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荒廃した街で、退廃した俺たちは  作者: つくたん
初めと始めの章
26/112

休章 一服

拠点へ帰るなり、霜弑はその足でリグラヴェーダのもとへ向かった。

「あら、どうしたの?」

薄暗い部屋の中で何やら薬を調合していたらしいリグラヴェーダが顔を上げる。霜弑の顔色が良くないのは照明のせいではないだろう。あと数時間もすれば限界だろうか。そんなことを見定めているリグラヴェーダの眼前に、霜弑が懐にしまった書類を差し出した。

「…解析を頼む」

薬師は何も作るだけが仕事ではない。こうして成分表をもとに分析することも仕事の内だ。リグラヴェーダが何故それをできる知識を有するのかはこの際置いておく。

「えぇ、わかったわ」

以前のものとは違うようだ、ということを読み取ったリグラヴェーダは楽しそうに頷く。薬師としての矜持に火が付いたのだろうか。早速解析を始めようと机に向かう。

「終わり次第連絡するから、その間に報告書でも作っておいたら?」

「…そうさせてもらうさ」

その前に、と視線をずらす。霜弑が見た先は医務室だった。


「あの」

「なぁに、坊や?」

治療のための準備を整えながら、梠宵はにっこりと微笑んだ。

「肩を治すのに拘束は必要ないんじゃ…」

間接で外された肩を治してこいと医務室に送られた黄炬はどういうわけかベッドに縛り付けられている。しかもかなり厳重に。

「あら、だって肩外れたんでしょう?」

折られたのではなく、間接できれいに外されている。だったら嵌める。それだけだ。ちなみに麻酔などはしない。まるでパズルのように、外れてしまった間接を嵌め直すだけだ。

「……ご褒美…いいな…」

何故かいる絖が心底羨ましそうに呟く。倉庫番の役目はどうしたんだと指摘しようとした黄炬の口に丸めた布が押し込まれ、そして。

一瞬の間を置かず左肩に激痛が走った。


壁越しに聞こえたくぐもった声に霜弑は首を竦めた。哀れなことに、とても過激な方法で治療されているようだ。だから怪我はするものじゃない。

一撃で倒さなければ反撃を受ける。反撃を受ければ怪我をする。そして待っているのはあの加虐趣味の女医による治療だ。どんな拷問よりも恐ろしいあれだ。だから怪我はするものじゃない。絶対に。

いい勉強になっただろう。一撃で倒さなければどうなるか。こうなるんだ。恐らく黄炬は身にしみたに違いない。痛みで学習できたならもう繰り返さないだろう。そう思いながら霜弑は診察室の扉を開けた。

「…殺してないだろうな」

「あら霜弑」

今ちょうど治療が終わったと梠宵が指す。見てみれば確かに黄炬の脱臼は治っていた。激痛に暴れて跳ねている。涙目で悶ているが拘束のせいで満足に動けない。猛獣用の鎖が鳴る。そのまま拘束の中で存分に暴れて痛みを発散した黄炬は、口に押し込められた布を吐き出して苦々しく呟いた。

「俺…もう絶対怪我しない…」

「あらあら、ちゃんと嵌めてあげたでしょう?」

しかも一撃できちんと。これでうまく嵌まらなければまた外すところからだ。何度だってやり直すからね、と梠宵はさらりととんでもないことを言ってのける。その背後で絖が自分の肩を掴んで呟く。

「……肩…外そうかな……」

「自分で怪我するような駄犬は捨てるわよ」

絖のささやかな企みを梠宵がぴしゃりと止める。絖は渋々掴んでいた肩から手を離した。せっかく自分で外して梠宵に嵌めてもらおうと思っていたのに。


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