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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
郷人による凶刃の章
42/112

断章 薄闇

「…"灰色の賢者"?」

きょとん、と玖天は目を瞬かせた。その存在を知っているか、という黄炬の問いに、くわえていた棒付き飴を落としそうになる。

"灰色の賢者"。それは"大崩壊"以前からいたと言われる人物だ。名前も素性も知られておらず、ただその通称だけが知られている。

それについてヴァイスの情報管理を担当する玖天なら何か知っているのではないか、と黄炬が訊ねたのだ。

「うーん、知ってるけど」

答えてやってもいい。データベースに"灰色の賢者"についての情報はある程度載っている。それを引き出して黄炬の端末に送ってやればいい。

「自分で調べてみたら?」

自分で調べて、出てきた膨大な量の情報を自分で整理してみたらいい。ついでに苦手な長文への耐性もつくだろう。

倉庫には"大崩壊"より前に発行された古書から読み取った情報や複写が保存してある。それを見てみたらいい。

かくして黄炬は資料室などというところに送り込まれたのである。


「ははぁ……それでか」

任務に必要な情報を探しに資料室に来たらお前がいて驚いた、という伯珂は納得したように頷いた。その書架を探る伯珂の左の薬指に光るものを見つけた。

「あぁ、これか?」

黄炬の視線がそこに留まったのを察して伯珂が左手をかざす。

「嫁と子供がいたんだ。5歳の娘がな」

とてもよくできた妻だったしとても賢い娘だった。だが自身の魔力の目覚めによって死んだ、と彼は語る。黄炬のように住んでいる区画丸ごとひとつ吹き飛ばしたわけではないが、同じようなものだ。周辺地域を消し飛ばしてしまった。それにはもちろん、側にいた妻も娘も巻き込まれた。

「これは噂だけどな」

武具と魔力持ちは引かれ合う、というのだ。道具が術者を求めるのか、術者が道具を求めるのか、とにかく武具がそこにある時、それを扱える魔力持ちが近くに存在する。逆もしかりだ。

その性質を利用して、ヴァイスはわざと所有者のいない武具をばらまくのだ、というのが伯珂の話だった。武具をばらまき、触れたものが魔力に目覚めたら回収する。覚醒の際にどういう惨事が起きるかを知っていて。

「…ま、対抗組織が流した流言さ」

回収した武具はすべてあの被虐趣味の倉庫番が保管するので無為に持ち出すことはない。きっと誰かがヴァイスを貶める目的で流した噂だ。真実味など一切ない。

「さて、俺はもう行くかな」

必要な資料はすでに頭に入れた。用事が済んだので次の任務に備えて待機しておく、と伯珂は言う。何よりここは火気厳禁なので煙草が吸えない。

「じゃ、頑張れよ、黄炬」


刈り取ってくれ、と苦渋に満ちた顔で頼まれたことを瑶燐は忠実に実行した。彼女の実家であり今はもうないあの暗殺を生業とした一族に伝わる秘技を披露した。

痛みも苦しみもなく死んだ。と思う。死者の苦痛など知ったことではないので知らない。大事なのは少女の心臓を抉り抜いて殺したということだ。

もう終わった。後に憂いは残らない。黄炬には適当に言っておこう。彼は少女が何処の出身の誰かなど知らない。適当に言えば信じるはずだ。

「白い悪徳のために」

ヴァイスのために。狂信者は呟いた。幼少の頃からヴァイスにいる彼女には組織しか無い。故にヴァイスの存続のためなら何でもしてみせる。瑶燐が狂信者と揶揄される所以だ。

歪んでいるなどと捌尽を罵ったが、自分も変わらない。瑶燐だって歪んでいる。否。

「みんな歪んでるわ」

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