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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
災厄と最悪の章
31/112

任務 実行

「邪魔なのは片して…と」

瑶燐の手がひらめく。武具でも何でもない、何の変哲もないダガーが男たちの喉を裂いて殺す。残るは完全に肉体変化を遂げた異形だけであった。

「さて黄炬…って、あら?」

任務を始めよう、と言いかけて振り返ったら黄炬が変な姿勢で硬直している。何があったのかと考え、そして原因に思い当たった。

「ごめんなさいね、対象から外すの忘れてたわ」

ぱちん、と瑶燐が指を鳴らす。その途端黄炬の身体に自由が戻った。あらあら、と笑う瑶燐は笑って誤魔化す気のようだ。

「さて、任務始めましょうか」

瑶燐が小瓶を取り出す。リグラヴェーダが作った中和薬とやらだ。これの実験と"零域"そのものの入手が今回の目的だ。地面に落ちていたカプセルを拾って空き瓶の中に入れる。これで入手の課題は終わった。あとは中和薬の実験だ。

「体内に摂取…ね」

くすくすくす。耳に貼り付く声で笑い、瑶燐は小瓶の蓋を開けた。そして口を開けたまま硬直している異形の口へ流し込む。液体が喉の奥に流れていったのを確かめると、数歩下がった。

「黄炬、準備して」

動かすわよ。言うが早いか振り撒いた災いを解除する。自由を取り戻した異形は怒りの声をあげるより先。

「さぁて、リグのお手並み拝見」

瑶燐の声にかぶるように血を吐いてその場に崩れ落ちる。もがく異形の灼熱の瞳を受け流し、瑶燐はただそれを見下ろす。吐血と痙攣を何度か繰り返し、異形はそのまま事切れた。

「あら、死んじゃったかしら」

完全に動かなくなった異形を見下ろし、瑶燐は口元に手を当てる。傍らに座り込み、その顔を覗き込んでみる。ぴくりと異形の手が僅かに動いた。

「危ない!」

黄炬が叫ぶと同時、死んだと思われた異形がその巨腕を振るう。力任せに振るわれた腕は瑶燐にぎりぎりのところで届かなかった。捉える寸前、黄炬の巨爪が割り込んで瑶燐を守る。

「やぁねぇ、驚いたわ」

リグの薬、役に立たないじゃない。そう呟いた瑶燐は再び災いを撒く。今度はきちんと黄炬を対象から外して。効果の災いが異形を捉えて縛りあげる。

「黄炬、片付けましょう」

これ以上収穫はないだろう。そう判断した瑶燐が黄炬に指示する。燃やして灰にしてしまえ。動かないから絶好の的だ。

黄炬がコントロール出来るすべての魔力を費やして火球を作る。異形を炎が飲み込んだ。骨も断末魔もすべてを熱で掻っ攫って。熱風が黄炬の頬を撫でた。

焼け落ちた。そのはずだった。煤を孕んだ煙を突き抜け、異形の腕が黄炬を捉える。喉を掴み、突進の勢いでそのまま傍らの鉄柱に押し付けた。

「黄炬!」

瑶燐がわずかに焦った声を出し、銀のプレートを取り出す。が、異形の手に力が込められたのを見、その手が止まる。何かしようものならこのまま黄炬は縊り殺されてしまう。

「動クナヨ?」

ゆっくりと異形が喋る。歪で濁った声音だ。

リグラヴェーダの薬は確かに"零域"を中和し異形の体組織を破壊した。しかし破壊は同時に再生への布石でもある。肥大した筋肉を破壊したことで、肉に圧迫されていた声帯が機能を取り戻したのだ。そして"零域"を中和したことにより破壊衝動が抑えられ、結果として異形に理性が戻った。知無き化物は知在る化物へと進化したのだ。

「最悪ね…」

「ソウカ? オレハ最高ダ」

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