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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
災厄と最悪の章
30/112

任務 桎梏

瑶燐の高らかな法の宣言は征服者(ヴィクター)である彼らにも届いていた。

「ヴァイスだ!」

「くそ! いつの間に…」

慌てふためく彼らに火球が降り注ぐ。人を狙う気などまったくないそれは窓を破って床を焦がす程度だ。挑発だ。こうやって煽って外に出てくるのを待っている。

「面白ぇ…!」

やってやる。"零域"を手に彼らは建物の外に出た。


「来たわね」

楽しそうに瑶燐は笑った。余裕を見せつけるように高台の上で男たちを見下ろす。

「ナメやがって!」

くらえ、と彼らは腰に提げた銃を瑶燐に向ける。銃口が火を噴くと察して黄炬が巨爪を呼び出す。この盾のような爪が弾を防ぐ。しかし瑶燐は邪魔と言わんばかりに手を払った。

「病み上がりだから下がってて」

銃など意味はない。瑶燐が嘲笑う。弾丸は確かに発射されている。しかし瑶燐の3歩前で不可視の障壁によって弾かれていた。黄炬と瑶燐に届いたのは初弾だけ。しかしそれも黄炬の巨爪によって阻まれた。

「今の法は"集中攻撃禁止"。初弾しか有効じゃないわ」

誰か一人に複数回攻撃することを禁止している。もし複数回攻撃しようとすればこのように不可視の障壁が阻む。これは瑶燐たち側にも適用される法なのだが、残念ながら法の施行からまだ一撃たりとも攻撃していないので法の網にかからない。

まだ銃口は火を吹いている。しかしすべて法の壁によって阻まれる。絶対に届かない。やがて諦めたのか、一斉掃射が止む。その隙を見て瑶燐が別のプレートをかざす。

「変更」

さっき上空に投げ、そして宙に浮いたプレートが手元に戻ってくる。それを左手で受け取って右手で別のプレートを投げる。旧法は撤廃され新たな法が宣言される。

「"強化禁止"」

新たな法が彼らの"零域"の使用を禁ずる。弾切れを起こした銃を捨て、それを服用しようとした彼らの手から"零域"がこぼれ落ちる。白いカプセルは、ぽとり、と地面に落ちた。

「だめよ、そんなことしちゃ」

違法でしょう、と瑶燐が笑う。嘲う。嗤う。悪い子はお仕置きね、と瑶燐の右手がひらめく。右腕のブレスレットが鳴った。

「"咲き誇る災い"」

上空のプレートが浮力を失って落ちる。それを受け取った。

「死を導け、骸を招け、我、与えしは――」

法は失効した。縛るものは何もない。だが代わりに、呪いが撒き散らされる。

「"岩の如く"」

落とした"零域"を拾い、しかしそのたびに不可視の衝撃が薬を弾く。そんなことを繰り返していた男たちの動きが静止した。法が失効し呪われる前の僅かな間に"零域"を服用し異形になった者も、その変形過程で不自然に動きを止めている。

それはまるで岩の如く。


待て、ちょっと待て。

彼らと同じように動きを止められた黄炬は動かない身体で必死に訴えた。自分まで止めることはないだろうに。声が出たらそう言うだろう。しかし指先どころか視線すら動かせない。まるで岩になったかのように。


瑶燐が"呪禁"と呼ばれるのは絶対の法があるからではない。もう一つ、対象の行動を制限する武具がある。その名を"咲き誇る災い"と呼ぶ。詠唱に特定の文言を添えることで様々な"災い"を相手に与える。毒や麻痺に始まり、身体の硬直から五感の略奪まで。まさに呪いだ。

"呪禁"の二つ名はそこから来ている。法と呪い、どちらが欠けても成立しない。法の執行と死の桎梏。


災いで呪い、法で禁ずる。故に"呪禁"。

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