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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
襲撃の始劇の章
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襲章 快撃

「まったく、水葉ったら」

人使いが荒いんだから。瑶燐の呟きは闇に紛れて消えた。

拠点には東西南北に大通りがあり、それらを繋ぐように通りがあり、裏路地がある。拠点を囲む塀などない。一時は塀を作る案もあったのだが、拠点の規模があまりにも広すぎて塀を作るには難しいということ、そして何より、安全な境界を作ってその中に居るというのは壁の連中と変わらないのではないかという心理的な抵抗が案を却下させた。事実規模だけでいえば首都を囲む壁と変わりない。

しかしそのまま開放するには無防備すぎるということで用意されたのがこの障壁である。"灰色の賢者"が作り上げたそれは東西南北の大通り以外のすべてを遮断する。六角形状の薄く透明な板を貼り合わせたような障壁は通りにだけアーチ状の穴があり、そこしか往来ができないようになっている。そこ以外の通行は不可能。

障壁が形成された今、征服者(ヴィクター)の者たちは四方の道にそれぞれ待ち受けている。それを一級が各個撃破する。それが水葉の提案した作戦だった。

「ま、がんばってください。僕ら一級がさっさとやっちゃった方が早いので」

各地に派遣して帰還しつつある二級以下でも相手取れるだろうが、今は壊滅状態にあるだろう拠点に一刻も早く戻ることが先決。そのための火力は惜しまない。たとえ過剰戦力でも。

「それに自分で叩きたいでしょう、結構腹に据えかねてるみたいですし」

「そうねぇ。好き勝手してくれちゃったものねぇ」

瑶燐にとってヴァイスは絶対なくてはならないものだ。その心酔と執着は狂信者と呼ばれるほど強い。少しでも脅かされれば執拗に排除にかかる。そんな瑶燐にとって今回の事態は絶対に看過できないものだ。

南の街道担当の瑶燐の語尾が妙に伸びている。粘るような絡みつくような喋り方だ。この口調の時は相当怒りに燃えている時だということを水葉は知っている。怒りに呑まれないように、わざと間延びした喋りをすることで逸る気持ちを抑えている。

その口ぶりの下で、怒りを発散するためにどういたぶろうかと考えているのだ。怒りが発散できるように、なおかつ怒りを解消しきるまで相手を殺さないように。さじ加減を考えている。

「霜弑、捌尽。そちらはどうです?」

東の水葉が問う。西は霜弑で北は捌尽だ。無名は連絡がつかなかったので作戦の概要を報せるメッセージを送った。そのうち東西南北の誰かに合流するだろう。しなければしなかっただ。今更彼の自由奔放さにをどうこう追及はしない。するだけ無駄だ。

「大丈夫。霜弑、怪我しないでね」

襲撃の報を聞いて戻ってきた二級の何人かと合流し、北側に陣取った捌尽が頷く。

作戦の概要を聞いた時、捌尽は意外なことに霜弑と離れるのを反対しなかった。任務より私情を優先する捌尽が、である。絶対に一緒でなければ嫌だと文句を言うかと思っていたのに。

水葉はあえて理由を問わなかった。質問して水を差したくはなかった。本人が一人でいることを了解したので、やる気がある内に進めてしまおう。終わったあとで、離れていた間を埋めるように執拗に霜弑を求めるのだろうが、それは霜弑に頑張って宥めてもらおう。水葉の知るうちではない。

「…あぁ」

捌尽の心配する声に頷く。氷を厚く張って防御すれば大丈夫だろう。

霜弑がかすり傷でも負おうものなら捌尽は誰も手がつけられないほど激高する。紙の端で指を切っただけで血相を変えるのだ。その後処理が面倒なので霜弑は怪我だけには気をつける。

「準備できたかしら?」

互いの配置を確かめた瑶燐が頭上に浮かぶ銀のプレートを見る。瑶燐の敷いた絶対の法で彼らの気配は隠されている。それを解除し、気配を晒した時が作戦の始まりだ。

「"ジャッジ"――」

瑶燐の法は様々だ。発動すれば法はすべてを縛る。しかも範囲は術者の意のままである。だが強力な分、いくつか条件がある。

まず常時発動型であること。常に何かしらの法が敷かれていなければならない。術者を殺すか武具を破壊するか、その他の武具の干渉がない限り、常に発動する。

そしてその効果範囲は一定以上の広さを持たなければならない。特定の個人にしか有効でない法など法でないからだ。複数人が入るように、術者の目が届く程度の範囲を必ず対象にする。その範囲は限定的であればあるほど魔力の消費が多大だ。

そして最後に、複数の法は施行できないことだ。新法を敷くために旧法を撤廃しなければならない。

「――"魔力探知禁止"を…」

魔力を持つ者は、同じく魔力を持もつ人間を感知できる。その範囲は人によるし感知の仕方も様々だが、ある程度近くにいればわかるものだ。ちなみに瑶燐は気配のようなものとして捉えている。

魔力探知禁止の法は、その感覚を規制する法である。発動すれば感覚を規制して鈍らせる。魔力持ちなのかそうでないのかの判別を不可能にする。その状態で気配を隠せば、隠密はいともたやすい。

「解除、…"集中攻撃禁止"!」

拠点を覆う障壁よりも広い範囲に敷いていた旧法を撤廃し、自身の周囲にだけ新法を敷く。同一対象への複数回の攻撃は2撃目以降が無効化される。攻撃を通すには他の対象を挟むか、初撃で仕留めなければならない。一撃で倒さなければならない暗殺者である瑶燐にはあってないような法だ。

「さぁ、覚悟はいいかしら?」

残酷に笑い、瑶燐は駆け出した。


さぁ、潰しに行こうか。

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