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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
襲撃の始劇の章
53/112

襲章 反動

緊急警報を示す音が白槙の耳元で鳴った。

「…そういうことか…」

その瞬間にすべてを理解する。見事に嵌められた。悪い予感は当たってしまった。

「理解が早くて助かります、白槙さん」

にこりと人のいい笑顔を浮かべ、壁の中の住民である男性は軽く手を振る。それを合図に控えていた護衛が素早く白槙を囲み、銃を突きつける。

「我々はあなたに、荒区を支配するため遺物の力を持つことを許しました。壁の外で何が起きても我々は構いませんからね」

魔法だの武具だの魔力だの、そんなものは壁の中には関係ない。あの隔絶された絶対安全領域にはあらゆる害意は及ばない。壁の外がどうなろうとも関知しない。それが壁の内外の取り決めだ。

荒区がどうなろうとも関係ない。勝手に灰にでも瓦礫にでもなってくれて構わない。だが。

「力をつけすぎては壁が脅かされてしまいますから」

「それは壁の総意か?」

「どうでしょうか?」

さてどうしようか。白槙は心中で呟いた。どうやら壁の人間が征服者(ヴィクター)に力を貸しての今回の騒動だろう。理由は今しがた話されたことだ。力をつけたヴァイスによる壁への侵略を恐れている。

そんな意図は毛頭ない。壁の人間は壁の中で勝手にやっていてくれ。内外は完全に断して互いに一切関知しない。その取り決めの通りに。

問題は、侵略されてしまうのではと危惧したのが彼ひとりなのか、壁の中の住民全員なのか、だ。彼一人なら取り決めを破って干渉してきたので、と斬り捨てることができる。壁の連中も独断で干渉した彼が悪いと責任を求めてこないだろう。だが連中の総意の場合は。

どのように対応しようか考えあぐねている白槙の背後で扉が開け放たれる。

「誰」

誰何の声は途中で途切れ、次の瞬間、4つの首が白槙の周囲に転がった。銃を突きつけていた護衛だったものが高級な絨毯に沈む。

「な…!?」

乱入者の姿に彼は言葉を失う。その首をレイピアがはねた。ごとり、とテーブルに落ちた首を見、白槙はやれやれと言いたげに溜息を吐いた。

「殺すなんて…止めてくださいよ」

まだ何も聞き出していない。それなのに首をはねるだなんて。不満げな白槙に乱入者はふっと笑む。

「助けてアゲたのにソノ言い草?」

レイピアを指輪の形状に戻し指にはめた乱入者――"灰色の賢者"は小さく首を傾げた。礼を要求されている。とりあえずありがとうございます、と白槙は礼を述べた。

「コノコトは彼の独断だヨ。ソコの秘書カラ吐かせたノ。今は首ナシダケドネ」

応接室の外で転がっている死体を指す。そして手をひらめかせた。その手には手帳が握られていた。秘書から首をもぎ取る際にいただいたと言う。

そこから1ページ切り取って白槙に渡す。地図が貼り付けてあった。

「キミとキミの組織に手を出したバカの本拠地だってサ」

地図を受け取った白槙はようやく安楽椅子から立ち上がった。これだけの規模の襲撃なら総力戦だろう。ヴァイスのメンバーを各地に散らすため、手薄な拠点を襲撃するため、あちらの守りも薄いはず。

拠点襲撃などした落とし前はきっちりとつけてもらおうか。

「ボクはネ、ヴァイスにはナニもしない。デモ、キミにはしてアゲル。…さ、オネガイしてごらんヨ?」

賢者がまるで母親のように微笑む。白槙は迷わず膝をついた。

征服者(ヴィクター)拠点を潰します。…助力をお願いします」

「ん、オッケー!」

お願いしてみろと大層に言った割にはすぐさまあっさりと了承された。

「デモ、イイノ? キミがいなくてヴァイスは困らナイ?」

「大丈夫ですよ」

彼らを信じていますから。それに。


「あの性根の腐った曲者の集まりがそう簡単にくたばるとは思えない」


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