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落伍者とお姫様 ~異世界の冒険~  作者: 鯉々
第1章:終わりゆく街
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第2話:新しい世界、冒険の予兆

 目を開けると、アタシは見知らぬ街にいた。

 周りには様々な露店が出ており、多くの人々が行きかっていた。あのジジイ……マジで送りやがった……。

 アタシが周りを見回していると、声をかけられた。

「お嬢ちゃん。ちょっと見ててってよ!」

 お嬢ちゃん? こいつどういう目してんだ。アタシは21歳だぞ?

「あ? 何だよ、お前ェ」

「ほらほら、うちの商品見てってよ!」

 こいつの店、野菜売ってんのか? 見た感じそんなに変わった感じのはねェな。

「あー、悪いんだがな、アタシ、今金持ってないんだよ。他を当たってくれ」

 アタシは店から離れ、通りを歩いた。まずは金を工面する方法を考えなくては……。

 そこでふとアタシは思いついた。そうだ。アタシは落語を習ってた。師匠程の実力は無いが、ある程度は出来る筈だ。多分こっちの世界でも通じる筈だ。師匠も言っていた。笑いは世界に通じる、と。

 ただ、問題もある。どこでやるかだ。出来るだけ短期間で金が欲しい。なるべく、金持ちの相手がいいな。あいつらは金払いがいいし。

 ……思いついた。ただ、ちょっとヤバイかもしれない。対応をミスったら大変な事になる。しかし、やってみる価値はある。ちょっと行ってみよう。



 アタシは通りから見えていた王宮の前に来ていた。ここで成功出来れば、一気に大金を手に入れる事が出来るかもしれない。

 アタシが門に近付くと、門番と思しき二人が止めてきた。

「待て。ここから先は一般庶民は立ち入り禁止だ。引き返せ」

 正直、上から目線で腹が立つが、ここは丁寧な対応をして波風を立てない様にしなければ。

「これは失礼いたしました。私、噺家はなしかをやっているものでして。是非、こちらで雇ってはいただけないかと思い、参った所存でございます」

「はなしか? 何だそれは」

 クソ……こっちの世界に無いのかよ。面倒くせェなァ……。

「噺家とは、笑い話、人情話等の様々な話を聞かせる……言わば、一種の芸人でございます」

「……少し待ってろ」

 そう言うと、門番の一人が奥に入っていった。これはいけたか……?



 しばらくすると、先程の門番が帰ってきた。

「とりあえず、通せとのお達しだ。案内する」

 よし! 中に入るのは成功したな。後は、何の噺をするかだ。なるべく、万人受けする奴がいいよな……。

 そんな事を考えていると、アタシは煌びやかな廊下を抜け、謁見の間に通された。部屋は馬鹿みたいに大きく、無駄に煌びやかだった。ここまでする必要性が分からない。

 前を見ると、やけに豪華な椅子にいかにもな王様が座っていた。

「お前が、その芸人とやらか?」

「はい。お初にお目にかかります。喜瀬川と申します」

 相手の偉そうな態度が気に食わないが、表には出さないようにして頭を下げる。ここは丁寧に行かなくては……。

「キセガワか。では何かやってみせよ」

 来たな。もう何をやるかは決めてある。『まんじゅうこわい』だ。流石にまんじゅうは無いかもしれないから、パンに変えてある。これなら、万人が理解出来るだろう。

 アタシはその場に膝を着いて正座の形になり、話し始めた。






 アタシが話し終え、王の方を見ると、先程とさほど表情が変わっていなかった。これはやってしまったか……?

 そう不安になっていると、王がアタシに話し始めた。

「キセガワとか言ったな?」

「はい」

「私は、芸事にはかなり関心深いのだがな……」

「……はい」

「貴様の話は何も面白くなかったぞ」

 …………は? 何? 面白くなかった?

「ただ、間抜けな庶民が少し頭の回る人間に騙されたというだけの話ではないか。正直、この話を考えた者はあまり頭が良いとは言えん」

 何だと……待てよ……頭が、悪いだと……? こいつ、ふざけんなよ……温室育ちのクソの癖に、この噺をつまらないって言うのか……?

