話そうか。あんたらが作ったあの城塞、壊してくれるかい?」
「……あなた達は私達の立場を理解しているのですかな……? もしあの城塞を壊せば、再び我々はレナスに攻撃される事になる」
モーンがそう言うと、ヴォーゲが広間の机に置かれていた大きな紙を持ってきた。
「無論、母も私もあなた方の立場は理解しています。ですので、こちらの方で作戦を考えています」
ヴォーゲは畳まれていた紙を開く。
「あなた方には、城塞の足場を崩して欲しいのです。後は我々がやります」
「……どういう事です?」
「足場を崩していただければ、後は火船を突っ込ませるだけです」
なるほど。普通に火船を突っ込ませたら反撃をされる可能性があるしな。足場を崩して混乱を起こした隙にやるって事か。
「……成功するという保障は?」
こいつはまだこういう事を言うのか……そんな事を言ってる場合じゃねェってのに……。
「……アタシが保障する。アタシが時間稼いでやる」
「キセガワ様が?」
「お前ェらが不安がってんのは、足場を崩してる間に反撃されたり、後から報復されたりする事だろ? だったらお前ェらが作業してる間、アタシが時間を稼ぐ。それに、レナスの頭潰しゃあ報復の心配も無いだろ?」
レーメイもオーレリアも誰もアタシを止める様な事は言わなかった。
ヴィアベルの婆さんはアタシを見て口角を上げていた。
「あんたらしいねぇ。実にあんたらしいよ」
「あんただって若い頃は似た様なやり方したんじゃねェか?」
「バカ言うんじゃないよ。もうちょっと賢くやるさ」
ま、そうだろうな。この婆さんに比べたら、アタシはガキみたいなもんだ。
ヴィアベルの婆さんがモーンの方に向き直る。
「で、どうするんだい? 手伝うかい?」
モーンは静かに口を開く。
「……分かりました。手伝いましょう。……ですが、あくまで足場を崩すだけです。それ以上はしませんぞ?」
「構わねェよ。むしろそれ以外するな。邪魔になる」
アタシは腰を屈め、握手をする。
ちょっとばかし気に入らねェ相手ではあるが、今は仲間だ。根の部分は悪い奴じゃないだろうしな。
「頼むぜ」
「こちらこそ」
早速作戦を開始するために、アタシ達は各々準備に取り掛かった。
船の外に出たアタシは何か使えそうな物がないか、レーメイとオーレリアと共に探し回っていた。
「何を探してるんですか?」
「アタシらがやるのはあくまで足止めだが、使えそうな物は今のうちに手に入れるべきだろ?」
「キセガワ様。お探しの物に目処が立っているのであれば、指示を頂ければ私が探して参りますが」
オーレリアの奴が気を遣ってくれているが、出来れば自分で探したい。
道具と言っても質によってかなり使い勝手が違うし、途中で欲しい物が出てくるかもしれない。
「いや、自分で探したい。お前ェらも自分で使えそうな物があったら、今の内に買うなりしとけよ。後で部屋で合流しよう。じゃあな」
「え、ちょ、ちょっと……」
アタシは止めようとするレーメイをオーレリアに任せ、使えそうな道具を探しに歩き出した。
まず最初に様々な道具を売っている船に移動した。シップジャーニーでの生活の中でチラッと見つけていた店だ。実際に使うのは初めてだが。
「よォ。見てってもいいか?」
「おや、キセガワさんか。話は聞いてるよ。あのレナスを責めるんだって?」
流石に話は広まってるか。
もしかしたら、ここの人間を危険に晒す事になるかもしれない。なるべく、そうならない事を祈るが……。
「知ってたんだな。迷惑掛けてすまねェ」
「構やしないよ。提督に振り回されるのは一度や二度じゃないし。使えそうな物があったら持ってってくれ。御代はいらないからさ」
「……そうか」
アタシは店主の優しさを感じながら商品を見る。
船で商売をしているという事もあってか、そういった関係の商品が多く見られる。
銛なども置いてあるが、流石にこれを使う訳にはいかない。アタシの目的は殺しではない。
それに……人殺すのは一度だけで十分だ。
アタシはふと一つのロープに目が行く。
「これ、ちょっといいか?」
「ああ、いいよ」
アタシはロープを手に持ち、触り心地を確かめる。
がっしりとしており、かなり頑丈そうだ。恐らく係留用のロープなのだろう。
これなら直接手に巻いて殴ってもかなり痛そうだし、振り回せば牽制にも使えそうだ。
これは使えそうだ。
「これ、持ってってもいいか?」
「いいとも! 俺自慢の商品だ。是非使ってくれ!」
「ありがとう」
アタシはロープを巻き、肩に掛ける。
そこそこの重さはあるが、動けないほどではない。普通に走り回ったり出来そうだ。
「他には何かいるかい?」
「……いや、これだけでいい。あんまり持ち歩いてもかさばるしな」
「そうかい? それじゃあ毎度!」
アタシは店主の声を背に店の外に出る事にした。
さて、他に使えそうな物と言っても、持ち歩きすぎると邪魔になるだけだ。ある程度自由が利いた方が戦いやすい。
少し離れた所にレーメイ達の姿が見える。どうやら薬を売っている船から出てきたところの様だ。
これなら、傷薬とかはいらないか。それついてはあいつらに任せよう。
他に必要な物も思い浮かばないし、部屋に戻るか。今のうちに体を休めておこう。
今度の戦いは、一つの国相手だ。今までの人生の中で、一番キツイ戦いになるかもしれない。
アタシはずり落ちそうになっていたロープ直し、自分達の部屋へと戻っていった。




