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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
襲撃の始劇の章
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襲章 刻撃

「あっちゃぁ」

頭と胴が分離した男を見、征服者(ヴィクター)の科学者である男は頭を掻いた。

危ないところであった。強い魔力を感じて咄嗟に床に伏せてよかった。伏せたところで攻撃をしのげるとは思えなかったが、どうやら伏せてみて正解だったようだ。伏せなければ今頃あぁなっていた。命拾いした、と彼は胸を撫で下ろした。

「こりゃもうダメだな」

ヴァイスの拠点へ差し向けた戦力が叩き返されただけでなく、本拠地も襲撃を受け、そして首領はこの通り首が飛んだ。これでは征服者(ヴィクター)は終わりだろう。

もう少し続けたい研究があったのだが仕方ない。"獣王の角"と呼ばれる古い文献だ。求めているものにきっと近いと科学者の感が告げていた。ここでじっくり腰を据えて調べたかったのだが、こうなってはそんなことも言っていられない。

機材はもうあの異次元の輪の中に撤収している。あとは自分の身の安全を確保して逃げるのみ。それからのことはそれから考えよう。

「逃げるが勝ちってね」


「オッケー、…たぶんネ」

あとは征服者(ヴィクター)の頭領である男の首を回収するだけだ。それを示せばひとまず征服者(ヴィクター)は壊滅したといっていいだろう。各地に残党は残るだろうが。

「アンシャル、お願いネ」

「承りました。愛おしく呪わしき我が主よ」

"灰色の賢者"の意を受け、神はその風の力を行使する。

まずは突風を起こし、断ち切った首を風に乗せて白槙の足元に転がした。流れる風は血のにおいも瓦礫の埃も吹き飛ばす。その風が渦を巻く。複雑な気流は徐々に形をなしていき、触れたものを粉砕する風の刃となって渦をなす。

「巨大なミキサーダネ」

巻き上げられた土埃で薄茶色をした竜巻を見、"灰色の賢者"は現状をそう評した。

がりがりと風の刃が征服者(ヴィクター)の本拠地を破砕していく。岩は石に。砂に。もっと細かい粒子に。竜巻はその刃に触れたものを挽き潰していく。瓦礫も灰も血も死体も何もかも一緒くたに刻んで挽いていく。

それは白槙にとっては長い時間に感じられた。しかし実際にしてみればほんの少し、時計の長針が指す数字が3から4に変わった程度の時間であった。

「ゴクローサマ。戻って」

ぱちん、と"灰色の賢者"が手を叩く。主の要請に従った風の神は、現れた時と同じように門の中に身を翻す。

「御機嫌よう、愛おしく呪わしき我が主」

そう言い残して風の神は石門の中に消えた。ぎぃ、と軋んだ音を立てて閉じた門は出現の光景を逆再生したかのように門扉の模様を点滅させ、やがて指輪となって"灰色の賢者"の手元に戻った。

それを指にはめ直し、"灰色の賢者"は白槙を振り返る。どうだ、と自慢げに。これが神を従える者の力だ。"灰色の賢者"と呼ばれるその実力。

「キミもコレくらいになってネ」

「…それは、あと1000年必要ですね」

こんな規格外になれと言われても困る。白槙が困ったように唸ると、ソウダネ、と彼女は苦笑した。

魔力持ちですら稀。魔力を持とうとも適合する武具に出会えない者もいる。条件が揃って魔法を発動できたとしても、せいぜい武器に変ずるものや炎や氷を作り出すものが多い。神を召喚する武具を扱うなどは稀少中の稀少。召喚に成功したとしてもそれを従わせられるかは。

いくつもの難題がある。現代で、先祖返りのように古代人同様の魔力を持つ白槙でさえ最後の壁は超えられていない。

「気概はソレくらいほしいナってハナシだヨ」

さて、と"灰色の賢者"は話題を転換する。この通り征服者(ヴィクター)の頂点の首はもぎ取った。あとはこれを示して征服者(ヴィクター)の壊滅を宣言すればひとまず事態は収束するだろう。しばらくは残党狩りと拠点の修復で慌ただしいだろうが。

通信端末から漏れ聞こえる会話に耳を傾けるに、どうやら拠点側も"零域"でもって変化した異形を全滅させ、周囲に待ち受ける幹部どもも皆殺しにしたようだ。あとは白槙の帰りを待つだけとなっている。

「久し振りにキミのトコロにお邪魔しようカナ」

壊されてはいないと思うが、拠点に敷かれた障壁と転移装置の様子を見るついでだ。個人的な知り合いとも久し振りに旧交を温めたい。

しばらくの宿と食事を頼めるか。"灰色の賢者"の問いに白槙は快く返事した。断る理由などありはしない。

「やったネ! …じゃぁ、送っていくよ。"ラド"」

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