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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
襲撃の始劇の章
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襲章 遊撃

「ハサミ、だめにしちゃったや」

経費を無駄にしたと怒られるだろうか。迫り来る気配を感じながら玖天は頭を掻いた。

背後に庇う部下たちの緊張を和ませるために、あえてどうでもいいことを口にして気を抜く。玖天が倒れたらここは陥落する。最後の頼みなのだと祈りながら役目に従事する部下たちの緊張が伝わってくる。

「来たねぇ」

すっと背筋を伸ばした玖天の視線の先、まろぶように異形が姿を見せる。駆け込んできた異形は玖天の、というより自身以外の人間の姿を見つけて破壊の狂喜に躍る。

それを見据え玖天は自らの武具を発動させる。首から下げているペンダントの丸玉を握る。

「暴れん坊さん、楽しい"カーニバル"で遊びましょー」

ペンダントトップの丸玉が形を失って空気中に融解する。それに代わって、玖天のすぐ側に色とりどりの紙で包装されたおもちゃ箱が出現する。重力を無視してふわふわと宙に浮くそれは玖天の性格をよく表していた。

「どーれーにーしーようーかーなー」

軽快に歌いながら玖天はおもちゃ箱に手を突っ込み中を探る。その間にも異形は迫ってくる。指先程度に見えた距離がもう掌程度だ。狂喜とともに肉薄する異形。しかし玖天は楽しそうな笑みを崩さない。

「決めたっ」

ようやく玖天がおもちゃ箱から手を抜く。見せびらかすように頭上に掲げたその手に握られていたのは赤と白の縞模様のフラフープであった。

「遊んでないでくださいよ」

見守っていたオペレーターの一人が溜息を吐く。

彼らは玖天の能力を知っている。だから玖天が呼び出したものがおもちゃ箱でも、そこから取り出したものがフラフープであっても大して驚かない。

「遊んでもいいですけど、ヤバくなっても誰も助けられないっすよー」

「わかってるってー」

ひらひらと片手を振った玖天は気を取り直して目の前に迫りつつある異形に向き直る。

「さーて、玖天ちゃんの曲芸、はっじまるよー」

言うと同時、異形へフープを投げる。輪投げの要領だ。いささか輪は大きいが。

見事フープは異形の頭にすぽんと入り、肩のあたりで斜めに引っかかる。だがそれが何の意味があろう。異形の進撃は止まらない。

「第一幕! タネも仕掛けもいっぱいあります!」

おもむろに玖天が指を鳴らす。その瞬間、異形は不意に動きを止めた。呼吸さえも忘れたかのように一歩も動かない。否。動けない。

それは輪をかけた相手を拘束するフープだった。まるで輪で締め付けるかのように動きを奪う。見えない輪で雁字搦めに縛りあげるのだ。

フープによって動きを止めさせた玖天は再度おもちゃ箱を探る。取り出したのは何の変哲もないナイフであった。4本のナイフの刃を指に挟んで持つ。まるで曲芸のショーのようだ。

「第二幕、はじまるよっ!」

そしてダーツの要領で異形に放る。ナイフは異形の眉間、両目、胸を的確に貫く。だがそれで絶命する異形ではない。武具によって動きを止められながらも、怒りの灼熱の瞳で玖天を見る。

「心臓の弱い方はご覧になりませんよう。…なんちゃって。第三幕!」

そして、異形の内部から無数の刃が飛び出た。四方八方、様々な角度から異形の身体を貫いていく。内臓から引き裂かれた異形はただの肉塊と成り果て、ぐしゃりと地に落ちた。

「次の公演いきまーす!」

異形が絶命したことで拘束の意味を亡くしたフープを手元に戻し、玖天は次の獲物を狙う。異形は生者の気配をたどって次々と現れる。

的に困ることはないだろう。幸いにも曲芸のタネは豊富にある。

「よし、頭50点、両目それぞれ10点、心臓30点。目指せ満点ノーミスクリア!」


玖天の二つ名。それは彼女の持つ武具に由来する。

"カーニバル"と名付けられたそれは玩具のような凶器だ。ボールやフープ、投げナイフといった曲芸の道具を模したそれは様々な効果をもたらす。フープは行動の停止を、ボールは意識の混濁を。ナイフは無数に分裂し斬り刻む。無邪気な遊びに見せかけた残酷な凶器。

術者である玖天の性格と、そして武具の特徴。それらを合わせて玖天はこう呼ばれる。


目まぐるしく狂い乱れさせて翻弄する。故に"狂乱"と。

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