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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
災厄と最悪の章
34/112

断章 浅夢


そこにあったのは絶望の光景。

彼女の視界には嫌に光る太陽と、それを受けて輝く故郷の残骸が映っていた。

「そんな……」


「悪いけど、伯母さんに荷物を届けてくれるかい?

そう言われて梱包された箱を渡された。母のお願いに頷いて、受け取ったそれを大事に抱える。

「一緒に行こうか?」

「大丈夫よ、お兄ちゃん」

治安が良くない方に分類される地区といえど、このあたりはそれほど荒んでいるわけでもない。少女が一人出歩くくらいなら問題がない。少し隣の区に行くだけだ。荷運び用のトロッコを改造した鉄道を使えばすぐだ。

いい学校に行って壁の近くに住んで、家族に楽をさせてやるのだという目標を抱え、勉強のため机に向かっていた兄の申し出を断る。これくらいの距離なら付き添いなどいらない。それより兄は勉強に打ち込んでもらわないと。

「行ってくるね、お母さん、お兄ちゃん」


「伯母さん、こんにちは」

久し振りに会った姪を伯母はいたく歓迎してくれた。母から渡された荷物の中身は、伯母への祝いの品だった。

「誕生日だったの!?」

最近会っていなかったが、伯母にはよくしてもらっている。それこそ生まれる前から。それなのに誕生日の祝いひとつ用意できなかったなんて。

知らなくて何も用意していなかった。そう申し訳なさそうに告げると、伯母は笑って姪の頭を撫でる。

「いいんだよ。それより学校はどうだい?」

息子と夫を亡くした伯母にとっては姪と甥の存在は自分の子のようなものだ。もちろん妹も大事に思っている。

「学校? 大して変わりはないよ。あ、でもね」

この前こういうことがあったと学校の様子を話し始める。伯母は相槌を打ちながら聞いていた。

「歴史の授業の一環でね、遺跡発掘体験ってのをしたの」

遺跡も何もないただの空き地なのだが、雰囲気だけでもそれらしく、ということで教師陣が企画したものだ。

ただの穴掘りに終わるはずのそれだったが、なんと驚くことに土の中から銀の腕輪が出てきたのだ。誰が埋めたのか、などと話し合っていたら急に教師陣が慌ただしくなり、そしてそのまま発掘は終了してしまったのだと。

「そこからあの空き地が立ち入り禁止になっちゃって。なんだったんだろうね」

「誰かの大事なものだったのかねぇ?」

「かもしれないね。綺麗な銀色の腕輪だったもの」

そういえば、と話を転換しかけたその時、つけっぱなしの情報端末から緊急の放送が入った。


「362-5区画が謎の爆発により消失」


「え…?」

ふたり揃って言葉を失った。原因は不明だとか、死傷者の人数だとか、立ち入り禁止措置を発令だとかすべてを聞く前に少女は駆け出していた。

立ち入り禁止措置が取られている以上、鉄道は使えない。だから少女はその足で走った。走らずにはいられなかった。


そこにあったのは絶望の光景。

彼女の視界には嫌に光る太陽と、それを受けて輝く故郷の残骸と。

「そんな……」


そこに埋もれた、母と兄だったものの――



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