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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
襲撃の始劇の章
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襲章 滅撃

消耗戦だ、と捌尽は思った。

異次元に繋がる輪の中から無数に這い出てくる人間だったもの。何も持たぬそれは生身で捌尽に迫ってくる。殴ったり蹴ったりだとか積極的に攻撃してくるわけではない。虚ろな声を出しながら、腕や足にしがみつこうとしてくるだけだ。まるで助けを求めるかのように、縋り付こうと手を伸ばしてくる。ただそれだけだ。

「あ、ぁ…ぁあー、あー…」

「ぅぁああ…あ……あぁ……」

言葉にならない声を漏らし、ただ向かってくるだけの人形。手を伸ばし、縋り付こうとしてくる。その腕と首を切り飛ばし、捌尽は一撃で何人も切り伏せている。しかし、切った側から新たなそれが補充されてしまう。

「人海戦術。どうよ?」

その様子を見て、科学者である彼は実験データをクリップファイルに挟んだ書類に書き込んでいく。

何十人といようと一蹴する実力が一級にはある。だが、それが何百、何千といたらどうだろう。どこまで耐久力があるのか。今回の実験はそれだった。

ついでに諸々の実験結果の処分を兼ねている。異次元に繋がる輪から出しているのは今までの実験で廃人となった人々だ。万に届くか届かないかの人数がいる。

いくら"撃滅"と言われようと、所詮は人間。これだけの数が相手になれば消耗し、いずれは力尽きる。

「さぁて、頑張れよ」

その予測を彼は後悔することになる。


死体。死体。死体。そこにあったのはおびただしい数の死体であった。

文字通り山を築く死体の上に捌尽は立っていた。返り血を浴びてはいるが怪我ひとつない。

「…9657。これで終わり?」

この程度で消耗するかなどと。愚かなことだ。"撃滅"の名はその程度ではない。刀ひとつで一級の統括の地位に立つ捌尽にとってこの数は大した脅威ではない。どれほどいるかわからなかったので、体力温存のために返り血を避ける労力を捨てたが、このくらいなら避けておけばよかった。避ける体力も数える集中力も残っている。

「ただの有象無象? これだけ?」

つまらない。あんな虚ろな有象無象など手応えのない素振りに近い。そんなものを何回繰り返したところで満足は得られない。飢えた凶暴性が潤いを求めて軋む。

この男を斬れば少しは凶暴性も満たされるだろうか。"徒桜"を彼に向ける。斬らなければ。斬らなければ。殺さなければ。そうでなければ自分が自身の凶暴性に飲み込まれて殺される。生きるために殺さなければ。焦燥に近い殺意がきらめいた。

「おいおいおい、非戦闘員だっつーのぉ!」

慌てて彼は宙に浮かべた銀輪を回収する。くるりと手のひらの上で一回転させ、もう一度放る。すぐさま拡大し異次元の道を作った輪の中に飛び込んだ。その残像を"徒桜"が斬った。

研究者の彼を飲み込んだ輪は急速に縮小し輪を閉じる。最後に、ぱちん、と音がして気配ごと消え去った。

空間転移系の武具で移動したのだろう。データとやらは採取できたようだし、おそらく行き先は征服者(ヴィクター)の拠点だろう。

帰ったのか、とつまらなさそうに捌尽は輪のあった空間を見つめた。足りない。撃滅の戦鬼はまだ血に飢えている。このままでは自身の殺意に殺される。死ぬ。死んでしまう。

「誰か僕を止めてよ」

どうか、と誰もいない空間に呟いた。

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