第21話:ビーバーロッジ
アタシの耳に喧しい音が響く。
何だこの音は……鐘が鳴ってんのか?
アタシは気だるい体を起こす。
オーレリアは既に起きており、レーメイもアタシと同じタイミングで目を覚ました様だった。
「おはようございます。何やら鳴っている様ですが」
「ああおはよう。……何かの合図か……?」
レーメイはまだ寝惚けているらしく、ボケッとしている。
このままここに居ても仕方ねェ。ヴィアベルの婆さんのとこに行ってみるか。
「オイ、ガキ。ちょっと婆さんのとこに行ってくるから、戻ってくるまでにこいつ起こしといてくれ」
「畏まりました。行ってらっしゃいませ」
レーメイの事を任せ、アタシはヴィアベルの婆さんの所へと向かった。
広間に着くと、婆さんとヴォーゲが居た。
「おや、早いね」
「うるせェ音に起こされたんだよ。何があった?」
「母から既に聞いているとは思いますが、協力者の所に到着しました」
どうやら夜の内にも船を動かしてくれていた様だ。
「ああ、そういう事か。で? 何て所なんだ?」
「まぁ行ってみなよ。他の奴らも足場繋げてるところだろうし」
何をもったいぶってるのかは知らないが、着いた事には変わりない。
「……分かった。ちょっと行ってくる」
アタシは広間を後にし、部屋へと戻っていった。
部屋に戻ると、オーレリアがレーメイの髪を整えていた。
レーメイはまだ眠たそうで、あくびをしていた。
「お戻りになりましたか」
「おう。どうも着いたみてェでな。今足場繋げてるみてェだから、準備が出来たら行くぞ」
アタシは部屋に置いてあった小さい鏡を見ながら寝癖を整える。流石に初対面の人間に寝癖面を見せる訳にはいかねェからな。
「んー……何かあるの……?」
「お嬢様。どうやら目的地に着いた様です。いい加減しっかりして下さい」
いつまで寝惚けてるんだこいつは……。
まァ、時計を見た感じだと、まだ6時だからなァ、慣れてない奴には辛いかもしれないな。
「レーメイしっかりしろ。相手が誰なのかは知らんが、協力をしてもらえる様に頼みに行くんだ。そんな所で寝惚け面晒す気か?」
「……起きてますよ……大丈夫です」
大丈夫じゃねェなこれは。
仕方ない。先に行っておくか。
「オーレリア。後は頼むぞ。アタシは先に行ってくるからな?」
「承知しました。お気を付けて」
オーレリアに見送られ、アタシは部屋を出た。
船の外に出ると、いつもの様に足場が組まれていた。
シップジャーニーに人々は荷物を運んだり、出店の準備をしていた。
どうやら、ここでも商売をしているらしいな。
「あっ! キセガワさん! おはよう!」
船を渡っていたアタシに声を掛けてきたのはペスカだった。
「おうお前ェか。おはよう」
「ねぇねぇ、噂で聞いたんだけどさ? レナス城塞を壊すってホント?」
どこで聞いたのか、ペスカは耳打ちする様に尋ねてきた。
まァ、こいつになら言っても大丈夫か。
「ああ。ロードレイクの人間に協力してもらうためにな」
「あー……そういう事か。昔は綺麗な所だったんだけどねぇ……」
どうやらペスカも、まだ綺麗だった頃のロードレイクを知っている様だ。
という事は、その城塞が建てられて干ばつが起こったのは結構最近という事だろうか?
「今じゃ干ばつで酷い有様なんだろ? だったら、助けりゃ丁度恩を売れるよなって話だ」
「うっわぁ、そういう魂胆かぁ」
「別にそれだけって訳じゃねェよ。アタシとしても、綺麗な自然が無くなるってのは嫌なんだよ」
実際にロードレイクの状況を見た訳ではないが、干ばつが起きているという事は緑が少なくなっているのだろう。
もしも植物が育たず、水も流れてこないとなれば、待っているのは破滅だけだ。
「ふーん。まっ、そういう事にしといてあげるよ。いってらっしゃい。気を付けてね!」
ペスカはそう言うと、いつもの様に飛び跳ねる様にして船を渡っていった。
さて、道草食ってる場合じゃないな。さっさと行こう。
船を渡り終わり、陸に着くと、シップジャーニーの人々が商売の準備を行っていた。
だが、どうにも違和感がある。
辺りを見回してみても、村のようなものも町のようなものも見当たらない。こんな所に人が住んでいるのだろうか?
