第19話:抗えぬ血と罪
ようやく全員浴場内に入ってきたものの、オーレリアはキョロキョロと周囲を見渡していた。
「オイ。どうしたんだ?」
「いえ、どのような手順を踏めば良いのかと思いまして」
どのような手順って……別に好きな手順でやればいいだろ。アタシがやった手順だって、あくまでアタシが正しいと思ってやったものだ。それが絶対に正しいと言う自信は無い。
「好きにやれよ。ただし、汚れてるんだから一回体流してから入れよ?」
「はい。分かりました」
そう言うとオーレリアは桶に湯を汲み、それで体を流し始めた。
だが、そんな姿を見ていて、アタシは強い違和感を覚えた。
「オイお前ェ……その体……」
「何ですか?」
オーレリアの体をよく見てみると、肘の所に不自然な繋ぎ目の様なものが見えた。
そう……まるで、機械みたいな……。
「その、肘の所……何だよ……それ……」
「何かおかしいでしょうか?」
「お、おかしいわ! どうしたのそれ!?」
レーメイも同じく驚く。
どうやらこいつも知らなかった様だ。
「なァ……お前ェ、本当に人間か?」
「いえ、私はオートマタです」
…………あ? オートマタ? 今、こいつオートマタって言ったのか?
アタシも詳しいわけじゃねェが、その言葉は聞いた事がある。
確か、機械人形だったか、そういう感じの意味だった気がする。
「お、オートマタ……!?」
レーメイが間抜けな声を上げる。
「……それじゃあ何か? お前ェは、機械で出来てると……こう言いたい訳か?」
「はい。私の大部分は機械で出来ております」
マジかよ……。
しかし、改めて考えると納得がいくな。
食事をとろうとしなかったり、寝ようとしなかったり、どれも不自然なレベルだった。ダイエットだとか不眠症だとか、そういうレベルのものではなかった。
アタシは口元まで湯に浸かる。
ハァ……そういう事だったのかよ……もっと早くに言えっての……下手に気ィ遣ってたのがアホみたいじゃねェかよ……。
体を流し終わったオーレリアが湯船に入ってきた。
レーメイはまだ信じられないといった様子だった。
「ちょちょ、オーレリア……あの、本当にオートマタなの……?」
「はい。先程もそう申し上げた筈ですが」
「何で言わなかったの……?」
「聞かれませんでしたので」
なるほど……『聞かれなかったから言わなかった』……いかにも融通の利かない機械みたいな返答だな……。
アタシは湯から顔を上げる。
「なァ……お前ェが言ってた『王国に仕える前に居た場所』ってのは……お前ェが作られた場所か?」
「……申し訳ありません。第1級機密情報です。お答えする事は出来ません」
もうそれが答えみたいなもんだろ。
しかし……そうか……知らなかったな……いや、気付かなかったというべきか?
まァ、誰しも秘密はあるよな。その秘密の大きさはそれぞれかもしれねェが、大なり小なりあるよな……。
……アタシは言うべきだろうか? これからも長い旅になるかもしれない。
こいつらには、話してもいいかもしれない……。信用出来るしな……。
意を決したアタシは二人に声を掛ける。
「……なァ、ちょっといいか?」
「ど、どうしたんですか? ちょっと今混乱してて……」
「その状態で聞かせるのは申し訳ないんだがな……アタシも言っとかなきゃならねェ事がある」
アタシは息を整える。
大丈夫だ……こいつらになら、話しても……。
「あの、な? これからもアタシはお前ェらと旅をする事になると思う。それこそ、どんな長さになるか分かったもんじゃねェ」
「そうですね。私もどれ程の長さになるか計算出来ません」
「それでだな……アタシも、もう隠し事は無しにしようと思ってよ……」
二人ともキョトンとした顔をしている。
「え、え? も、もしかしてキセガワさんもオートマタとかですか……!?」
「バーカ……違ェよ……そういうんじゃねェ」
「では、どのような?」
正直、『実はオートマタだった!』とかの方がマシだな……。
「アタシな……人、殺した事あんだよ……」
浴場内が静寂に包まれる。
その静寂がアタシを苦しめる。
