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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
郷人による凶刃の章
37/112

任務 殺意



「痛ぇ…」

強かに顎を打ったために黄炬の視界に星が散る。舌を噛まなかったのは幸いだ。

「…加減できなかったんだ」

黄炬を床に叩きつけた張本人は少し申し訳なさそうにしながら伏せた姿勢から立ち上がる。黄炬もそれに倣って身を起こす。

床に叩きつけられた時、何が起きたかわからなかった。今も把握に手間取っているが、恐らく霜弑へ向けた下劣な言葉が引き金となって捌尽が激怒、そして抜刀。捌尽の手が柄に触れた瞬間を見て、霜弑が呆けている黄炬の頭を掴んで床を伏せさせた。加減を間違えたようだが。この一瞬の間にそういうことがあったのだろう。

「僕の霜弑に何言ってるの」

"零域"を持っているなどという幻想の優位など覆せ。抜刀の際の剣圧で下卑た笑いも嘲りも侮りもすべて吹き払った捌尽は刀のきらめきよりもずっと鋭い眼光で彼らを見据える。

「僕の霜弑に酷いこと言う奴なんか"徒桜"で滅多切りにするだけじゃ許してあげない」

"徒桜"と名のつけられた刀を一番手近にいた男の眉間に突き刺す。素早くて首を捻って空気を入れる。噴出した血は刀を抜くついでに避けた。

「…刺してるぞ」

霜弑が呟く。その手には氷の大剣。持ち主の怒りを反映して絶対零度の冷気をはらんでいる。

「は、自ら地獄に落ちるか!」

どんなに武具の発動が早くとも、一人を殺している間に他の誰かが"零域"を服用する。だからこその人数差。武具を発動し能力を行使する間にここは地獄に変わる。

そんなに阿鼻叫喚がお望みならやってやる、と捌尽の抜刀を合図に薬を含んだ。ばきばきと音を立てて身体が骨格から作り変えられていく。魔力持ちとそうでない者の差を零にする領域へ踏み込む。零にする。否。覆す。絶対的な純粋な暴力によって。

「だって、ねぇ。考えてもご覧よ。どうして人数差だけで優位と思ったの」

僕は、と異形を斬り捨てながら捌尽が続ける。

「僕は一級の統括なんだよ」

あの一級を取りまとめているのだ。先頭に立つものはその集団で最も強いものでなくてはならない。つまり捌尽はヴァイスの中でニ番手にあたる。頂点はもちろん白槙だが、しかし彼はあまり前線に立つ人物ではないから実質前線においては捌尽が頂点だ。

それを怒らせたらどうなるか。こうなるに決まっている。阿鼻叫喚の地獄だ。にっこりと穏やかな笑みを貼り付けて刀を振るう。目は笑っていない。

抜刀地点から周囲をあらかた斬り終えた捌尽は、そこで斬る手を止めた。

「動きなんて止めなくていいのに」

斬り口がやたら綺麗だということに疑問を覚え、そしてすぐに結論を導き出した捌尽は霜弑を振り返る。

「…俺だって頭にきてるんだ」

氷剣を提げた霜弑がばつが悪そうに目を逸らす。氷剣"ラグラス"は単にものを凍らせる剣ではない。水分を支配下に置いて操る。凝固せよと願えば氷になるしその逆も可能だ。その支配できる水分は人体の水分も例外ではない。

霜弑はこの建物内にいるすべての異形の体内に干渉し、その血中に含まれる水分を凍らせて動きを止めさせたのだ。

「後は的当てかよ」

「…そういうことだ」

動きは止めてやる。だがそれまでだ。潰すのは捌尽と黄炬の担当になる。すぐに諒解した黄炬は巨爪を振るう。嫌な音とともに一体が半分になった。その音に耳を塞ぎたくなったが、耳を塞ぐ代わりにもう一体。

全身を使って巨爪を扱う黄炬に対し、捌尽が動かすのは右腕のみだ。淡々と斬り捨てていく。

かなりの数を斬っているがその斬れ味は落ちない。刃こぼれも血曇りも、刀身を鈍らせるそれを一切起こさない。不朽の刀が"徒桜"だ。それ以外の特殊な力などない。霜弑のように凍らせるわけでも、瑶燐のように動きを制限するわけでもない。魔法のような特殊な力など無い。だが捌尽にはそれでいい。最も単純だからこそ最も強い。

不朽の刀を携え、ひたすらに斬り刻む。その姿から彼はこう呼ばれる。


すべてを両断し、敵を撃ち滅して捌き尽くす。故に"撃滅"と。



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