「貴様の芸が独学か、それとも誰かに師事を受けたのかは知らんが、何にせよつまらん」

 その時、アタシは素早く立ち上がり、目の前のクソに向かって走り出していた。もう我慢の限界だった。アタシが馬鹿にされるだけならまだ耐えられる。だが、アタシの師匠を馬鹿にする事だけは、絶対に許せなかったのだ。

 衛兵達がアタシを取り囲む。当たり前と言えば当たり前か。だが、この程度で諦める訳にはいかない。一発あいつをぶん殴ってやらない事には、もう腹の虫が治まらなかった。

「芸人! 何のつもりだ!」

 衛兵たちが声を上げる。

「何のつもりだァ? 決まってんだろ! そこの他人に最小限の敬意も払えねェクソ野郎を一発ぶん殴ってやんだよ!」

 衛兵の一人がアタシのその言葉を聞き、剣で切りかかってきた。アタシは素早く近寄り、相手の腕を捻る様にして、床に叩きつけた。こんな剣如きでビビると思ってンのか。

 アタシが床に叩きつけたのが合図となり、一斉に衛兵達が襲い掛かってきた。


 最初のうちはある程度相手が出来ていたが、流石に数が多く、とうとう捕まってしまった。

 アタシは王宮の地下にある牢屋に閉じ込められ、出られなくなってしまった。

 アタシは壁に寄りかかり、少し反省した。昔からの悪い癖だ。すぐにカッとなって手が出る。これじゃ金を手に入れる以前に、命の危機だ。下手をすれば処刑だ。

 アタシが胡坐あぐらをかいてこれからの事について考えていると、牢屋の前に一人の少年が立っていた。手にはお盆のような物を持っている。

「キセガワ様。食事をお持ちしました」

 何だ? 何を言ってるんだ? 捕まったアタシに食事だと?

「オイ。お前ェ、何がしたいんだよ。見て分からねェのか? アタシは捕まってんだぞ」

「はい。わたくしからもそう見えます」

「だったら何で飯持って来るんだよ」

「はい。例え、罪を犯して捕まってしまった人でも、最小限の人権は守られるべきだと感じたからです」

 こいつ、まさか独断で持ってきたのか?

「お前ェ、勝手に持ってきたのか?」

「はい。ですが、マスターは私にそのように教えてくださいましたので、その記憶を元に行動しました」

 よく分からん奴だ。だが、正直飯を持ってきてくれたのはありがたい。ここは貰っとくとしよう。

「分かった。それじゃあ、お前ェの善意に甘えるとするよ」

 アタシは鉄格子の隙間から手を伸ばし、盆の上に乗っている皿とパンを一つ取った。皿にはスープの様なものが入っていた。

 アタシが食事を受け取ると、少年は再び話し始めた。

「受け取っていただけたのなら、少しお願いを聞いていただいても宜しいでしょうか?」

 ……なるほど。恩を売ったわけか。

「……賢いやり方じゃねェか。聞くだけならいいぜ」

「はい。実は、私がお仕えしているお嬢様からのお願いなのです」

 アタシは食事をとりながら話を聞いた。

「お嬢様ァ? あのクソの子供か?」

「クソではございませんが、確かにあの方のお子さんでございます」

「で? そいつがどーしたと?」

「はい。お嬢様はこの国の行く末を心配しておられます。この国は衰退へと向かっているのです」

「まさかアタシに手助けしろって言うンじゃねェだろうな?」

「ご名答でございます。お嬢様一人ではどうしようもありません。あなた様に助けていただきたいのです」

 メンドクサイ状況になってきやがった……。承諾したら絶対メンドクサイ事になるし、かと言って拒否したら、ここから出れねェし……。はぁ……しゃーねーか……。

「……わーったよ。協力するよ。こっから出してくれるんならな」

「ありがとうございます。こちら鍵でございます」

 こいつ鍵持ってンのかよ……管理が杜撰過ぎねェか?

「ん。あんがとよ」

「鍵は夜の11時になったら開けてください。開けたら、この地下に緊急時様の小船がございますので、そこに向かってください。お嬢様には私の方から伝えておきます」

「おう待てよ。時計ねェんだぞ。どうやって時間調べりゃいいんだよ」

「なるほど。失念しておりました。では、時間になりましたら、私がお迎えにあがります」

 最初からそうすればいいじゃねェか……。まあともかく、これでこいつの言う通りにしてりゃ、ここから出られる訳だな。

「ではキセガワ様。私は一旦失礼致します」

 そう言うと少年は牢屋の前から離れていった。

 アタシは作戦決行に備え、床に寝転がった。ちょっと仮眠をとろう。時間はすぐに来る。

 アタシは目を閉じ、その時が来るのを待った。

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