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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
堪えきれない答えに応える章
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炬章 欺瞞

黄炬、と気さくな声に振り返ると、そこには伯珂がいた。

「倍くらいの年齢なのに随分仲がいいのね」

伯珂はもう四十路を越えている。それなのに自分の半分ほどの年しかない黄炬によく絡んでくる。不思議なことだ、と瑶燐は思った。

「やー、男ってのはこれくらいのガキに色々ちょっかい出したくなる年齢なんですよ」

未熟な青年に人生の先輩としてあれこれ口を出して世話を焼きたい年頃なのだ、と伯珂は言う。特に黄炬は素直によく言うことを聞くので教えがいがある。

そう答える伯珂に瑶燐は目をすがめる。教えたことを素直に飲み込むから扱いやすいだろう、と言外に皮肉られている気がするのは自分の良心の呵責のせいだろうか。

「男の友情ってのは年代を無視するもんなんですよ。…なぁ黄炬?」

「えっ、あ、まぁ…たぶん?」

そんな二人のやり取りを、そう、と瑶燐は聞き流すことにした。そういうものなのだろうか。そういうものなのだろう。理解はできないが了解はした。

「まぁいいわ、私は先に行くから」

気になることがあるので報告しに行く。ちらりと伯珂を見やった瑶燐は踵を返した。余計なことを言ったら殺す。そう視線に込めて歩き出した。


「やっほー、どうだった?」

転移装置で瑶燐が移動した先は一級が集う会議室だった。通信機越しに玖天が出迎える。それに応え、瑶燐は所定の位置に座った。

「表向きは普通。だけどやっぱり怪しいわね」

怪しいというのは伯珂のことだ。あの拠点襲撃の際、彼もやはり征服者(ヴィクター)征伐に出払っていたのだが、その報告に曖昧なところがある。

近隣の住民の目撃情報から推察するに、伯珂が向かった先には"零域"使用者がいたはずだ。だが、提出された報告書にはその事実は書いてない。"零域"使用者と相対していないことになる。

いないはずがない。拠点を手薄にするためにヴァイスの人間をおびき寄せるのだ。餌にかかり、まんまと来た獲物に使わない理由がない。まさか四級程度で"零域"使用前に先手を取って倒したなどとはありえない。

交戦したとも報告書に書かれている。なのに異形と戦ったという事項がない。その矛盾が引っかかる。

「そもそも、奴らは誰の手引きで拠点に侵入できたの?」

先んじて内部に潜入していたメンバーの手引きで拠点に侵入を果たしたと言っていた。絖と交戦した相手がそう言っていた。その手引きとは誰のことだ。

まだ残っているのでは。そう推理するのは自然なことだった。そして伯珂の矛盾のある報告。もし、もし。それがつながるのなら。手引き役は伯珂だとしたら。

「手っ取り早く拷問しちゃえば?」

霜弑を膝に載せた捌尽が笑みを含む。そうするのが一番早い。

捌尽の提案に瑶燐は首を振る。伯珂は四級ながら、長らくヴァイスに所属している古株だ。個人としても親しみがあるし、ヴァイスの一員としても信頼している。だからこそ瑶燐が葬った少女の後始末を任せた。

それを疑うのは少し心苦しい。尋問にかけるのは抵抗がある。

「もう少し様子を見ましょう」

「それは問題の先送りだよ、瑶燐」

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