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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
襲撃の始劇の章
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襲章 廃撃

「交戦時間26分41秒。ま、予想通りとはいかンなぁ」

予定では30分もつはずだった。そうぼやく声を捌尽は捉えた。

物陰の安全なところから観測するように白衣の男が立っていた。

「おっと、俺はただの研究員。戦いはパスだ」

よれた白衣の男は降参するように両手を挙げた。

ただの実験のデータ採取のためにここにいるので戦闘は専門外だ。非戦闘員に手を出すなんて勘弁してくれな、と言う男は征服者(ヴィクター)の研究者であると名乗った。

「ってなわけで初めまして? 俺の作った新"零域"の味はどうよ」

一度は葬られて製法を発掘し、成分を改良して作り直したのだ。それはもう大変だったんだと聞かれてもいない苦労を語り始める。

何回も実験したし、その分だけ失敗があった。投入された実験動物の数はおびただしい。動物だけではない。人も含めて。

「へぇ、それは大変だったね。でも、それ、もう攻略されているよ」

残念なことに、と捌尽は彼の努力を笑う。開発にどれだけ時間をかけたのか知らないが、たった一晩でリグラヴェーダが攻略した。彼女の前ではどんな薬物も解析され無効化される。

「知ってらぁ。"魔淫の女王"にはかなわねーよ」

ヴァイスの手にレシピが渡ったという知らせを聞いた瞬間からもう彼の中で、"零域"による異形化での戦力向上は諦めている。

そして作り上げた代替手段があれだ、と彼は少女の死体を指す。

集団の戦力を上げるにはどうしたらいいか。個々の能力を向上させればいい。だが、個々の能力には限界がある。いずれ天井にぶつかって伸びなくなる。

ではそうなった時、どうしたらいいか。戦いに不要な部分を削げばいい。邪魔なものが減っただけ詰められる。

改良という名のそれに耐えきれず命を落とす人間も多かった。あまりにも人道を外れた行為だったが、征服者(ヴィクター)の連中は誰も止めなかった。それがヴァイスを砕く一撃になるのならと喜んで承認したし、中には自ら改良を受ける者もいた。

「ンで、アレはモルモット一号」

そして唯一の成功例でもある。

最初ということで加減したのが功を奏したらしい。あとに続くものは皆耐えきれずに絶命した。

「大したことなかったよ」

「だろーなぁ。ま、人間っつースペック上あれ以上は無理なンだわ」

魔力を持たぬ人間を、魔力持ちと互角に渡り合えるだけの力を与えるのは難しい。唯一の成功例であった少女も、この作戦のために間に合わせで投入した。結果はあの通り、あっさりと撃破された。

「ンまぁ、データが取れただけでもいいンだがな」

彼自身もあれで捌尽の首が取れるとは思ってはいない。今回は試験導入だ。どの程度の改良でどの程度の戦果になるか。そのデータを元に、新たなものを作ればいい。

「で? データ取るだけなのになんでわざわざ現れたの」

データが取れた段階、つまり少女が倒れた時点でもう用は済んだはずだ。長居は必要ない。戦闘員でないならなおさら。

早々にデータを持ち帰って改良とやらをすればいいではないか。それとも斬られたいのか。撃滅の戦鬼は彼を見据える。

「言ったろ。データ採取だって」

なにも実験動物はひとつではない。そう言うと、彼は薄汚い白衣のポケットから何かを取り出す。それは、銀の輪であった。指輪にしては大きいし、腕輪にしては装飾が少なすぎる。棒銀を曲げただけの輪にしか見えないそれを、彼は空中に放り投げる。

「実験その2」

輪が大きくなる。人が容易にくぐれる程度まで膨張する。

その輪の中が別次元へ繋がる。不安定に揺らめく影のようなそこから、手が現れる。次いで足が、頭が胴が。

輪から這いずるようにして現れたそれは大量の。

「…人…?」

人ではない。かろうじて人の形を保っただけの何か。その目には光がなく、その顔には表情がなく。感情も思考も言葉も、人としてのすべてを何処かに置いてきたような。

「気持ち悪いね」

「所感どーも」

成程これに相対した時、こういう感想を抱くのか。いいデータが取れた。彼はぼやいて白衣の裾にメモを取った。

「ンじゃぁ、実験開始といくかね」

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