第15話:トゥーリバー上陸
アタシはカモメの鳴き声で目を覚ました。
隣を見るとレーメイはまだ寝息を立てており、オーレリアは横になったままだった。
アタシ達だけだったらこのまま寝ていてもいいかもしれないが、一応ここはヴィアベルの婆さんから借りてる部屋だ。他にも乗組員達がいるし、いつまでも寝てる訳にはいかないか。
アタシは体を起こし、伸びをする。
やはりこの倦怠感は慣れない。どうにも気持ちが悪くて嫌になる。
「おはようございます。キセガワ様」
どうやら大分調子が戻っているらしく、オーレリアが話し掛けてきた。
「おう。おはよう。調子はどうだ?」
「はい。もう問題ありません。御迷惑をお掛けしました」
オーレリアはベッドから立ち上がると、関節を解す様に動かした。
アタシは窓の外を見る。
「そろそろ陸が近いのか?」
「どうでございましょう? 確認しに向かわれますか?」
「……そうだな」
アタシはレーメイの事を任せ、一人部屋を出た。
アタシは後どの位掛かるのか確かめるため、甲板へと上ってきていた。
マストには見張りがおり、周囲を見張っていた。
アタシは船の向かっている先を見る。
向こう側には陸地が見えており、海へと繋がっている川も確認出来た。
「……そろそろか」
アタシはレーメイを起こすため、部屋へと戻る事にした。
部屋に戻ると、レーメイはまだスヤスヤと寝息を立てていた。まったく、お気楽なもんだ……。
アタシは近くへ寄り、頬を摘まむ。
「オイ起きろ。そろそろ着くぜ?」
「んー……ぅ……」
声を掛けたが起きやしない。どこまで暢気なんだこいつは。
「オイ! クソガキ! 起きろって!!」
アタシが耳元で叫ぶとようやく目を覚ましたらしく、虚ろな目をしたまま体を起こした。
「おはようございますお嬢様。身支度をいたしましょう」
「ん……」
レーメイはフラフラと歩きながら、オーレリアの側に近寄った。
オーレリアは懐から櫛を取り出すと、レーメイの髪を梳かし始めた。
こいつこれが仕事なんだろうけど、よくやるよな。わざわざ、毎朝毎朝他人の髪を梳かすなんて、アタシには出来ねェな。
しばらくすると、髪を梳かし終わった様でオーレリアは櫛を収めた。
レーメイはもう大分目が覚めている様で、足元もしっかりしていた。
「ありがとうオーレリア。いつも悪いわね」
「いえ。これが私のお仕事ですから」
レーメイとオーレリアがこちらに近付いてくる。
「すみません。お待たせしました」
「気にすんな。それより、そろそろ着きそうだ。婆さんのとこに行くぞ」
アタシ達は部屋を出て、広間へと向かっていった。
広間に辿り着くと、婆さんが座っていた。
「よお婆さん。そろそろだろ?」
「おや、あんたら結構早起きなんだね」
「おはようございます! ヴィアベルさん!」
レーメイが元気よく挨拶する。
「朝から元気なこった! しっかり挨拶出来るなんて立派な事だよ!」
レーメイは少し照れ臭そうにしていた。別に照れるほどの事でも無い様な気がするが……。
そんな彼女の横でオーレリアが口を開く。
「ヴィアベル様。あなた様から御意見を頂きたいのですが」
「何だい?」
「もしトゥーリバーに『黎明』を隠すとしたら、どこに隠しますか?」
「どこに、か…………そうだねぇ、もしあたしが隠すならテスラ川の辺にある小さい洞穴……あそこに隠すかねぇ」
テスラ川……さっきアタシが甲板から見た川だろうか? もしかしたら、あの時には見えなかったもう一つの川かもな。
「その洞穴ってのは何かに使われてたりすんのか?」
「あたしも詳しくは知らない。でも、一番人目につかないのはあそこだと思うよ」
なら、最初にそこを探すか。もし見つからなかったらもう一つの川やらを探せばいいか。
オーレリアが頭を下げる。
「御意見ありがとうございます。参考に致します」
「そうかい。少しは参考になったんなら良かったよ」
その時、船内に鐘の音が鳴り響いた。
どうやら、着いたみたいだな。いよいよ新しい土地か。
「着いたみたいだね。他の奴らが足場を繋ぐから外で待ってな」
「ああ。助かる」
アタシは二人を連れ、出口へと歩いていく。
すると突然ヴィアベルの婆さんから呼び止められた。
「待ちな」
「あ? 何だよ?」
「……今度は踏み外すんじゃないよ?」
こいつ……それ言うためにわざわざ呼び止めたのかよ……! いちいち掘り返してくるんじゃねェよ……!
「ああ! わーってるよ! 問題ねェって!」
ちょいと腹立たしかったが、それ以上は言わない様にして広間を後にした。
外に出ると陸はすぐそこであり、シップジャーニーの人間達はお互いの船を板で繋ぎ始めていた。
すると、まだ板が置かれていないにも関わらず、ペスカが船同士の隙間を飛び込える様にしてこちらにやってきた。
「おはよう! お待ちかねのトゥーリバーだよ!」
「おう。世話になったな」
「へへっ、いいって事よ! それより、提督から聞いたんだけど、あの……何だっけ? 『黎明』とか言うの? 私も探した方がいいかな?」
「探してくれりゃ嬉しいが、まァ無理にとは言わねェよ」
「そっか。分かった! じゃあ私他の準備あるからもう行くね! 気を付けていってらっしゃい!」
そう言うとペスカはまた飛び跳ねる様にして船を渡っていった。
まったく元気な奴だ。アタシにはあそこまで動き回る力はねェな。
アタシ達は用意された足場を渡り、陸を目指して進んでいった。
その途中、スバルが壁にもたれ掛かったまま話し掛けてきた。
「もう行くのかよ」
「……ああお前ェか。こっちにも用事があるからな」
「あんた、オレに嘘つくのかよ?」
多分こいつはあの怪魚の件について言ってるんだろう。
「嘘はつかねェよ」
「ふざけんなよ! こっから出て行こうとしてんじゃねぇかよ!」
ハァ……これだから短絡的な考え方しか出来ない奴は嫌いなんだ。どうしてこう、もっと考えるって事が出来ねェのかなァ……。
「ずっと出てく訳じゃねェよ。やる事やったら戻ってくるさ」
「……約束しろよ」
スバルは顔を背け、そのまま喋らなくなった。
……心配すんなよ。約束は絶対に守る。何があっても、絶対にな……。
アタシはそのまま返事をせず、先へと進んでいく。
「スバルさん……助けてあげたいですね」
「……お前ェは自分の事を先にどうにかしないとだろ。他人を心配すんのは後にしろ」
「……はい」
いくつもの船を渡り、いよいよアタシ達はトゥーリバーに上陸した。
グリンヒルズとは違い、トゥーリバーはあまり発展しておらず、地方の村と言った感じだった。
「ようやく着いたな」
「ええ。ヴィアベル様の仰っていた場所に向かいましょう」
アタシ達はヴィアベルの婆さんが言っていたテスラ川へ向かうため、近くの家で聞き込みをしようと歩き出した。




