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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
郷人による凶刃の章
36/112

任務 害意

捌尽が強引に黄炬を任務に連れて行った。白槙の元にそう報告が来たときにはすでに拠点に彼らの姿はなかった。

「あの馬鹿…」

苦虫をまとめて噛み潰した表情を浮かべる。確かに黄炬の炎の武具は"零域"で変化した異形を始末するのに手っ取り早い。加えて新入りに武具の扱いの経験を積ませるには鍛錬場で練習するより実際に任務に駆り出すのが早い。だからといって連れて行くか。

黄炬が魔力に目覚めて数日。まだ慣れぬこともあって気苦労が絶えないだろうから今日は休みにしてやろうという心遣いが無駄に終わった。そもそもあの任務は捌尽だけに発令したものである。黄炬だけでなく霜弑も連れて行くのか。うっすら予想はしていたが、まさか。

「苦労するわね、リーダー」

たまたま報告書を直接手渡しに来た瑶燐が白槙の心中を察して苦笑する。セリフは慮っているように見えるが声音はその逆だ。

「わかってるなら労ってくれ」

白槙は溜息しか出ない。まったくどうしてこいつらはこう曲者だらけなんだか。

「あらあら、リーダーはお疲れみたいね」

「誰のせいだ、誰の」


白槙が気苦労に悩まされているその時、彼らは征服者(ヴィクター)の熱烈な歓迎を受けていた。

「これが全部霜弑ならなぁ」

どうせ囲まれるなら霜弑がいい、などと訳のわからないことを呟く捌尽。工場に入ってみれば、待っていたとばかりに取り囲まれて今に至る。ひしめき合う者たちは皆一様に錠剤を手にしている。

数でいえば圧倒的な状況。いくら一級といえど、この数の異形に囲まれればひとたまりもないだろう、と彼らは思っていた。それが侮りであると気付かずに。

「僕が片付けるね」

そっと黄炬と霜弑に囁く。捌尽が刀の柄に手をかけたら這うほど低く身を屈めろ、と。左腰に提げた桜の意匠の打刀を示すように小さく揺らす。

「誰から死ぬかの相談は決まったか?」

"零域"を持っている。それが優位だと信じて疑わない。この人数が異形と化しいっせいに暴れればこの建物ごと粉砕するだろう。だがそれでいい。この工場はヴァイスをおびき出すための餌だから捨てても惜しくない。

さすがの一級も異形一体にかなり苦戦していた記録がある。時を経て技術を磨き、一体程度なら片付けられる力があったとしても、百を越える人間が異形化すればひとたまりもないだろう。この予想が彼らの自信を確固のものにしていた。

「うん、誰から死ぬか決まったよ」

「ほほう、それで切腹でもするのか?」

下劣な笑いが捌尽へ降る。捌尽はそれを黙殺した。こんな嘲笑など聞き流すに限る。後ろで恋人が霜のような怒りをにじませている。

霜弑の心を揺らすのは自分だけでいいのに。霜弑の逆鱗に触れた一言を発した男からまず先に斬り殺そう。

「土下座して命乞いするなら使ってやるぜ。なぁ」

「おいおい、そんな趣味があったのか」

「――へぇ」

絶対零度が降りた、と思った時には、黄炬の身体は床に叩きつけられていた。


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