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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
無限に望む夢幻の章
47/112

任務 霧幻

線路を疾駆して程なくそれは見えた。レールを塞ぐようにして立つ5体の異形。

「黄炬」

水葉の合図に頷いて、黄炬は火球を創生して異形の1体にぶつける。首を焼かれ、残された胴体が崩れ落ちる。残りがこちらを凝視し身構える。

「線路、焼かないでくださいね」

水葉が子供特有の身軽さで線路の枕木を蹴る。黄炬を追い越し、異形を見据える。その顔は玩具を見つけた子供のようでもあり、獲物を見つけた獣のようでもある。

「瑶燐、"借りますよ"」

口の中で小さく呟き、手の甲まで覆う長めの裾に隠された右手をひらめかせる。その手に握られたものを見て黄炬は驚く。

何も持っていなかったのに、ということではない。武具なら力を発現されればそうなる。だがそうではなく、黄炬が驚いたのは持っているものの方だ。

「死を導け、骸を招け、我、与えしは…」

水葉が唱えているその口上は。聞き間違えるわけがない。

「"岩の如く"」

瑶燐にしか扱えないはずの災いであった。


黄炬の思いに反して問題なく災いは撒かれる。瑶燐のものであるはずの銀輪が水葉の手の中で輝き、一瞬の閃光とともに発動する。光を受けた異形達は、その口上の通り硬直する。岩のごとくに。

動きを止めた異形を指し、水葉が一言、新たな災禍を招く。

「…"別れの宣告"」

ばしん、と何かが弾ける音とともに、異形の1体が爆散した。

「うーん、瑶燐のようにはいきませんね」

瑶燐ならばもっと綺麗に爆ぜさせる。死体を見て水葉が小さく苦笑した。

「なら、変えましょうか」

水葉の言葉を受けて銀輪のかたちが崩れる。砂のように崩れ拡散したのも一瞬、すぐに新たな形をなす。

「黄炬、"借ります"」

水葉の手の中で新たに形をなしたそれは、黄炬のものであるはずのそれ。呆然とする黄炬をよそに、水葉は3つの火の玉を作り出す。そしてそれを硬直が解けた異形にそれぞれ投げつけた。被弾し、灰になる異形。すべてが燃え失せた頃、水葉は振り返り子供特有の無邪気さで微笑んだ。

「ほら、終わりましたよ」

「…どうして…?」

武具はそれに適合する魔力の持ち主にしか発動できない。たとえどんな強大で膨大な魔力を有していても。だから瑶燐の武具は瑶燐にしか発動できない。黄炬のそれも黄炬にしか。そのはずである。そう教えられたし実際そうだ。

なのにどうして水葉は。そんなことを考えている黄炬に水葉は答える。

「だから言ったでしょう、"借りる"って」


水葉の持つ武具。その名を"ドッペルゲンガー"という。

それ自体は固有の形を持たず、非発動時は銀の粒として水葉の周囲に拡散している。そして発動の際には粒が集まって形をなす。

しかし"ドッペルゲンガー"は固有の形を持ない。そこで他の武具の形を借りる。そして能力も複写する。他者の形と力を借りて顕現する偽りの影。だから"ドッペルゲンガー"。

偽りの影を扱うが故に水葉はこう呼ばれる。


不定形の幻でもって惑わす。故に"幻惑"と。

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