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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
初めと始めの章
27/112

休章 二題

「あははー、大変だったね、姫ちゃん」

画面の向こうで棒付き飴をかじりながら玖天が笑う。その愛称について指摘することはもう諦めた黄炬は、溜息を吐いて机に突っ伏した。

大変とはどちらのことだ。任務のことか、医務室のことか。どっちにしろ災難だったが。しかし災難はまだ終わらない。黄炬にとってある意味最大の難題がここにあった。

「報告書めんどくせぇ…」

曰く、任務から戻ってきたら必ず各自報告書を書き上げることになっている。それを作成するために黄炬は今、この情報管理室で端末相手に格闘しているのである。こういうのは初めてだろう、と玖天が気を利かせて画面越しにだが教示してくれている。だがその用紙は半分も埋まっていない。霜弑は霜弑で自分の部屋にこもってしまったし、頼りになるのは玖天だけである。だがそれも報告書の書式についてだけで、内容については結局黄炬の手腕による。

「無理……」

「あははー、がんばれ! …おっと、姫ちゃんごめん」

仕事に戻るね、と玖天が棒付き飴を噛み砕いて一方的に通信を切る。再び表示されるほぼ白紙の画面。もうお手上げだ。

「兄ちゃん、大丈夫か?」

途方に暮れた黄炬に声がかかる。見てみれば、黄炬よりも二回り年上の男性が机から身を乗り出してこちらを見ていた。

「あんた新入りだろ?」

黄炬が首肯すると、彼は、当たり、とさらに身を乗り出す。もう腰まで乗りそうな勢いだ。ぎし、と机が悲鳴を上げて、男が慌てて机から降りる。そして黄炬の横へ移動した。

「オレは伯珂(はっか)。四級だ」

お前は、と聞かれ黄炬は素直に自分の名前と階級を告げる。いい名前だな、と感想が返ってきた。

「まだ入ったばかりでわかんねーだろ、オレが色々教えてやるよ」


「出来たわよ」

黄炬が報告書に四苦八苦している頃、リグラヴェーダは霜弑を薬局へ呼び出していた。捌尽もついてきたが構わないでおく。

頼まれていた"零域"の解析が終わったのだ。仕様書にあった成分表をもとに効果を推測し、過去のものとの差異を洗い出す。その作業が終わった。

「詳しくは書類にあるけど」

そう前置きして解析結果を霜弑に告げる。今回の"零域"は従来のものより成分が濃縮されている。異形化のための服用量が一錠で済む程度まで。つまり最初から肉体強化ではなく異形化を目的としたものだ。

「で、もののついでなんだけど」

こん、とリグラヴェーダが小瓶を霜弑に渡す。瓶の中身は緑色の液体で満たされていた。何かと問うと、中和薬、と返ってきた。どうやらこの間に成分解析だけでなく中和薬まで作っていたようだ。相変わらず手を回すのが早い。

「理論上は効くと思うわ」

服用でも注射でも、とにかく体内に入れさえすれば、"零域"の効果を中和して無効化する。だが、あくまでも無効化。それによって異形化した肉体が戻るわけではない。中和された結果、どうなるかまではわからない。

「…それを確かめてこい、と」

「そう。ついでに"零域"自体も欲しいわ」

成分表を見るだけではわからないこともある。実物を手に入れてみなければ。適当な誰かに服用させてその効果を見るまではしないとは思うが、必要があればそれもやるかもしれないということも添えて。

「それが次の課題だから、よろしくね」

さらりとリグラヴェーダは難題を押し付けた。


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