第16話:暗くて狭い洞穴で
トゥーリバーは今まで見たグリンヒルズなどとは違って、あまり発展しておらず、のどかな村といった感じだった。
シップジャーニーの人間達は船から積荷を降ろし始めている。
どうやら彼らはここで商売を行うつもりらしい。
正直言って、これは好都合だ。
ここで商売が行われるという事は多くの人間が集まるという事。それだけ人間が集まれば、情報を集めるのが楽になるというものだ。
アタシはとりあえず近くに居た住民に声を掛ける。
「なァ、ちょっといいか?」
「おや、シップジャーニーの方ですか?」
「いや、アタシらは違ェ。ちょっと聞きてェ事があんだが、いいか?」
「何でしょう?」
「ここの……えっと、村か? ここにテスラ川ってのがあるって聞いたんだが、どこにあるか教えちゃくれねェか?」
「ああそれなら、ここから真っ直ぐ行ったら橋が見えてくるからそこだよ」
真っ直ぐか……道も開けてるし、迷う様な事は無さそうだな。
「そうか。悪かったな。助かった」
アタシは適当に礼を言い、橋がある方向へと歩き始めた。
言われた通りに歩き続けていると、やがて大きな橋が見えてきた。
橋は木で出来ており、そこそこ年季が入っている様に見えた。
とはいえ、決してボロボロという訳でもなく、かなりしっかりとした作りに見えた。
恐らくこの川はかなり昔から存在しているのだろう。
橋の前まで来たアタシ達は欄干から下を覗く。
川は非常に澄んでおり、底の石や泳いでいる魚達がはっきりと見えた。
今時ここまで綺麗な川はそうそう見る事が出来ない。
アタシは柄にも無く、純粋に綺麗だと感じた。
「綺麗な川ですね」
「あァ、綺麗に使ってる証拠だ」
「キセガワ様、お嬢様、まずは洞穴を探すのが先決かと思います」
「っと……そうだったな」
思わず見とれてしまっていた。どうにも、アタシらしくもねェな……。
しかし、ここから下に降りるにはどうすればいいんだろうか。見たところ、下に降りるための場所とかは見当たらないが……。
「しっかしどうすんだ? この辺にァ降りる所なんか見当たらねェぞ?」
オーレリアは周囲を見渡す。
「……キセガワ様。お嬢様をお願いします」
そう言うと突然オーレリアは欄干から下に向かって飛び降りた。
あまりにも突然の事だっため、止める事すら出来なかった。
アタシは急いで下を覗く。
オーレリアは川の辺に着地しており、どこかを怪我している様な様子は無かった。
アタシはホッとする。
「ガキ!! ふざけた真似すんじゃねェ! 心臓が止まるだろうが!!」
「余程のショックか病気でない限り心臓が止まる事はないと思うのですが……」
「そーゆー事言ってんじゃねェ!! 危ねェだろって言ってんだよ!!」
「キセガワ様、それよりもお嬢様をお願いします」
……クソが。どんだけ心配したと思ってんだよ……。
「おいレーメイ。しっかり掴まれ」
「は、はい。……あの、大丈夫ですよね?」
「まァ、なるべく大丈夫な様に飛び降りる。だからしっかり掴まってろ」
アタシはレーメイを抱き抱え、欄干の上に上る。
別に大した高さではない。これ位の高さなら怪我無く着地出来る。
「行くぞ」
アタシはレーメイを落とさない様にしっかり抱き締め、欄干から飛び降りた。
辺には小石が散らばっており、着地の際に少し足を踏み外しそうになったが、何とかバランスを崩さずに着地出来た。
「流石でございますキセガワ様」
「テメェ……急に危険な事すんのはこれで最後にしろよ……」
「善処します」
オーレリアは全くいつもと変わらない様子で応えた。
表向きだけでもいいから反省した様な態度を取れよ……。
まァ、怪我が無いのは良かったが……。
「あの……キセガワさん? そろそろ下ろして頂けると……」
「おっと、悪い」
すっかり忘れていた。
アタシはレーメイを下に下ろし、周囲を見渡す。
「さて、と……こっから見た感じじゃ洞穴っぽいのは見当たらないな」
「探しましょうキセガワさん!」
「おう。一緒に探すぞ」
「キセガワ様。これは個人的な意見なのですが、手分けして探した方が効率的なのでは?」
まァ、こいつの言いたい事は分かる。
ここの川は上流から探すとなると、かなりの距離になるだろう。手分けした方が手っ取り早い。
だが、このトゥーリバーは初めて来る場所だ。下手にバラバラに行動して道に迷ったりしたら危険だ。
「オーレリア。一緒に探すぞ。迷ったりしたら危ねェ」
「オーレリア、一緒に探すわよ」
「……分かりました。お二人の言う事に従います」
納得してくれた様だ。素直で助かる。
「よし、そんじゃあ探すか。まずは川下の方から探すぞ」
「はい!」
「畏まりました」
アタシ達は洞穴を見つけるため、川の辺の周りを探し始めた。
それからどれだけ探しただろうか。
空は橙色に染まり始めていた。
慣れない足場を歩き続けた事もあってか足には負担が掛かっており、だんだんきつくなっていた。
そんな中、ついにアタシ達は洞穴を見つける事が出来た。
その洞穴は川を上り、かなり進んだ所にあった。
その場所は特に何か飾られているという事は無く、いたって普通の場所だった。
余りにも普通に存在していたため、気を付けなければ見落としてしまいそうだった。
「ここ、か?」
「どうやらその様ですね」
「行きましょう」
アタシ達は『黎明』を見つけるために洞穴の中に入っていった。
洞穴の中もそこまで変わった所は見られず、よくある洞穴の様に見えた。
所々狭くなっており、屈まなければ通れない様な所もあった。
「オイ。頭ぶつけない様に気を付けろよ?」
「は、はい。それにしても暗いですね……」
「急いだ方がいいな。完全に日が沈んだら真っ暗だぜ?」
「その際は私かお嬢様が照らしますのでご安心を」
その方法も一応最終手段としては考えていたが、バフラムとの海戦時にばてた姿を見ちまったからなァ……いざって時のためにあまり使わせたくないんだよなァ……。
「まァ、それは最終手段な……」
アタシ達は狭い洞穴の奥へと進んでいった。
もしかしたら無駄足なのではないかという考えが浮かんだが、なるべくそういう事を考えない様に頭の奥に仕舞い込んだ。
それから更に奥に進むと人影が見えてきた。
アタシは身構えた。
アタシらが言えた事じゃないかもしれないが、こんな所に居るなんて普通じゃねェ。どう考えたって不審者だ。
アタシはレーメイとオーレリアの前に腕を出し、制止する。
「オイ。お前ェ何やってンだ?」
人影はゆっくりとこちらに振り向いた。
どうやら男らしく、適当に切った髪とくたくたになっているコートはどこか浮浪者の様な印象を与えた。
「おやっ? こんな所に人が来るなんて予想外だねェ」
「耳クソ詰まってんのかー? アタシは『何やってる』って聞いたんだがな」
「おぉっとこいつは失礼。お答えするぜ」
男はコートの襟を正す。
「俺はヴェリタ・チェルカーレ。ちょっとここで調べ物があってね」
「調べ物とは?」
レーメイが尋ねる。
「そいつは言えないな。依頼なんでね。金貰ってるからには守秘義務があるんだ」
依頼……こいつ、探偵とかか? 何を探してるのか分からんが、もしこいつが探してるのが『黎明』だったら、かなりマズイな……。
さて、どうするか……。
アタシはこいつが探偵であるという前提で、対処法を考える事にした。