どうせなら、いっその事罵ってくれ……その方が楽だ……。
静寂に耐え切れず、アタシは口を開く。
「6歳の時だ。殺したのは、実の親だ。分かるか? 血の繋がった実の親……」
「実の、親……」
「ああ。理由は……まァ、これ見りゃあ分かるか……」
アタシは立ち上がり、二人に体を見せる。
もう二度と消える事が無いであろう、呪いとしか言いようが無い『それ』を見せる。
「あっ……」
「酷ェもんだろ? 医者に見せたら言われたよ。この傷はもう消えないってな」
『それ』はアタシの右脇腹辺りに走っていた。
「それ……もしかして、ご両親に……?」
「いや、やったのはお袋だけだ。親父はとっくの昔にどっか行っちまったよ」
アタシは息を吐く。
「どうだ? 醜いもんだろ? アタシがやったのはアイツと同じだ。他人に対する暴力……いや、殺しちまってる分、アタシの方が質悪いか? 嫌なもんだよな……血は争えねェ……結局のところ、アタシもアイツと同じだ」
先程まで黙って聞いていたオーレリアが口を開く。
「私には理解が出来ません。何故、親が子に暴力を振るうのですか? 効率など、その他の観点から見ても、納得の出来る理由が存在しません」
そうだな……全く持って理解不能だよな……こいつにとっては当然の疑問だよな……。
「お前ェが思ってるよりもな、人間ってのはァ……分からねェもんだよ……」
「……その返事から推測すると、キセガワ様も納得のいく答えが出ていない様ですね?」
こいつの言う通りだ。アタシも、アイツがやった様な、いわゆる『虐待』というものがどういう審理で行われるものなのか納得出来ていない。
もしかしたら、一生納得なんて出来ないのかもな……。
「そうだな。アタシも納得出来てねェよ」
「……そうですか」
「まァ、それで……どうする? アタシと旅を続けるか? こんな人殺しと。こういっちゃあ何だが、多分頼めばヴィアベルの婆さんがお前ェらの面倒を見てくれる筈だ」
レーメイが口を開く。
「キセガワさんは、その……虐待、されてたんですよね?」
「ああ。もっとも、だからと言って、人殺していい理由にはならねェけどな」
「でも、それは仕方が無かったんじゃないでしょうか? 私にはよく分かりませんけど……」
分からなくていい。人殺して良いわけがねェ……どんな理由だとしても……。
「……レーメイ。それに関しての良し悪しは問題じゃねェンだ。それよりも、お前ェらがどうしたいかが重要だ。アタシの事、軽蔑したなら、これからはヴィアベルの婆さんを頼りな。アタシは元々、あの牢屋から出るためにお前ェらに付き合っただけだ。別に本心からお前ェらを助けようと思った訳じゃねェ」
「嘘ですよ……」
「嘘じゃねェって……マジで言ってんだよ」
「もし本当に牢屋から出るためなんだったら、グリンヒルズに着いた時に隙を見て逃げる事も出来ましたよね? 多分、私とオーレリアの二人がかりでかかってもキセガワさんは倒せないでしょうし……」
「タイミングが無かっただけだ」
「いいえ。キセガワさんは本当は優しい人なんです。ちょっと荒っぽいところはあるかもですけど、人のために怒れる、優しい人なんです」
……どうしてそこまで信じられるんだろうな。育ちの差か? いや、アタシの猜疑心が強いだけか……。
「だから私はキセガワさんに付いていきます。貴方の事を信じて」
「私もお嬢様と同意見です。納得出来ない事を真実として記録する事は出来ませんので」
安心した。
アタシは馬鹿だな。大馬鹿野郎だ。
今更、信頼できるだのと……馬鹿らしい……もっと前からそうだったじゃねェか。
信頼出来るから、こいつらに協力してたんじゃねェか……。
……よし。もう悩む必要は無ェな。
アタシは座り込み、湯に浸かり、二人の肩に手を回し、引き寄せる。
「すまん。ありがとう……」
「気にしないで下さい。私は信じてますから」
「感謝される行為をした覚えがありません。お気になさらずに」
一緒に旅をするのがこいつらで良かった。改めてそう思う……。
アタシ達はしばらくの間、そうしたまま暖かさに包まれていた。