「よう。キセガワ」
声がした方に振り向くと、そこに居たのはスバルだった。
「ああお前ェか。お前ェもここで商売すんのか?」
「しちゃ悪いかよ?」
誰もそんな事言ってないだろうが……可愛くねェ奴だな……。
「別にそんな事言ってねェだろ。それよりよォ、ここ、ホントに人居んのか?」
「人は居ない。村はあるけどな」
どういう事だ? 村はあるのに人は居ないだと? それじゃあこいつらはいったい誰と商売するつもりだ?
「ここはビーバー族が住んでんだよ。オレ達はここで木材を仕入れて、他の所に売ったりしてる」
ビーバー族だと? まさかビーバーが喋ったりするとでも言うのか?
「いまいちピンと来ねェなァ……そのビーバー族とか言うのは喋るのか?」
「当たり前だろ。喋らずにどうやって取引すんだよ」
そりゃそうか。
しかし、こっちの世界じゃビーバーが喋ったりすんのか。あっちの世界じゃ絶対にありえねェな。
「お前さ、今からビーバー族に協力を頼みに行くんだろ?」
「……よく知ってんな」
「オレから一つ言っとくけど、ビーバーロッジでは向こうのルールに従えよ?」
『郷に入っては郷に従え』というやつか。まァ、これは当たり前の事だな。
「分かってるよ。わざわざご忠告どうも」
「……分かってんならいいよ。さっさと行け」
何だよこいつ自分から呼び止めといて……用が済んだらこれかよ。
まァいい。この位の事でいちいち腹立てる必要も無いしな。
「ああ、さっさと行くよ」
スバルに別れを告げると、アタシはわずかに舗装されている道を見つけ、先へと進んでいった。
しばらく進んでいると、小さな湖の様な場所に木で出来た小さな家が立ち並んでいた。
ありがたい事に、陸からも行ける様に橋まで架けてある。
アタシは橋を渡り、家のある場所を目指す。
橋は木で出来ているものの、軋む音一つせず、非常に頑丈な造りである事が分かる。やはりビーバーはこういう作業が得意なのだろうか?
そんな事を考えながら歩いていると、突然木を打ち鳴らす様な音が鳴り響き、家の一つからビーバーが一匹飛び出し、こちらに二本足で走ってきた。
「止まれー! そこで止まれー!」
「オイオイオイオイオイ何だよ急に」
アタシはとりあえず手を上に上げ、攻撃の意思が無い事を示す事にした。
「貴様! 人間だな!? ここに何しに来た!?」
何かおかしいな……こいつらはシップジャーニーの人間と商売する仲の筈だ。だというのに、ここまで警戒する理由はなんだ?
「なァ待てよ。話があって来たんだ」
「話だとぉ!? また前みたいに利用する気だろう!?」
何となくだが、分かってきた様な気がするな。
「あの城塞の事言ってんのか?」
「やはり利用しに来たのだな!? 来い! 長老に罰を決めてもらおう!」
そう言うと、そのビーバーはアタシの腕を縄で後ろで縛り上げ、手に持っている棒で突付きながら奥へと進ませた。
「オイ痛ェって。突付くの止めろ」
「うるさい! 黙って歩け!」
何かメンドクサイ事になってきたな……シップジャーニーの人間に付いてきてもらった方が良かったかもしれねェな。
つーか、レーメイとオーレリアの二人は何してやがんだ。早く来いよ……。
アタシは突付いてくる棒にイライラしながらも、そのまま長老の家へと入っていった。




