第22話:ビーバー達の罪
家に押し込められる様にして入ったアタシが目にしたのは、丁度膝位の大きさをした二足歩行のビーバー達だった。
その中心には毛で表情が見えない、恐らく長老だと思われるビーバーが居た。
「これはお客人、どうも若いのが失礼致しました。これ、離してあげなさい」
「は、はっ!」
長老の一声により、アタシはようやく解放された。
さて、アタシからさっさと説明しとくか。どうせレーメイもオーレリアもまだ時間掛かるんだろうし。
「お客人。どういった御用件でいらしたのですかな?」
「……単刀直入に言います。レナス城塞の破壊に協力して頂きたい」
アタシは可能な限り礼儀正しく頼んだ。
もしここで下手な態度をとって協力してもらえないのは困るからな。
「……その事ですか。でしたら、お断りさせて頂きます」
「何故ですか? あの城塞のせいで下流にあるロードレイクで干ばつが起きています。協力できない理由をお聞かせ願いたい」
アタシがそう言うと、周囲に居たビーバー達が一斉に棒を構える。
何か癇に障る事を言ってしまったか……?
「お前達止めなさい。……分かりました。理由をお話しましょう」
「お願いします」
「事の始まりは、レナスの国王が命じてきた事でした。『我が国を守るための城塞を造れ』と」
これはヴィアベルの婆さんも言っていたな。腰抜け国王が造らせたって。
「我々も最初は断りました。ですが……それから二日後に、犠牲者が出たのです」
「……誰か、殺されたって事ですか……?」
「ええ……ロッジに暮らす親子でした。体中に矢が刺さり、挙句の果てには串刺しにされていたのです。最早我々に断るという選択は無くなっていました……」
思っていた以上にクズ野郎じゃねェか、あの国の王は……。
アタシが言えた義理じゃねェが、人には超えちゃあならねェ一線ってモンがある。
それをそいつは超えやがった……。
「それで、手伝ってしまったと……?」
「はい……どうか分かってください。我々は無力なのです。虐げられない様に生きていくので精一杯なのです」
こいつらの言いたい事は分かった。要は関わりたくないって事なんだろう。
だが、アタシもここで引き下がる訳にはいかねェ。
ロードレイクとか言う所に借りがある訳じゃねェが、どうしてもあの城塞を壊して貸しを作る必要がある。
「事情は分かりました。ですが、こちらも引き下がる訳にはいきません。どうしてもあの城塞を壊す必要性があるのです」
「あなたは、ロードレイクの方なのですかな?」
「いいえ。違います」
「でしたら、良いではありませんか……余計な火種を起こす必要性はありませんよ。幸せに生きていられるのなら、それで良いではありませんか……」
その言葉を聞き、頭に血が上るのが分かった。
こいつは……何て奴だ……テメェらが良けりゃそれでいいのかよ? 他の人間が死んだっていいってのか……?
最初は脅された可哀想な奴らだと思っていたが、結局のところ、こいつらは自分達を正当化したいだけだ。自分達は悪くないと、幻想に浸りたいだけだ。
「自分達が良けりゃいいってか? オイ」
ビーバー達が再び棒を構える。
「貴様! 長老に何て口を!」
「長老だァ? 笑わせんなよ。被害者面してるだけで何もしてねェで、他人を見殺しにする様な奴の事をアタシは長老だなんて認めねェぞ」
アタシを取り囲む棒はますます近くなる。
だが、長老はそれを止めるでもなく、語り始めた。
「そうでしょうな。あなたの言う通りなのでしょう。ですが、我々は力を持っていません。無力なのです」
「あんたがそう思いたいだけだろ。努力もしてない奴が、『無力』って言葉を使うな」
その言葉を発してから、室内は静寂に包まれた。
どれ位経っただろうか。
その静寂は突然終わりを迎えた。
「お、遅れました!」
そう言いながら家に入ってきたのはレーメイとオーレリアだった。
「遅かったじゃねェか」
「……こちらの方は?」
レーメイは軽く服を整え、挨拶を行った。
「お初にお目に掛かります。レーメイ・トワイライトです!」
「ではあなたは……トワイライト王国の……」
「はい!」
どうやらこのビーバーロッジでも知られている様だ。
もしかしたらアタシが思っている以上にあの国は有名なのかもしれないな。
「そちらの方は?」
「私はオーレリアと申します。お嬢様の下で召使いをやっております」
無機質なオーレリアと感情を分かりやすく見せるビーバー。何とも不思議な光景だ。
「そういえば、あなたのお名前をお聞きしていませんでしたな」
「喜瀬川雅。好きに呼べばいい」
「キセガワさんですか。今更ではございますが、私がビーバーロッジの長老、モーンです」
本当に今更だな。急ぎだったからアタシも名乗るのを忘れていたが。
さて、どうやって説得するかだな。
レーメイやオーレリアに任せてみるか?
そう考えていると、最初に口を開いたのはオーレリアの方だった。
「この様子だと、既にキセガワ様からお話は伺っているものと存じます。私からも、どうかお願いします」
「申し訳ございませんが、お断りします」
「納得のいく理由をお教えください」
「それは……」
モーンは先程アタシに話した事と同じ事をオーレリアにも話した。
「……なるほど。皆様の事情は理解しました」
「そうですか。でしたら……」
「理解は致しましたが、納得は出来ません」
そうだろうな。
こいつは無機質であっても無感情ではない。最低限の善悪の区別はつく奴だ。
あんな理由で納得する筈がない。
「なァ長老さんよ。何も全部にケジメつけろって言ってる訳じゃねェ。少し協力してくれりゃいいんだ」
「少しというのはどの様なものですか?」
「内容まではアタシの一存じゃ決められねェ。シップジャーニーのヴィアベル婆さんと話し合って決めようと思ってる。付いて来てくれねェか」
「……分かりました。ヴィアベルさんでしたら、信用しても大丈夫でしょう」
長老の言葉を聞き、ビーバー達に戸惑いが生まれていた。
「長老!危険です! 人間の事など放っておきましょう!」
「……話を聞きに行くだけです。それと、ミルーン」
「はっ!」
ミルーンと呼ばれたビーバーが前に出る。
他のビーバー達に比べると体がガッシリしており、いかにも強そうな印象を受けた。
「護衛を頼めるかい?」
「はい! 命に代えてもお守りします」
こうしてアタシ達は話し合いをするために、一旦シップジャーニーへと戻っていった。




