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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
襲撃の始劇の章
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襲章 凍撃

西の街道は氷の道に成り果てていた。

決着は一瞬。瑶燐の"魔力感知禁止"の法の撤廃と同時に魔力を注ぎ込み、すべてを凍結させた。

天さえも凍りつかせるほどの強力な冷気は交戦という言葉を霜弑に与えなかった。刃が交わる前に終わった。征服者(ヴィクター)も何もかも氷の中だ。

「…"アブソルテゼロ"…とんでもない威力だな」

我ながら、と苦笑し、右耳のピアスに触れる。ついこの前の任務で三級の誰かが持ち帰ったこの武具は、霜弑の魔力に適合した。それならばと白槙から与えられたものだ。

絶対零度の名を持つそれは攻撃のための武具ではない。術者の持つ氷の武具を強化する補助用のものだ。

こういうように、魔法を発現するのではなく、魔法を補助するものもあるのだ。魔力でも武具の能力でも勝てない差を埋めるためのものだ。うまく使えば何者をも凌ぐ。

そう言われ、試しに使ってみたものの、その補正に霜弑は目を瞠った。

氷剣"ラグラス"の威力は恐ろしいほど上がった。視界に映る何もかもを凍らせるなどという芸当、以前なら倒れていた。それがどうだろう。しっかりと両足で立っている。

「…だからといって振り回せはしないんだがな…」

残念ながら幅広の刃を持つ大剣を振り回せるほどの膂力はない。片手で持つのがせいぜいだ。振り回すことが出来たら、氷だけでなく斬撃も攻撃方法に加わっただろうに。

霜弑にできるのは"ラグラス"の力を用いて氷を生み出すだけだ。空気中の水分に干渉して凍らせる。大剣としての機能はまったく使えない。扱う腕力がない。

それに、自分が斬る必要はない。斬撃ならば捌尽がいる。ありとあらゆるものを捌き尽くす撃滅の戦鬼。普段は穏やかな優男の表情をしているくせに、その奥底にとんでもない凶暴性を飼っている。

今回、普段あれだけくっついているというのにあっさりと離した。理由はひとつだ。その凶暴性を解き放つため。

腹の底に飼う薄暗い凶暴性を解放した捌尽は目に映るすべてを斬り殺す。恋人だろうと仲間だろうと敵だろうと関係ない。"撃滅"の名の通りすべてを滅ぼす。

悲鳴をすすり血を眺め、満腹になって落ち着くまで凶暴性は暴れる。飢えた刃が満足するまで絶対に止まらない。自分自身ですら止められないものを一体誰が止められるというのか。

だから、そうなった、あるいはそうする予定の捌尽は霜弑を遠ざける。刃の届かないところまで。目に映らないところまで。

「…捌尽、俺は…」

暴走に陥った者を恋人が救う。よくある物語のありふれた場面。そんなものは夢物語の中でしかない。現実はこうだ。暴走ひとつ止められはしない。

だから霜弑は待つ。捌尽がその凶暴性を宥めて腹の底の檻に閉じ込めるまでひたすら待ち続ける。無力を嘆く心に爪を立てながら。冬の朝の霜のように静かに心を凍らせて、待つ。

「…捌尽、捌尽、捌尽――」

どうかその心が自らの凶暴性に殺されませんように。

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